2014年2月21日金曜日

金のハンバーグステーキ 十番勝負


前々回の記事で、勝負の1から5までを紹介。
前回の記事で、6から8まで紹介。
今回は、その続きとして、9と10の紹介だ。


■勝負の9 ハンバーグのロール・キャベツ

ロール・キャベツという料理がある。考えてみればロール・キャベツの中身は、ほぼハンバーグと同じだ(と、思う)。そこで、「金のハンバーグステーキ」を、キャベツで包んで煮込めば、ロール・キャベツになるのではないかと思いついた。

このハンバーグの大きさから考えて、作れるロール・キャベツは4個と判断。そこでキャベツの葉を4枚、ていねいにはがして用意した。
鍋にお湯を沸かし、キャベツの葉を茹でる。このときキャベツが破れないように注意しなければならない。しんなりするまで茹でるのに5分くらいかかった。

この間に、ハンバーグを湯煎しておく。
湯煎したハンバーグをソースごとお皿の上に取り出す。そして、お皿の上で4つに切り分ける。

切り分けたハンバーグを、ひとつずつキャベツの葉で包んで巻いていく。ふつうならここでひき肉のあんを包むわけだから、巻きながら形をきれいにまとめやすい。
しかし、今回の中身は柔らかいとはいえ、ハンバーグの断片だ。はたしてうまくまとまるか、とちょっと心配だった。しかし意外にうまい具合に巻くことが出来た。キャベツの葉の厚みとコシのおかげで、それなりのきれいな俵型にまとまった。

キャベツの葉を茹でたお湯を使って(捨てるのがもったいないので)煮汁を作る。
粉末のコンソメをベースにして、ショウガとしょう油とみりんを少々加え、塩、コショウで味を調える。最後に水溶きかたくり粉でちょっととろみをつけてみた。
小鍋に、この煮汁(というかスープ)とロール・キャベツを入れて煮る。キャベツも中身のハンバーグもすでに火が通っているわけだから、長く煮込む必要はない。煮汁とキャベツがなじむ程度でよいわけだ。

温まったら煮汁ごと深皿に盛りつける。そしてロール・キャベツの上に、お皿に残っていたハンバーグのソースをかければ完成。デミソースがかかって彩りも良く、かなり本格的に見える。
食べてみると、味はふつうにロール・キャベツ。中身がハンバーグと言われれば、それとわかるけれども、とにかくお手軽なわりに十分美味しかった。


■勝負の10 ハンバーグまん

ときどき肉まんを食べたくなる。
そういうときはスーパーで買ってきて、自宅で蒸す。蒸したてのアツアツでホカホカを食べる。いちばん美味しいのは、紀文の肉まん(3個入り)だ。大きさが大ぶりなのもいい。でも当然値段もいちばん高いわけで。

そうしたらたまたま新聞の家庭欄に肉まんのレシピが載っていた。皮は、小麦粉とベーキングパウダーで手軽にできるとのこと。
ここで、思いついたのが、中に「金のハンバーグステーキ」が入っているハンバーグまんだ。ハンバーグが丸ごと一個入っていて、まわりの皮にデミソースがじわじわとしみている様子が頭に浮かぶ。いかにも豪快で、美味しそうでしょ。

新聞に載っていた皮のレシピは次のとおり。
材料は、薄力粉200g、ベーキングパウダー5g、砂糖大さじ2、塩小さじ1/3、サラダ油1/2、水カップ1/2弱。
これをボウルでよくまぜ、さらにこねてから、1時間ほど寝かせる。これを延ばして具を包んで蒸すと出来上がり。ちなみにこれで8個分。

さっそく皮だけ作ってみた。具は包まないで、平らに延ばしたまま蒸す。北京ダックのように、この皮に肉をはさみながら食べようと思ったのだ。しかし、皮はあんまりふっくらしなかった。やや硬くてべたっとした感じ。新聞の記事もあてにならないなあ。

気を取り直して再チャレンジ。今度はベーキングパウダーを2倍の10gにして、いよいよ本番だ。
ベーキングパウダー以外の材料と手順は上のまま。
材料をこねて寝かせたあと、まな板の上で延ばす。この8個分の皮で、特大を1個作る予定。あんまり薄く延ばすと、皮が薄くなって、デミソースが表面にしみ出してしまいそうな気がする。なので、ほどほどに延ばす。

中に入れるハンバーグは今回は湯煎しない。ソースがゼリー状のままの方が、皮で包みやすいからだ。小籠包を作るときと同じ。
皮の生地の真ん中に、封を切ってハンバーグを取り出す。さらにその上に袋の中に残っているソースをしぼり出した。ハンバーグを乗せてみると、包む皮の生地が何となく小さいように見える。あれあれ、これで大丈夫かな。
生地の周囲を上に持ち上げつつひっぱり、包みながら修正しようとする。が、ついに上を完全にふさぐことができなかった。無念だ。

仕方がないので、真ん中が開いて中身の具がのぞいている状態のままセイロに移した。セイロには、あらかじめクッキングシートを敷いておく。これで、20分間ほど蒸す。
蒸し終えておそるおそるふたを開ける。巨大な肉まん(のようなもの)が登場。直径16、7センチ、高さ7,8センチはあろうかという巨大さだ。
中身のソースが上から噴出して、周りにこぼれていないか心配だったが、大丈夫だった。膨らんだ皮が中で受け止めてくれたようだ。

それにしても体裁はあまりよくない。蒸す前に、穴をふさごうといじくり回したあとが残っているからだ。
クッキングシートごとお皿の上に取り出す。がぶっとかじりつきたいけれど、大き過ぎて手で持つと分解しそうだ。そこで、お箸で端の方から崩しながら食べる。
肉まんの皮というより、これは蒸しパンだ。そうか、考えてみればこの材料って、蒸しパンそのものじゃないの。でもハンバーグと蒸しパンは、それなりに合う。デミソースのしみた部分もなかなか美味しい。

