2014年8月7日木曜日

クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング 『CSNY 1974』


あっという間にもう8月。毎日暑いですねえ。
さて今年の7月の私の音楽生活における最大の関心事は、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの『CSNY 1974』の発売だった。
ファンなら当然4枚組を買うんだろうなあ。3CD+DVDの4枚組で7千円也。そんなに高価というほどでもない。私もCSN&Yは大好きだから、最初はこの4枚組を買おうかと思った。しかし、「1974年もの」というのがどうにもひっかかった。1974年のCSN&Yといえば、一度解散した後のリユニオン。内容は大丈夫なんだろうか。

CSN&Yは、68年から70年のオリジナルCSN&Yが何といっても最高。私にとってCSN&Yと呼べるのは、唯一この時期の彼らだけだ。その後、現在に至るまで彼らは解散と再編を性懲りもなく何回も繰り返してきた。しかしオリジナル期以降は、急速に音楽の質が低下している。
91年にCD4枚組のボックス・セット『CSN』が出た。その時点までのCS&Nの曲を、クロノジカルに並べたものだ。したがって全体の半分以上はオリジナルCSN&Y期以降の曲なのだが、これがほとんど聴くにたえないものばかり。高いお金を払ってこのボックスを買ったことを後悔したものだ。今回もそんな後悔はしたくない。

1,974年の再編ツアーのCSN&Yは、はたしてどうだったんだろう。良いのか悪いのか。金目当てのあざとい匂いがしないでもない。しかし、もしかするとオリジナル期の音楽的な良心や熱気の余韻が、まだ少し残っているのかもしれない。
しかし、このツアーについては、当時日本でもあまり話題にならなくて、内容についての情報はほとんど伝わってこなかった。とりあえず今回のアルバムを買ってみればよいわけなのだが、私はその前にあえてじっくり検討をしてみることにした。無駄なものは買いたくないしね。
今号の『レコード・コレクターズ』誌(20148月号)が、おりしも、『CSNY 1974』特集。そこでこれを熟読してみた。4枚組の内容はだいたいわかったが、その良し悪しについてはわからない。何しろ特集記事というのは、やたらにほめまくっているからね。

ざっと曲目を見て気になったのは、それぞれのソロ・アルバムからのあまりおなじみでない曲が多いこと。これを延々3枚にわたって聴かされのはたまらんなあ。しかし、振り返ればあの名作『4ウェイ・ストリート』の曲の多くは、ソロ曲だったわけだ。それでも演奏が素晴らしくて、選曲についてはまったく気にならなかった。今回もそうなんだろうか。

いろいろ考えた結果、私が選んだ結論は、4枚組ではなくて、これをCD1枚に凝縮したエディション『CSNY 1974<エッセンシャル>』を買うことだった。最初4枚組と同時に、1枚ものも出ると聞いたときは、そんなもの誰が買うんだろうと思ったのだが、まさか自分が買うことになるとは。
この1枚ものヴァージョンには、4枚組の内のCD3枚に収められている全40曲から、16曲がセレクトされている。内訳は、エレクトリック・セット(4枚組のディスク1と3に収録)から8曲、アコースティック・セット(ディスク2に収録)から8曲と、きれいに半分ずつ。

これを選んだ理由は、二つある。ひとつは、4枚組の全40曲の中からオリジナルDSN&Yの曲がだいたい収録してあること。オリジナルCSN&Yの曲でここに収録されていないのは、「カット・マイ・ヘア」、「デジャ・ヴ」、「プリ・ロード・ダウンズ」の3曲(アウトテイクの「ブラックバード」を入れれば4曲)。クロスビー作の「カット・マイ・ヘア」と「デジャ・ヴ」が聴けないのは残念だが、これはあきらめることにする。
もうひとつの理由は、コンサートのオープニング・パートの4曲とエンディングの2曲がそのまま収録されていること。多少なりともツアーの雰囲気をしのぶことができるような気がしたのだ。
というわけで、この1枚ものの<エッセンシャル>版を発注したのだった。輸入盤はアマゾンで1400円ちょっと。これなら失敗してもいいかな、と思った。

