2012年2月1日水曜日

NHK大河ドラマの「タルカス」

今年も早2月になってしまいました。
さてみなさんNHKの大河ドラマ『平清盛』視てますか?たぶん視てないよね。歴代の大河ドラマの視聴率ランキングでワースト3位らしいから。でも、うちは視ている。うちの奥さんが昨年の『江』が好きで視ていたので、その流れで今年も何となく。

それで『平清盛』の初回を視ていたら、私にとっては、ごくごくおなじみのメロディが流れてきたので、ちょっとびっくりした。これ「タルカス」じゃないの、エマーソン、レイク&パーマーの。
エマーソン、レイク&パーマー(以下EL&P)は、1970年代のイギリスのプログレッシブ・ロック・バンドである。「タルカス」は、彼らの2枚めのアルバム『タルカス』に入っている表題曲。
テレビから聴こえてきたのは、この「タルカス」をオーケストラ・バージョンにアレンジしたもののようだった。

しかし、日本の平安時代のお話と、EL&Pという取り合わせはかなり突飛だ。他の劇伴の曲は、このドラマ用のオリジナルのようなのだが、そこになぜこの曲だけを唐突によそから持ってきたのか。もしかしてメロディが似ているだけの別曲なんじゃないか、と半信半疑の気持ちもぬぐえなかった。
そこでネットで調べてみたら、本当にあれは「タルカス」だったのだ。いったい平清盛とEL&Pにどんなご縁があったのか(その次第は、ネットで調べるとすぐわかります)。

ところでNHKの大河ドラマは、その演出法が以前から少々鼻についていた。登場人物たちの感情の表現が、とにかく極端なのだ。台詞まわしが大げさで、登場人物たちはしばしば怒鳴りあっているようにしか見えない。これは「視聴者の皆さま」の誰にもわかり易くするための配慮ゆえなのだろうか。
それともうひとつ、いつの時代の誰を主人公にしていても、何だか話が小さくなってしまうのも面白くない。事件は常に「外」で起こっていて、お話そのものは結局、主人公周辺の人間模様に終始してしまう印象がある。言ってみればホーム・ドラマの歴史版みたいな感じ。
毎年話は変わっても、この点はいつも変わらない。大河演出の型となって受け継がれているのだろうか。
ところでEL&Pの音楽の特徴を少しひねくれた言い方で言えば、「大仰」ということになる。
『平清盛』とEL&P、両者は奇しくもその「大仰」であることにおいてもつながっていることになる。

ネットによるとこの大河ドラマの「タルカス」の一件は、世間ではかなり話題になっているらしく、知らないのはどうも私だけだったようだ。
そういえば先日、EL&Pの二枚組のベスト・アルバムというのが発売された。日本独自編集とのこと。何で今この時期に?と思ったけれど、なるほど、こういうわけだったのね。
そして、こんな風に話題にのぼるとEL&Pは「至高」のプログレ・グループということになり、「タルカス」は彼らの「最高傑作」みたいな言われ方がされる。ずいぶんざっくりした言い方だ。

EL&Pの『タルカス』は、私にとってはすごく愛着のあるアルバムだ。初めて買ったEL&Pのアルバムが、この『タルカス』だった。当時高校1年の私は、例によってなめるようにこのアルバムを繰り返し聴いた。LPのA面全部を占める組曲「タルカス」はもちろん、このアルバムのすべての曲について、隅から隅まで頭の中で再生可能だ。

しかし、今から振り返ると、複雑と思えた音の構造が、意外に単純であることに気づく。だからこそ一般受けして、大ヒットしたのだろうけど。ここにはイエスの曲のようなめくるめく入組んだ音の世界はない。そしてあるように見えた思想的な深さも、じつはない。もともと、そういう人たちではなかったのだ、ということが今ならわかる。

その後しばらく、EL&Pの「最高傑作」の座には『タルカス』が座っていた。が、時代が経つにつれて『展覧会の絵』がときどきそれに取って代わるようになる。そうして現在では、彼らのベスト・アルバムと言えば、疑いもなく5枚目の『ブレイン・サラダ・サージェリー』といことになっている。
私もずっとそう思ってきた。ただ『ブレイン・サラダ・サージェリー』は、プログレというよりも、むしろハード・ロック・アルバムとして、聴いてきたような気もする。グレッグ・レイクの「大仰」ボーカルが全開のせいでもある。

私の好きなEL&Pの他のアルバムは、ファースト・アルバムの『エマーソン・レイク&パーマー』と今では省みる人の少ない4thの『トリロジー』。
とくに、ファースト・アルバムは今聴いてもじつに新鮮だ。リリカルで、ナイーブで、シャープな音を聴くことができる。開発途上でまだ出番の少ないシンセサイザーの代わりに、全面で聴けるアコースティック・ピアノやオルガンの音色が逆に瑞々しい魅力を放っている。意欲的ではあるが、「大仰」さもそれほどではない。
もしかするとじつは、これが彼らの最良のアルバムかもしれない。彼らには悪いけど。

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