食べているとちょっと飽きてくる。味が単調だからだ。やっぱりコナモンは飽きるな。
それでも何とか食べきる。お腹はけっこう一杯になった。というか、小麦粉200gをお腹に入れたわけだから、十分なのは当たりまえ。調べてみたら、これは、ご飯なら3杯、食パンなら3/4斤に当たるのだそうだ。
思いつきも結果も大食いというわけだった。


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2014年2月19日水曜日

クロスビー、スティルス&ナッシュ 『クロスビー、スティルス&ナッシュ』


昨年(2013年)の後半、クロスビー、スティルス&ナッシュの関連アルバム9タイトルが初紙ジャケ化された。どうしようかいろいろ考えたのだが、結局この中から私が買ったのは1枚きり。『クロスビー、スティルス&ナッシュ』だけだった。
このアルバムは、CSN&Yの原点であり、ロック史上に燦然と輝く超名盤とされている。しかし、私はめったにこのアルバムを聴かない。CSN&Yのアルバムでは、やはり『4ウェイ・ストリート』や『デジャ・ヴ』の方に手が伸びてしまう。

CSN&Y(CS&Nも含む)の最高傑作は一般には『デジャ・ヴ』とされている。しかし私が一番好きなのは、『4ウェイ・ストリート』だ。そして、『デジャ・ヴ』よりも、この『4ウェイ・ストリート』こそ、彼らのベスト作だと思っている。
このライヴ・アルバムには、彼らの音楽の二つの面、すなわち内省的な面と躍動的な面の両方がぎっしりつまっている。そしてまた4人のメンバーの個性の違いが、鮮やかに浮き彫りにもされているのだ。何とかこのアルバムの紙ジャケ化も実現してほしいものだ。

それはともかく、『4ウェイ…』に比べると、このファースト・アルバム『クロスビー、スティルス&ナッシュ』は、線が細い印象で、音も薄くて軟弱に聴こえてしまう。
しかしあらためて考えてみると、『クロスビー、スティルス&ナッシュ』に収録されている曲の内、『4ウェイ…』で演奏されているのは3曲のみ(プラス「青い目のジュディ」の断片)。彼らの最大の魅力であるコーラス・ワークを前面に押し出した曲の数々は、やはり、このファースト・アルバムでしか聴けないのだった。
今回やっと紙ジャケ化されたことでもあるし、あらためてこのアルバムの魅力について考え、自分なりの感想を述べてみることにしよう。



<新しいグループ・イメージ>

クロスビー、スティルス&ナッシュ(以下CS&N)の結成は、1968年のこと。元バーズ(クロスビー)、元バッファロー・スプリングフィールド(スティルス)、元ホリーズ(ナッシュ)のメンバーによる「スーパー・グループ」ということで話題になる。
そして翌1969年の5月には、デヴュー・アルバム『クロスビー、スティルス&ナッシュ』が発表されるのだ。このアルバムは、チャートの6位まで上昇、200万枚を越える売り上げを記録している。デヴュー作としては、特大のヒットと言えるだろう。
しかし重要なのは、彼らが単に「スーパー・グループ」という話題性を越え、時代の精神を象徴する存在として、広く一般の支持を集めたということだろう。

彼らはふつうのロック・バンドとは、ちょっと様子が違っていた。ふつうのバンドといえば、ヴォーカルがいて、ギタリストがいて、ベーシストがいて、ドラマーがいて…、といった具合に楽器を分担して担当する人たちの集まりだ。ところが、CS&Nはそうではなかった。メンバーは3人とも歌を歌うのだが、このグループには、ベーシストもドラマーもいなかった。
デヴュー・アルバムの収録曲は全部で10曲。これらはメンバーの3人が、それぞれ持ち寄った曲だ。クロスビー作が2曲、スティルス作が4曲、ナッシュ作が3曲、それにクロスビーとスティルスの共作が1曲。つまり、彼ら3人は3人とも、まずソングライターであり、またシンガーであったのだ。「シンガー・ソングライター」という用語は、70年代になってからのものだが、さかのぼって使うなら、このグループはまさにシンガー・ソングライター・チームだったわけだ。

しかも、このグループの名前は、3人の名前を並列に並べただけのものだった。そういうグループ名は、彼らが最初というわけではない(S&G、とかPP&Mなんかもそうだ)。しかし、CS&Nの場合、この名前は、彼らがメンバー各人の個性を尊重する、ゆるやかな集合体である、というイメージを象徴するものとして少なからず受け止められたようだ。

個人を尊重する民主的な集合体という彼らの在り方は、当時の時代の空気がまさに求めていたものだったろう。
CS&Nはデヴュー・アルバム発表後、69年の月に、ウッドストック・フェスに参加している。翌年公開されたこのフェスの記録映画で、彼らはテーマ・ソングを歌うなど、このイヴェントの精神を象徴する存在として扱われていた。彼らの緩やかなグループ・イメージが、フェスの精神にぴったり重なっていたからだ。


<アルバム『クロスビー、スティルス&ナッシュ』について>

収録曲目は以下の10曲。

1 組曲:青い目のジュディ (Suite: Judy Blue Eyes
2 マラケシュ急行 (Marrakesh Express
3 グゥィニヴィア (Guinnevere
4 泣くことはないよ (You Don't Have To Cry
5 プリロード・ダウン (Pre-Road Downs
6 木の船 (Wooden Ships
7 島の女 (Lady Of The Island
8 どうにもならない望み (Helplessly Hoping
9 ロング・タイム・ゴーン (Long Time Gone
10 49のバイ・バイズ (49 Bye-Byes

クロスビー作が3と9、スティルス作が1,4,8,10、ナッシュ作が2,5,7、クロスビーとスティルスの共作が6。

このアルバムがロック史上に残る名盤であり、ここで聴ける彼らのコーラスやサウンドが、画期的なものであったとよく言われる。しかし、ではそれまでのロックとどこがどう違っていて、どう画期的なのか。そこをきちんと説明してくれている文章を、私は見たことがない。
むしろ一聴すると、軟弱な音である。「これのどこがそんなにスゴいのか?」。後追いで白紙の状態で聴く若いロック・ファンの中には、もしかするとそう感じる人もいるのではないだろうか。