発売日の7月23日に無事到着。
ジャケットの出来は、今ひとつ。大観衆を前にした4人を、ステージ奥から撮ったカットがあしらわれているが、アート・ワークにしまりがない。これでは内容の方もあまり期待できない感じ。
以下、各曲についてコメントするが、全体的な感想としては、やはり今ひとつの出来。とくに、オリジナルCSN&Yの売り物であった、シャープでパワフルなコーラス・ワークがどこにも見当たらなかったのは致命的。繊細さや張りつめた緊張感みたいなものも希薄で、彼らの70年のライヴを収めた『4ウェイ・ストリート』には遠く及ばない内容だった。
ただし、ニール・ヤングとデヴィッド・クロスビーの曲は、いずれも素晴らしい。まあヤングに関しては、この人が歌いだすとCSN&Yではなくてニール・ヤングの単独ソロ・コンサートのおもむきになってしまうのだったが。この二人に関しては、できれば他の曲を聴いてみたい気持ちになった。でもまあいいや。

というわけで、1枚もので買ったのは、とりあえず正解。『CSNY 1974』は4枚組ではなく、1枚ものの<エッセンシャル>で十分というのが私の結論だ。
 以下、各曲についてのコメント。


1 愛への讃歌

聴いたことがない曲が始まったと思ったら、それが「愛への讃歌」だった。いかにもスティルスらしいラテンぽいリズム・アレンジのエレクトリック・ヴァージョンだ。
オープニング曲だから、練りに練ったアレンジで意表を突いたのだろうが、全体にもったりとして、すっきりしない。スティルスのヴォーカルも、ちょっと力み過ぎ。『4ウェイ・ストリート』でのようなシャープな爽快感はない。

この印象がじつは、このアルバムの全体の内容に共通するものだった。その意味で、このオープニングナンバーは、このアルバムを象徴しているとも言える。

2 木の舟

この曲は69年のウッドストック・フェスでの名演が何といっても印象深い(映画『ウッドストック』のサントラなどに収録)。スピード感があって、ドラマチックで、胸に迫るような切実な感じがあった。
それに比べると、ここでの演奏は、集中力に欠けていて散漫な印象。スティルスのギター・ソロも、今ひとつノリきれていない感じ。これでは全然物足りない。

3 イミグレイション・マン

クロスビーとナッシュの最初のデュオ作収録曲。ナッシュのヴォーカルがちょっと力み気味で、演奏全体もオリジナルよりヘヴィーな印象。コーラスはCSN&Yのわけなのだが、あのシャープでパワフルなコーラス・ワークを聴くことは出来ないのだった。スティルスのギター・ソロは、ここでも今ひとつ。

4 ヘルプレス

『デジャ・ヴ』収録のニール・ヤングの曲。この人が出てくると、たちまちこの人独特の世界がそこに現れる。オリジナルは名曲ともヤングの代表曲とも思わなかったが、ここでの演奏はよい。
せつせつとしていて、しみじみと聴かせる。ここまでのコンサートの冒頭3曲が、どれもパッとしなかったので、この曲まできて何だかほっとする。
ヤングのギター・フレーズをまねた、スティルスの「訥弁」ギター・ソロがちょっと可笑しい。

5 ジョニーズ・ガーデン

 スティルスがマナサスでやっていた曲。いかにもこの人らしい(?)、可もなく不可もない煮え切らない曲。この曲は、個人的にはいらなかった。ヤングのギター・ソロが聴けるが、冴えはなし。

6 リー・ショア

上の曲のあと、4枚組のディスク1の後半(ソロ曲が続いている)がカットされて、次に来るのがディスク2のクロスビーのこの曲。ここからアコースティック・セットのパートになる。4枚組では、次の「チェンジ・パートナーズ」が先なのだが、スティルスの曲が2曲続くのを避けたのか、ここだけ順番が入れ替わっている。

曲は『デジャ・ヴ』のアウトテイクで、『4ウェイ・ストリート』が初出。『4ウェイ…』での演奏は、ピーンと張りつめた緊張感があって素晴らしいものだった。
この1974年の演奏は、ジョー・ララのパーカッションがポコポコと鳴っていたり、控えめながらスティルスのエレクトリック・ギターがヴォーカルに寄り添ったりと、ちょっと様子が違っている。しかし、なかなか悪くない。クロスビーの繊細で研ぎ澄まされた感覚が伝わってくる良い演奏だ。

7 チェンジ・パートナーズ

スティルスのソロ2作目の冒頭に入っていた曲。ここでは3本のマーティンD-45で、アコースティック化して演奏している。しかし、オリジナルを聴いたときも、つまんない曲だと思ったものだが、その印象は変わらず。
しかもコーラスが、せっかくのCSN&Yなのだが(Yの声が前面に出ている)、往年のCSN&Yらしいパワフルなコーラスの魅力は聴けない。

