2012年2月22日水曜日

EL&Pのライブ盤とグループの評価

  ずいぶん久しぶりに新譜のCDを買った。
エマーソン、レイク&パーマー(以下EL&P)の『Live At The Mar Y Sol Festival』(輸入盤)だ。

ずっと買わないでいたのは、第一にお金がないせいもあるが、そもそもほんとうに欲しいと思わせるブツがなかったためだ。強いて言うなら、例のピンク・フロイドのデラックス・エディションのシリーズ(「狂気」、「炎」、「ウォール」と続いている)には、ちょっと心を動かされた。けど、かなり高いしね。

それで、今回EL&Pを買ったわけだが、先日NHK大河ドラマの「タルカス」について書いたこととは全然関係ない。
このアルバムは、昨年末に発売されたらしい。別に大河ドラマとは関係なしに…、輸入盤だから関係ないのは当然か。

アルバムの内容は、1972年4月にプエルトリコで開催された国際音楽祭に出演した時のライブ演奏を収録したもの。72年の演奏ということで聴きたくなった。
ジャケットはプエルトリコのイメージからトロピカルでチープ。内容を知らないで、これだけ見たらちょっと購買意欲は萎える。
このプエルトリコでのロック・フェスは、『海と太陽の祭典』という邦題で当時ライブ盤も出たが、私の記憶では同時代的にはたいして話題にならなかったと思う。
ユー・チューブで、このフェスのムービー・クリップという映像を観た。フェス周辺の様子をとらえたもの。降り注ぐ陽光、波の打ち寄せる砂浜、水着か、ジーンズに上半身裸の若者たち。能天気な「裸天国」だ。

このときのEL&Pの演奏はじつに素晴らしい。こんな場違いな状況下で、自分たちの世界を堂々と展開している。
しかし、ダークな世界観の「タルカス」や、内省的でセンシティブな「テイク・ア・ペブル(石を取れ)」(「ラッキー・マン」とピアノ・インプロヴィゼーションを間に挟んでいる)を演奏する彼らの姿は、陽光の下の「裸天国」とはまったくのミスマッチで、相当シュールな光景が目に浮かぶ。こんな踊れない、さらには体を揺らすこともできない音楽を、裸の人たちはどんなふうにして聴いていたんだろう。

1972年のこの頃が、たぶん彼らの絶頂期のではないだろうか。
デビュー時のセカンド・ギグである1970年のワイト等のライブはまだ生硬な感じがある。1974、75年の3枚組ライブ『レディース&ジェントルマン』で聴ける演奏は、かなりこなれ過ぎの感もある。

ラプエルトリコ・フェスの演奏には欠点もないではない。グレッグ・レイクの三味線ベース、カール・パーマーの軽音ドラム。「ロンド」でのドラム・ソロも蛇足だ。
しかし、そんな三人が絡み合い一体となってたたみかけてくるスリリングな音が、はつらつとしていて素晴らしい。
それとアコースティック・ピアノから、アコースティック・ギター、そしてまたアコースティック・ピアノへと展開していく「テイク・ア・ペブル」の瑞々しさも沁みる。

ここで話は少し変わるけれど、EL&Pの世間的な評価は、下落の一途を辿っているように思える。かつてその一つに数えられていた「プログレ5大バンド」に、今もちゃんと入れてもらえているのだろうか?(笑)
評価下落の原因もなんとなくわかる。ひとつは、その過剰なエンターテイナーぶり。そしてこれと表裏だが、思想性のないことだ。「思想性」というと大げさだが、ようするに表現したいことがないのだ。
原因のもう一つは、才能の枯渇を露呈したぶざまなグループの終焉ぶりである。『ワークス・ボリューム1』、『同2』、『ラブ・ビーチ』、『イン・コンサート』と人々を次々にがっかりさせながら、グループは分解していって幕を閉じたのだった。しかも、あろうことか、懲りずに再結成までしたというのだから…。

しかし、先日書いた『「情けない」ロックバンド』には、私はEL&Pを入れなかった。イエスやジェネシスといった「プログレ5大バンド」の中のお仲間を入れたにもかかわらず。
それは、EL&Pが、他の人たちのようにお金に走らず、あくまでミュージシャンシップに殉じたように見えるからだ。
グループの末期、アルバム『ワークス』の音を再現するために、多額の費用をものともせずオーケストラを帯同して行ったツアー。グループは、このツアー途中でかさむ費用のため経済的に破綻し、多額の借金を背負うことになる。ツアー後半は、オーケストラなしでスケジュールをこなし、借金の回収をはかることになる。
オーケストラの帯同を、ミュージシャンの(というかキース・エマーソンの)エゴと言うなかれ。金儲けしたければ、そもそも最初からそんなことはしない。
 だから私には彼らが、ミュージシャンシップに殉じたように見えるのだ。ただしことわっておくと、この末期のEL&Pは、音楽的には全然ダメです。演奏以前に曲がどれもつまらない。表現したいことがもう何もなくなってしまったのだろうね。
 またファーと・アルバム聴こうっと。

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