当時リアル・タイムで聴いていた私達日本のロック少年の耳にも、彼らの音楽は、最初、何ともパッとしない中途半端な音としか聴こえなかった。これじゃあ、ただのフォーク・ロック、というか、ソフト・ロック(当時はまだこんな言葉は存在しなかったけれども)ではないか。「スーパー・グループ」という触れ込みに、少なくとも日本では、多くのロック・ファンが肩透かしをくったものだ。

彼らの音のどこがそんなにスゴイのか。私なりの考えをここで述べてみよう。
彼らの音楽が画期的だったのは、次の2点だ。ひとつは、彼らの斬新なコーラス・ワークであり、そしてもうひとつがエレクトリックではなくアコースティック・ギターをとことん中心にすえた音作りだ。

彼らのコーラスで特徴的なのは、3声が対等なハーモニーであることだ。どれかひとつが主旋律というのではない。しかもこのコーラスが、曲の最初から最後までヴォーカルをとる。つまりメイン・ヴォーカルがない(場合が多い)のだ。
このアルバムでは、「組曲:青い目のジュディ」や「泣くことはないよ」や「どうにもならない望み」などがそのよい例だ。
それまでのふつうのコーラスでは、まず主旋律があって、そこに他の声がハーモニーを付け加えていた。しかも、そのようなコーラスは、歌の全部ではなくて、部分的なものだった。
だからこの点で、CS&Nのコーラスは、画期的だったわけだ。しかも、彼らのこのコーラスは、シャープで、パワフルであり、十分にロック的でもあった。

そしてもうひとつ画期的なのが、アコースティック・ギター・サウンドを思い切って中心にすえた音作りだ。これは、おそらく彼らのユニークなコーラス・ワークを、前面にアピールするためでもあったろう。

アルバムの一曲目を飾る「組曲:青い目のジュディ」は、このアルバムの印象を決定付ける曲だ。
冒頭から清新なアコースティック・ギターが印象的だ。これにのって強力なコーラスが展開される。
伴奏には、ベースとエレクトリック・ギターも入っているが、ドラムスは入っていない。そのせいでかなりユニークというか不思議なサウンドに聴こえる。
ベースはフラットで、アコ・ギの音より下の低音部を補っているという感じ。エレ・ギは少し離れて、控えめにリズムとオブリガードを弾いている。アコ・ギがストロークになると単調なので、変化をつけているのだろう。
そしてリズムはアコ・ギのストロークでキープできるから、ドラムスはいらないわけだ。曲が二番目のパートに入ってテンポが落ち、アコ・ギのストロークがなくなったところで、ドラムスがおずおずと入ってくる。
すべてがアコースティック・ギターのサウンドと美しいコーラスを最大限にアピールするために意図されているのだ。

1991年に発売された4枚組のボックス・セット『CSN』には、「組曲:青い目のジュディ」の別ミックスが収録されている。このミックスには、最初のパートからドラムスが入っていて、印象がまったく違う。
つまり当初は、ドラムス入りのバンド・サウンドで演奏していたのだ。メンバー3人はもともとロック・バンド出身の人たちだから当然だ。しかし、最終の段階でこのドラムスの音をカットしたわけである。かなり思い切ったことをしたものだ。まあそのくらい、アコ・ギの音を重視しようとしたことになる。

またこのボックス・セット『CSN』には、「泣くことはないよ」の初期レコーディングも収録されている。CS&N結成のきっかけとなった曲だが、『クロスビー、スティルス&ナッシュ』では、3本のアコ・ギによるアコースティック・サウンドがにぎやかに空間を埋めている。
しかし、この初期ヴァージョンでは、左右でアコ・ギの代わりにエレクトリックのスライド・ギターが鳴っている。これが最終的にはアコ・ギに置き換えられたことがわかる。

さらにもうひとつ「どうにもならない望み」も、初めはバンド・スタイルでの演奏が試みられていた。『クロスビー、スティルス&ナッシュ』収録の最終ヴァージョンは、一本のアコ・ギによる伴奏と美しいコーラスのみのとてもシンプルな曲だ。
私の手元に『SESSION SELECTIONS』(2007年)というブートレグがある。ファースト・アルバム制作時のレア音源を集めたものだが、この中に「どうにもならない望み」のバンド・スタイルによるヴァージョンが収められているのである。
エレクトリックのスライド・ギター、ベース、ドラムスなどによるカントリー・タッチの演奏だ。最終のシンプルなヴァージョンを聴いた耳には、バンドの音によって、本来のコーラスの清々しい印象が薄められているような気がする。

「組曲:青い目のジュディ」や「泣くことはないよ」や「どうにもならない望み」は、メイン・ヴォーカルがなくてヴォーカル・パートが、コーラスだけによって展開する曲だ。このような曲については、今紹介したように、当初のバンド・スタイルでの演奏が、かなり思い切ってシンプルに、そしてアコースティックな方向に整理されていったことがわかる。

ただその一方で、バンド・スタイルの演奏を活かしている曲もある。2009年にライノから出た『deMOS』という初期CS&Nのデモ・テイク集がある。ここで聴ける「マラケシュ急行」や「ロング・タイム・ゴーン」のデモ・テイクは、きわめてシンプルで、かつ素晴らしいものだ。
つまらない曲と思っていた「マラケシュ急行」も、ナッシュのギター弾き語りで聴くと、ナイーヴな歌心が感じられてなかなか聴かせる。この2曲については、このシンプルなデモ・テイクの方を『クロスビー、スティルス&ナッシュ』に収録してもよかったのでは、とさえ思えてくる。
おそらくこの2曲のような、曲の提供者がメイン・ヴォーカルを取る曲については、音に厚みを得るためバンド・スタイルでの演奏を採って、他のシンプルな響きの曲とのバランスを計ろうとしたのかもしれない。