8 オンリー・ラヴ

ニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』収録のおなじみの曲。これも「ヘルプレス」同様、ヤングの声が聴こえると、たちまちCSN&Yではなく、ニール・ヤング・ワールドが立ち現れる。
素朴でしみじみとしたよい演奏だ。クロスビー&ナッシュのバック・コーラス、スティルスの控えめなピアノも好ましい。そして、アカペラで歌われるエンディンがとてもよい後味を残す。

9 僕達の家

グレアム・ナッシュの人気曲だが、私には甘過ぎてあまり好きではない。
ナッシュのピアノ弾き語りに、他の3人がコーラスをつけている。この4人のハーモニーが意外によい。繊細でデリケートなふくらみのあるコーラス・ワークを聴かせてくれる。思わぬ拾いもの。

10
 グウィニヴィア

デヴィッド・クロスビー作のCS&N1作目収録曲。
もともと名曲だが、ここでの演奏はまさに名演。このアルバムのハイライトと言える。
クロスビーのギターに乗って、クロスビー&ナッシュのハーモニーがデリケートに夢幻の世界をつむぎ出す。ライヴ録音でありながら繊細さにおいては、オリジナルのスタジオ版をはるかに上回っている。

11
オールド・マン

ニール・ヤングの『ハーヴェスト』収録曲。ヤングはこの『ハーヴェスト』で大ブレイクを果たしたわけだが、一般ウケするアルバムの多くがそうであるように、ヤングの強烈な個性は抑え気味で、私には物足りないアルバムだった。この曲もそれほど印象に残るような曲ではなかったが、ここでの演奏はなかなか良い。ヤングのギター弾き語りに、クロスビー&ナッシュがバック・コーラスをつけていて、やはりCSN&Yというよりは、ヤングのソロ・ステージの印象。
ヤングのヴォーカルは、孤独と寂寥と諦念が感じられて胸に迫る。そしてエンディングのヴォーカル・フレーズの微妙なくずし方がしみる。

12
ティーチ・ユア・チルドレン

おなじみナッシュのヒット曲。個人的には、軽過ぎてあまり好きな曲ではないので、ここに入っていなくてもよかったのだが。『4ウェイ・ストリート』での演奏に比べると、出来としては少し落ちるのでは。

13 組曲:青い眼のジュディ

この曲が、このツアーではアコースティック・セットのエンディングだったという。
 冒頭から何だか元気がない。集中力に欠けているというか、張りがないというか。結局この感じが最後まで続いていく。ギターのブレイクを活かしたり、ヴォーカルにコブシを効かせてみたり、なんていう新しい工夫も見られるが、全体としては長丁場をただ辿っているだけという印象。往年のような(といっても4年前なんだけど)精彩とシャープさに欠けていて、凡庸な演奏だ。逆にあの頃の(つまり1970年以前の)彼らが、いかに神がかっていたかがわかる。

14
ロング・タイム・ゴーン

ここから再びエレクトリック・セットに戻る。というか、ここからの3曲で、コンサート終盤の様子を再現している。

この曲は、CS&Nのファースト収録曲だが、何といっても『4ウェイ・ストリート』での激しい演奏が印象的。それに比べると今回はややおとなしい感じだ。
『4ウェイ…』で聴けたヤングの張りつめたようなギターの爆音がないのと、リズム隊の演奏が、ビートを細かくしてフラットなアレンジになっているのが、おとなしく聴こえる原因だろう。
しかしそのフラットでゆるやかにうねる伴奏に乗って、怒りをぶつけるかのように歌うクロスビーのヴォーカルが、ひときわ際立っている。めらめらと燃える炎が、じわりじわりと大きく燃え上がっていくようだ。これはこれで、なかなかの名演。ヤングのギターが控えめで爆音が聴けないのがちょっと残念だけど。

15
シカゴ

ナッシュのプロテスト・ソング。『4ウェイ…』でも、ピアノ弾き語りで歌っていたが、こちらはエレクトリック化してのバンド演奏。しかし、その分パワー・アップしたかというとそうでもない。たしかにナッシュの歌い方は、以前ょりも激しいのだが。
それにしても、この人はときどきプロテスト・ソングを歌っているのだが、何だかプロテストを商売に利用しているようなフシが感じられて胡散臭い。

16
オハイオ

ニール・ヤング作のプロテスト・ソング。これも『4ウェイ…』でやっていた曲。この1974年のライヴで、ヤングの曲はどれもよい演奏だったので、この曲がとどめをさすかと期待したが、そうはいかなかった。『4ウェイ…』での演奏に比べると、コーラスもバンドの演奏も躍動感の薄い平板な出来だ。たぶんスティルスが弾いているのであろう、ヤング風のギター・ソロは、まったく蛇足。ここでも、ヤングの爆音が聴きたかった。