美しいコーラスとアコースティック・ギターの音を中心にすえたCS&Nのサウンドは、鮮やかで繊細で知的だ。
1960年代に生まれたロックという若い音楽は、当初さまざまな衝動や不満を、電気によって増幅された暴力的な音によって発散する音楽だった。しかし、そのロックが急速に成熟を遂げていく過程の中で、繊細で知的で内省的な音を求める動きが起こったのだと思う。時期的には1960年代から70年代への曲がり角あたりでのことだ。そのような時代の流れを、まさに体現したのがCS&Nだったということになるのだろう。

そしてこの流れはイーグルスやドクービーズなどのウエストコースト・サウンドや、ジェームス・テイラーなどのシンガー・ソングライターたちの音楽へと受け継がれていくことになる。
だから『クロスビー、スティルス&ナッシュ』は、そんなロックの時代の曲がり角に立つ、記念すべき道標のようなアルバムと言えるだろう。


<各曲についてのコメント>

1 組曲:青い目のジュディ (Suite: Judy Blue Eyes

CS&Nというグループと、このアルバムのイメージを決定付けた名曲だ。四つのパートからなる組曲になっているが、アコースティック・ギター・サウンドと強力なコーラス・ワークを中心に据えた演奏だ。
上にも書いたが、冒頭のパートからドラムレスのユニークなサウンドが聴こえる。
Friday evening, Sunday in the afternoon, …」という歌詞から2番目のパートに入りテンポガ落ちると、ドラムスが控えめに入ってくうる
楽器はほとんどスティルスがひとりで演奏しているので当然だが、良くも悪くもスティルス・サウンドが全開である。

4番目の最後のパートは、スペイン語(風?)のヴォーカルでキューバのことを歌っている(とスティルスは言っている)。何だか意味不明&意図不明だが、とにかくハンド・クラッピングのリズムと、コーラスの印象的なフレーズで押し切ってこの曲は終わる。

CS&Nの代表曲ではあるが、これはライヴ向きの曲でないこともたしか。映画『ウッドストック』で、CSN&Yの唯一の演奏シーンはこの曲だったのだが、あまりよい出来ではなかった。デリケートな作りで長い曲なのに、いつもいきなり一曲めにやるものだから調子が出ないのだと思う。
ライヴ・アルバム『4ウェイ・ストリート』では、この曲の最後のパートのエンディングのみの収録だった。あれはあれで、アルバムの印象的なオープニングになっていたけれど、ボーナス・トラックとしてもこの曲の全曲収録がないところをみると、もしかしてちゃんと出来たためしがなかったのかも…(?)。

2 マラケシュ急行 (Marrakesh Express

グレアム・ナッシュが、ホリーズ時代に書いた曲とのこと。このアルバムからシングル・カットされてヒットした。軽くてポップで内容はヒッピーだし、いかにもシングル・ヒットねらいの曲だ。それにしては、スティルスの弾く、エレクトリック・ギターのフレーズが、せわしない上に異様に甲高くて、ひどく耳ざわりな感じなのだが。
いずれにしても、べつにどうこう言うほどのこともない、つまらない曲と思っていた…。

ところがライノが出した『deMOS』(2009年)で聴けるこの曲のデモ・テイクは、なかなかに素晴らしい。ナッシュのアコ-スティック・ギターの弾き語りに、クロスビーがハーモニーをつけているシンプルな構成。軽快なテンポに流されることなく、ナッシュの歌心が伝わってくる味わい深い演奏だ。

3 グゥィニヴィア (Guinnevere

神秘的でクールなサウンドと、浮遊感のあるハーモニーによる曲展開。デイヴィッド・クロスビーの傑作だ。もっとも、彼の曲は、どれもみんな傑作なのだけれど。

ボックス・セット『CSN』には、この曲の初期のデモ・テイクが収録されている。クロスビーのアコースティック・ギターの弾き語りで、ベースをジェファーソン・エアプレンのジャック・キャサディが弾いている。
デモとはいえ、ほとんど曲の形は出来上がっている。コーラスはクロスビーが多重録音により自分の声でハーモニーを重ねている。シンプルでスピリチュアルな感触がさらに増していて、素晴らしい。

このアルバムのためのセッション音源を集めたブートレグ『SESSION SELECTIONS』では、エレクトリック・ギターにベースとドラムスの入ったこの曲のバンド・サウンドのヴァージョンが聴ける。この曲も当初はバンド・サウンドによる演奏が試みられていたわけだ。
ちなみに『クロスビー、スティルス&ナッシュ』の「マラケシュ急行」の前に入っているしゃべり声は、このバンド・クヴァージョンの前に発したクロスビーの声をはめ込んだものだということがわかる。

4 泣くことはないよ (You Don't Have To Cry

この曲ではアコースティック・ギターが大活躍だ。アコースティック・ギターと控えめなベースとタンブリンに加えて、さらに二本のアコ・ギが左右からつねにオブリガードを奏で続けている 
リード・ヴォーカルはなしで、美しいコーラスがつねにヴォーカルをとっている。まさに夢のような2分44秒の魔法の時間。
アコースティック・ギターのサウンドとコーラスを全面に出している点で、このアルバムのコンセプトをもっともよく示している曲だ

上にも書いたとおり、ボックス・セット『CSN』で聴ける初期のレコーディングでは、左右から聴こえるのはスティルスによるエレクトリックのスライド・ギター(一本の音を左右に振り分けている?)だった。これだと印象が全然違う。アコースティカルな最終ヴァージョンに到るまでには、いろいろと試行錯誤があったことがしのばれる。

ライノの『deMOS』では、この曲のスティルスによるアコースティック・ギター弾き語りが収録されている。渋くて味わい深いが、最終のコーラス・ヴァージョンのような「魔法」はまだない。

5 プリロード・ダウン (Pre-Road Downs

『4ウェイ・ストリート』のC面1曲めに入っているこの曲のライヴ・ヴァージョンは最高だ。アルバム・ヴァージョンのような浮ついたところがなく、腰を低く落としたタイトでワイルドな演奏。エレクトリック・セットの始まりを告げるにふさわしい活気を感じさせる曲だった。

それに比べるとこのオリジナルのアルバム・ヴァージョンは何とも中途半端。バンド・スタイルでの演奏だが、オルガンとドラムスがどうにも軽い。そしてナッシュの甘過ぎる高音ヴォイス。さらにはエレクトリック・ギターのテープ逆回転のようなふわふわしたヘンテコな音も意図不明。
いずれにしても曲そのものが平凡で魅力がない。ちなみにこのアルバムの10曲中、ボックス・セット『CSN』に選ばれなかったのは2曲のみ。その内の1曲がこの曲だった。なるほど納得だ。

6 木の船 (Wooden Ships

詞の一部を、ポール・カントナー(ジェファーソン・エアプレイン)とスティルスが書き、詞の残りと曲の全体をクロスビーが書いた曲。
映画『ウッドストック』のサウンド・トラック・アルバムでの白熱の演奏も思い出深い。

冒頭の弦をミュートしてのカウントからもう歌の世界が始まっている。冒頭すぐのストイックなギター・ソロ、そして滑らかなトーンに切り替えてのつぶやくようなエレ・ギのフレーズが印象的。
スティルスとクロスビーの対話のようなヴォーカルによって、神話的な世界が語られていく。
後半でコーラスの合間にテンポ・アップして何度か間奏がはさまれる。ここでのスティルスのギター・ソロが、何ともお粗末。フレーズが平板で凡庸だし、何と何箇所かでスケールからはみ出している 何で録り直さなかったのだろう。名曲なのに残念。

7 島の女 (Lady Of The Island

ナッシュのギター弾き語り。自身の弾く爪弾くようなアコースティック・ギターにのせて、ナッシュがささやくように歌う。中盤からクロスビーが控えめにハーモニーを添えている。
中間部で、二人のスキャットのフレーズが、戯れるように交錯するところは、まさに至福の瞬間。
ひと筆でさらっと書いたような、シンプルでイノセントな小品。結局ナッシュの曲の中では、これが一番好きだ。「マラケシュ急行」のデモを聴いたときも思ったが、ナッシュの歌はシンプルなアレンジが似合う。

8 どうにもならない望み (Helplessly Hoping

ヴォーカル・パートは、リード・ヴォーカルなしでコーラスのみの曲。楽器はアコースティック・ギター1本。「泣くことはないよ」と共に、CS&Nの音楽性をもっともよく表している曲。
リフレインの「…one person,two alone,three together,
…」と数え歌のように数を重ねていくところが、愛らしくて切ない。

ブートレッグ『SESSION SELECTIONS』では、エレクトリック・ギター、ベース、ドラムスというバンド・スタイルによる伴奏の入ったヴァージョンが聴けるが、あんまりよくない。

9 ロング・タイム・ゴーン (Long Time Gone

ロバート・ケネディが暗殺された夜に書いたというクロスビーの怒りの曲。クロスビーのヴォーカルは、神経がひりひりするような感じだ。しかしダークな曲調は、アグレッシヴというよりも、何かあきらめを感じさせるようでもある。最後に来て演奏はバラけて終わる。この中途半端な終わり方も、張りつめた感情が崩壊していくようで心に残る。

スティルスが一人でギター、オルガン、ベースを弾いている一人バンド・サウンドだが、ここでの演奏は他の曲でのような浮ついた感じがなくて良い。

ライノから出たデモ・テイク集『deMOS』(2009年)には、この曲のデモ・テイクが収録されているが、これがまた素晴らしい。
ヴォーカルは、クロスビーのみのソロでコーラスはなし。クロスビーのヴォーカルが突き刺さるように迫ってくる。
演奏は、アコースティック・ギターに加え、スティルスの弾くべースとドラムス。スティルがドラムスまで弾いているのだが、これがなかなかよい。ベースとドラムスは、『クロスビー、スティルス&ナッシュ』収録のヴァージョンとは違って、ちょっと粘りのあるリズムを刻んでいる。これとくらべると、アルバム版は、かなり平板に聴こえてしまう。

また『4ウェイ・ストリート』で聴けるこの曲のライヴ・ヴァージョンも印象的だ。ベースとドラムスが作り出すうねりに乗ってクロスビーの歌が痛切に響いてくる。このうねる感じは、ちょっとデモ・テイクの感じに似ている。
それから、このライヴ・ヴァージョンでは、ニール・ヤングが引いている例のゴツゴツしたフレーズの鬼気迫る轟音ギターも聴きどころだ。

10 49のバイ・バイズ (49 Bye-Byes

アルバムのラストに持ってきたくらいだから、スティルス当人は自信作なのだろう。彼のソロ・アルバムに入っていそうな、スティルス色全開の曲調だ。でもこれは彼のだめなところが出た駄作でしょう。メロディーがつまらないし、つまらないわりにだらだらと長い。

『4ウェイ・ストリート』では、「アメリカンズ・チルドレン」という曲とメドレーにして歌っていた。アクロバティックなピアノ弾き語りで、なかなか会場を盛り上げていた。もっとも盛り上がっていたのは「アメリカンズ・チルドレン」のときだったかな。


〔関連記事〕

2014年2月10日月曜日

金のハンバーグステーキ 八番勝負


前回の記事で勝負の1から5まで紹介した。
今回は、続いて6から8までの三番勝負。


■勝負の6 ハンバーグのコテージ・パイ

コテージ・パイというのは、パイ皮の代わりにマッシュポテトを使ったミート・パイのこと。もともとは「貧乏人のパイ」という意味らしい。
「金のハンバーグステーキ」の美味しさをとことん楽しもうと、今回はマッシュポテトにはさんで焼いてみることに。デミソースとマッシュポテトはいかにも相性がよさそう。

まずマッシュポテトを大量に作る。茹でてつぶしたジャガイモに、バターと牛乳、そして塩、コショウ少々加えてよく混ぜる。
グラタン皿を用意し、内側にバターの代わりに今回はオリーブ・オイルを軽く塗っておく。ハンバーグは湯煎。これで準備はOKだ。

まずグラタン皿の底にマッシュポテトを薄く敷く。
湯煎したハンバーグをいったんソースごと別のお皿にあける。お皿はソースをためるために、やや深めのものを使う。そこからハンバーグの本体を、マッシュポテトを敷いたグラタン皿の真ん中あたりに置く。ソースは深皿に残したまま。
そしてグラタン皿の縁とハンバーグの間のすき間を、マッシュポテトで埋める。だいたい埋まったら、深皿に残っていたハンバーグのソースを、ハンバーグ本体と周りのマッシュポテトの上に回しかける。

さらにハンバーグとソースのかかったマッシュポテトの全体を、残りのマッシュポテトでおおうわけだ。ところが、ここで何とマッシュポテトがなくなってしまった。
急きょ追加でマッシュポテトを製造。20分くらいで何とか完成して作業を続行。どうにかハンバーグとそのまわりのソースが見えなくなるまでおおうことができた。
しかし、予想はしていたが、何だか山盛りになってしまった。ハンバーグの厚みがけっこうあるからだ。グラタン皿の上に小山ができている。ふっうのコテージ・パイとは、だいぶ様子が違ってしまった。

それでもめげずにマッシュポテトの表面に、フォークで飾りの筋目をつける。これをオーブンに入れて焼けば完成だ。
オーブンを200度にして、様子を見ながら15分ほど焼いた。ポテトの筋目にいい具合に焦げ目がついている。皿の縁の辺りでは、ハンバーグのソースがぐつぐつして、いかにも美味しそう。
大きめのお皿にペーパー・ナプキンを敷き、その上にオーブンから取り出したグラタン皿を置いた。なかなかゴージャス。

では、いただきます。
端の方からフォークですくって食べる。デミソースのしみたマッシュポテトは、やっぱり美味しい。
中ほどに食べ進んでいくと、ハンバーグに到達。香ばしく焼けたポテトとハンバーグが一体になっている断面が見える。そこへたてにフォークを入れてすくい取る。アツアツだ。ポテトにソースと肉汁がしみていて、ハンバーグの旨さをじっくり味わえる。
食べ応えもあるし、美味しい一品になった。


■勝負の7 ハンバーグのマヨネーズ焼

もう一品グラタン皿を使ったメニューを。
作り方は途中まで、コテージ・パイと同じ。今回は、ハンバーグにブロッコリーを取り合わせ、マヨネーズをかけて焼く。デミソースをかけたブロッコリーと、焦がしたマヨネーズが美味しそうでしょ。

ブロッコリーはあらかじめ軽く塩茹でしておく。
それからコテージ・パイを作ったときのマッシュポテトが少し残っていたので、これも使うことにする。
グラタン皿の内側にオリーブ・オイルを薄く塗る(バターの代わり)。そしてマッシュポテトをグラタン皿の底に薄くしく。ブロッコリーにデミソースをかける予定なのだが、どうしても少し下に流れるだろうから、そのソースをポテトに吸わせようというわけだ。

湯煎したハンバーグをいったんソースごと少し深めのお皿にあける。そこからハンバーグの本体を、マッシュポテトを敷いたグラタン皿の真ん中あたりに置く。ソースは深皿に残したまま。
そしてグラタン皿の縁とハンバーグの間のすき間に、ブロッコリーを詰めていく。ブロッコリーの形を選びながら、きっちりと詰めるのだ。まるで、パズルみたいで面白い。このときハンバーグとブロッコリーの高さが同じになるように。

できたら深皿に残っているハンバーグのソースを、ハンバーグ本体と周りのブロッコリーの上に回しかける。
さらにその上からグラタン皿の全体にまんべんなくマヨネーズをかける。マヨネーズで薄くおおう感じ。
私は体裁を考えて、マヨネーズのチューブの細口で、たてよこに線を引くようにかけた。下が見えないくらい目の細かいチェック模様のようになった。もちろん一気にドバっとかけて、スプーンでならすのもアリだけど。

こうしてマヨネーズでおおったグラタン皿を、オーブン・トースターに入れて焼くわけだ。コテージ・パイのときのように、オーブンを使わないのは、表面のマヨネーズを焦がすのが目的だからだ。
マヨネーズがキツネ色に焼けたところで完成。取り出すと、この焼色が何ともいい感じだ。

そういえば本当はマヨネーズと一緒に、ピザ用の溶けるチーズもかけて焼く予定だったのだが、忘れてしまった。まあいいでしょう。

さて食べてみよう。
もともとブロッコリーは、マヨネーズとよく合う。ブロッコリーのちょっとクセのある味が、マヨネーズのコクと酸味に包まれてまろやかになる。そこにデミソースの旨さと、マッシュポテトの食感が加わって、渾然一体となっている。何とも言えない美味しさ。
今回はハンバーグの味を引き出すというよりも、ブロッコリーとの取り合わせを楽しむというメニューになった。


■勝負の8 ハンバーグあんかけラーメン

ここまで、ちょっと手の込んだことをやったので、今回は簡単メニュー。
ハンバーグとラーメンを組み合わせてみようと思った。いかにも安直な思い付きだが、まあ実際そうなんだからしかたない。
東洋水産の「マルちゃん正麺」の登場で、袋麺のインスタント・ラーメンが革命的に美味しくなった。この美味しくなったラーメンと、同じく美味しくなったハンバーグを組み合わせたら、さぞかし美味しいだろうと思ったわけだ。

それぞれに美味しいのだから、まちがっても組み合わせてまずいはずはない。しかし一応ハンバーグの味とラーメンの味は、それぞれにちゃんと味わいたい。まあ食べている途中で、だんだん混じり合ってしまうのはしょうがないにしても。
だからハンバーグを、そのままラーメンの上にのせたのでは面白くない。ソースがラーメンのスープにすぐに溶けて混じってしまうからだ。そこでハンバーグのソースにとろみをつけて、ラーメンの上にのせることにした。ハンバーグあんのあんかけラーメンというわけだ。

ただ、しょっぱ過ぎないかが、ちょっと気になる。ラーメンもハンバーグも、それぞれにちゃんと味がついているわけだからだ。
それで気休めかもしれないけど野菜を多めに入れることにする。もともとインスタント・ラーメンは、野菜を多くすると味が薄くなってしまう傾向がある。今回の場合は、かえってそれに期待することにする。そのためモヤシとキャベツを合わせて200gくらい用意した。

まずハンバーグを湯煎して小鍋に取り出す。
ここに水100ccを加えて煮立たせる。これにさらに水溶きかたくり粉を加えて、とろみをつけるのだ。
味をみたら、水を加えた分だけ、当然、塩味は薄くなっている。デミソースの味と香りはまあまあ十分のようだ。これ以上全体をしょっぱくしたくないので、塩味はつけないことにする。これで、あんは完成。

ラーメンはたまたま買い置きしてあった日清の「ラ王」の味噌味を使うことに。味噌味とデミソースで大丈夫かな、とちょっと心配。
ラーメンを袋の指示通りに作る。水500ccを沸騰させて、麺の茹で時間は4分。茹ではじめて残り30秒のところで野菜を投入。さらに茹で上がりの直前にスープも鍋に入れてしまう(本当は丼に入れて溶くことになっているのだが)。
ちょっと混ぜてから出来上がったラーメンを鍋から丼にあける。そしてその上に、小鍋のハンバーグとあんをそっとのせて完成。

味噌ラーメンの表面の真ん中に、焦げ茶色のハンバーグとあんが広がる。ちょっと不思議な光景になった。美味しそうに見えるかどうかかは、正直ちょっと疑問。

で、食べてみる。
味噌ラーメンはもちろん美味しい。デミソースあんは、ちょっととろみのつけ方が弱過ぎたようだ。どんどんラーメンのスープと混じり合っていく。混じったあたりから麺をすくい、スープをすすてみた。
うん、けっこう美味しい。心配するほどのことはなかった。味噌味のスープと、ハンバーグのデミソース味は、それなりに仲良くやっている。全然、違和感はない。もともとどちらも動物系のダシがベースのはずだから当たりまえか?

ハンバーグ本体は、ラーメンの中で見ると、まさに洋風のつくね。もちろんちゃんと美味しかった。


2014年2月3日月曜日

金のハンバーグステーキ 五番勝負


コンビニのハンバーグが、すごいことになっているらしい。レストランのハンバーグと同じくらい美味しいのだという。へえー、ちっとも知らなかった。
調べてみると各コンビニが自社ブランドで同じようなものを出しているが、中でも一番評判がいいのはセブン・イレブンの「金のハンバーグステーキ」のようだった。
近くのセブン・イレブンに行ってみると、オリジナル・ブランドの食品を置いてある一画に、ひときわ広いスペースをとって「金のハンバーグステーキ」が並んでいる。「今、売れてます」なんてポップも添えてある。なるほど、たしかに売れているらしい。

さっそく購入して帰る。よく見ると、「要冷蔵」で賞味期限も書いてある。厳密にはレトルト食品ではないらしい。しかし、袋ごとお湯に入れて温めるのは、レトルトと同じだ。
では、さっそく食べてみることに。


■勝負の1 ハンバーグステーキ

袋に書いてある指示に従って6分間湯煎する。
付け合せは、ちょっと豪華にしてみた。
レタス、キャベツの千切り、ミニ・トマト、ポテト・サラダ(これもセブン・イレブンで買ったもの)、それにスパゲッティのケチャップ和え。これらを大きめの皿の上半分に盛り付けた。
ハンバーグを湯から取り出し、封を切って皿の空いているところに取り出す。思ったよりソースが多い。皿にソースが広がってなかなか立派な見ばえになる。

他にパンとスープを用意して、ナイフとフォークで食べる。ちょっとしたディナーだ。
見た目は、立派な煮込みハンバーグ。インスタントな感じは全然しない。食感も意外にふんわりしていて本格的。なるほど、これはかなり美味しい。
でもレストランのハンバーグと同じ、とまではさすがに…。いや、でもこの間、近所のステーキ屋で食べたランチの安いハンバーグなんかよりは、こちらの方がよっぽど美味しいな。
ソースの味はやや濃いめ。最後はパンで皿を拭うようにして、きれいに食べたら、あとでちょっとのどが渇いた。
でもこれで値段は258円。これは何といっても安い。失敗しても惜しくないから、いろいろ工夫して、とことんこの美味しさを味わってみようと思う。


■勝負の2 ハンバーグ丼

「金のハンバーグステーキ」のソースは、量が多くて、味はやや濃いめ。このソースをご飯にかけて食べたら、さぞかし美味しいだろうなと思った。そこで、ご飯の上にハンバーグをそのままのせてみることにする。ハンバーグ丼だ。

ただしこのソース、味が濃い上に肉汁が混じって多少脂っこいから、食べているうちに、口の中で単調に感じてしまうかもしれない。そこで、味のアクセントとして、刻みネギを散らすことにする。

ご飯を1合炊いて、丼に盛り付ける(何しろ大食いなもんで)。
湯煎したハンバーグの封を切り、どんぶりの上で傾けて、まずソースをご飯に回しかけようとする。しかしひと回りする途中でハンバーグ本体が袋から出てきて、ご飯の上にのってしまった。仕方ないから、それでいいことにした。
仕上げに丼全体に刻みネギを散らした。量は、かなり大量。これで完成だ。

食べてみると、やはりソースのかかったご飯は美味しかった。1合というご飯の量に対して、ソースがやや少なめな感じ。しかも、それが均等にかかっていない。しかし、ハンバーグ本体を崩しつつご飯と一緒にほおばっていると、最後まで美味しく食べることができた。
刻みネギを加えたのはやはり正解。ネギの食感がシャキシャキし、薬味として味に奥行きが出来てよかった。


■勝負の3 ハンバーガー

ハンバーガーって、ときどき食べたくなる。しかし、いつも不満に思うのは、はさんであるあのビーフのパテが薄いこと。ダブルでもまだ物足りない。
ここで、「金のハンバーグステーキ」のけっこうな厚みに注目した。これをパンにはさんで、思いっきりかじりついてみようじゃないか。

そこでハンバーガーのバンズを買いにスーパーに行ったのだが、売っていない。そこで、食パンではさむことにする。まあ単なるサンドイッチとも言えるわけだけど。パンの厚さは、4枚切。2枚単位で売っているわりと高級なものを買う。

まずこの2枚のパンを並べて置く。
湯煎したハンバーグの封を切り、パンの上で傾けて、まずソースをパンにかける。パンの上のソースは、スプーンで広げながらパンにしみ込ませる。ソースを無駄にしたくないのだ。
それから、ハンバーグ本体をパンの上にのせる。
はさむ具は、ハンバーグの他に、スライス・チーズ、粒マスタード、そしてタマネギの輪切り。タマネギは、一番径の大きい真ん中のあたりを、厚さ1cmくらいにスライスしたもの。これをレンジで1分加熱しておく。半分生(なま)なくらいが私の好みだ。

これらの具材を全部のせて、2枚のパンではさみ込む。
具材だけでけっこうな厚さになるが、パンで上からぐっと押さえる。さすがに4枚切、パンの厚さの中に具材がうまく収まってしまった。
これをレンジで30秒ほど加熱して出来上がり。

手に持つとずっしりと重い。美味しそうな重さだ。はじから思いっきりかぶりつく。四角い食パンだから、ハンバーグ本体まで達しない。しかし、ソースがしみていて一口めからもう美味しい。二口、三口と進んで、やがて本体に到達。
肉厚のハンバーグとパンはやっぱりよく合う。柔らかい食感の中で、タメネギの歯応えが気持ちよい。ハンバーガーを食べるときって、いつもそうなのだが、いつの間にか夢中になってかじり続けている。
それからふつうは、食べているときに、パンと具材が分解したり、具材やソースが下からこぼれたりしないように気をつけなければならない。しかしこのハンバーガーは、食パンを使っているせいか、そういう心配は全然必要なかった。

こうして完食。けっこう満腹になる(当たり前だ)。美味しかった。これで、積年のハンバーガーへの不満も晴らすことが出来た。


■勝負の4 ハンバーグの玉子とじ丼

ハンバーグ丼が美味しかったので、今度はハンバーグを玉子でとじてご飯にのせてみようと思った。ちょうどカツ丼のハンバーグ版だ。

小さいフライパンに割り下を作る。
材料は、麺つゆ、みりん、酒を各大さじ1、水を大さじ2。あとでハンバーグのソースが加わって、かさと塩気が増えるのを見込んで、最初の分量と塩気は控えめにしてある。
これに薄切りにしたタマネギ(小1/3個)を入れて煮立てる。タマネギに火がとおったところへ、別に湯煎しておいたハンバーグをソースごと投入。ハンバーグはトンカツと違って、食べるときに箸でほぐせるから、カツ丼のカツのように、あらかじめ切っておく必要はないだろう。
その上から溶き玉子(1個)をまわしかけ、フタをして弱火にする。玉子がだいたい固まったら、どんぶり飯(例によって1合)の上にフライパンから滑らせるようにのせて出来上がり。

見た目はかなり美味しそう。
食べてみる。デミソースと割り下のしょう油味の取り合わせは、なかなか悪くない。玉子がうまくまとめてくれた感じ。
割り下にソースが加わった汁の量が、予想より多めだったのか、つゆだく状態になってしまった。が、まあこれはこれで結果OK。汁がしみたご飯が美味しい。
美味しいものを、がっつり食べたという満足感を味わった。


■勝負の5 ハンバーグの炊き込みご飯

「金のハンバーグステーキ」は、ハンバーグ本体も美味しいが、ソースもまた美味しい。そこで、この味でご飯を炊いてみようと考える。この場合、ハンバーグは、お米の上にのせた状態で炊く。お米の上に尾頭付きの鯛を丸のままのせて炊く「鯛めし」というのがあるが、あれのハンバーグ版だ。

お米は例によって1合。
これを炊くための水加減は、普通なら水200ccだ。炊き込みご飯のときは、しょう油や酒など別に入れる液体の量を、ここから差し引く。今回は、デミソースの分量を50ccと見込んで差し引き、水加減は150ccにすることにした。
さらにこのうち50ccは赤ワインにしよう。何となく本格的でしょ。塩気は足す必要はないだろう。あと、もし何ならタマネギとか、ニンジンとか、コーンとか、グリーンピースなどなど…、いろいろ具材を入れてにぎやかにする手もあるけれど、ここはあえて何も入れずにハンバーグの味をじっくり味わおうと決める。

炊飯器に米1合と水100ccと赤ワイン50ccを入れる。その上に、今回は湯煎していないハンバーグとソースをのせる。ソースは温まっていないのでペースト状だ。本当はここで水や米とよく混ぜておきたかったのだがあきらめる。
そしてボタンをポン。普通に炊飯開始。

だんだんハンバーグのいい匂いが炊飯器から部屋中に広がる。やがて出来上がりのチャイム音。
さてさて、うまくいったかな。
ふたを開けると、茶色に炊き上がったご飯の上に、ハンバーグがデンとのっている。鯛めしもそうだけれど、ここがいちばんの見せどころなのだろうな。しかし、やはり鯛めしもそうするように、食べるときには、上にのっているものを崩して、ご飯とよく混ぜるのだ。
混ぜてみると何だかご飯が固めだ。ソースの分量を多く見すぎたか。そこで、よく混ぜたところで、炊飯ボタンをもう一度押して再加熱をする。6分ほど加熱したところでふたを開け混ぜてみると、まだやや固めながら許容範囲になっていた。

この料理、せっかくのハンバーグの形を崩してしまうのがちょっともったいない気がした。しかし食べはじめてみると、ハンバーグの旨みが、ご飯の全体と混ざり合っている感じ。つまり、形はないけど、どこを食べてもハンバーグの味。結果たっぷり味わえてお得な気分になれた。
ただ食べていると、味がやや単調に感じてしまう。そこで、ちょっとタバスコをふってみたら、味が締まって美味しく食べられた。


さて、まだまだハンバーグ料理のチャレンジは続く。しかし、普通に思いつく食べ方はだいたいここまで。だから、ここからが本当の「勝負」と言えるのかも。乞う、ご期待。