2012年6月11日月曜日

ポール・マッカートニーのアルバム5選

『レコード・コレクターズ』誌(2012年7月号)の『ラム』特集を記念して贈る()、ポール・マッカートニーのアルバムの私的5選。
というわけなのだが、ポールのソロから好きなアルバムを5枚選ぶのは正直ちょっときつい。いいアルバムがそんなに何枚もあったっけ。

好きか嫌いかと言われれば、ポール・マッカートニーはけっこう好きなアーティストだ。しかし、ソロになってからのポールの歩みは、ロッカーからポップ・ソング・メイカーへと変わっていった歩みに見える。
ビートルズ時代には、どんなにポップな曲でもこの人の曲にはロック魂が感じられたものだ。ところがソロになってからは、しだいにこのロック魂が希薄になっていったような感じがする。それとともに、私の興味はこの人からだんだん離れてしまったのだった。

そんなポールの最高傑作『ラム』には、まぎれもなくロック魂があふれている。しかし、その外にあと4枚も、この人に「ロッキン」なアルバムがあったか。いろいろ思い悩んで選んだ結果は以下の通り。

<ポール・マッカートニーのアルバム私的5選>

第1位 『ラム』(1971)
第2位 『バンド・オン・ザ・ラン』(1973)
第3位 『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』(1976)
第4位 『ロンドン・タウン』(1978)
第5位 『フレイミング・パイ』(1997)
次 点 『フラワーズ・イン・ザ・ダート』(1989)

 本当は第2位を「該当なし」にしたかった。『ラム』はダントツに良くて、『バンド・オン・ザ・ラン』以下との開きがあまりに大きかった。そこで『バンド・オン・ザ…』を第3位にし、以下、上記より一つずつ下にずらした形が最初の考えだった。
でも、それじゃあんまりへそ曲がりかなと思いなおして上記のように落ち着いた次第。

 <各アルバムについてのコメント>

ソロ初期のアルバムを中心に、上記の選出理由についてコメントしてみよう。

『マッカートニー』 

いろんな楽器を弾けてしまう器用な人が、全部自分で演奏してソロ・アルバムを作ると、たいていこのようなことになる。
他のメンバーに気兼ねしたり、口を出されたりせずに、好きなことを好きなようにやることができるわけだ。さぞかし才能と趣味をフルに発揮した素晴らしい傑作か生まれるかと思いきや、このアルバムのように、小さくまとまったつまらないアルバムになってしまうのだ。

他の例では、ジャパンのベーシスト、ミック・カーンのソロ第一作がやっぱりこんな感じだった。
つまり他人がいてそれが障害や制約になり、そこで初めて、その人の能力はぎりぎりまで引き出されるということなのだと思う。
とりわけポール・マッカートニーという人は、自分のやっていることに夢中になってしまって、自分を客観的に見ることが出来ないタイプの人なのだと思う。

世間をがっかりさせたポールのソロ第一作。発表から時間が経ち再評価の声もあるらしいが、やっぱりこのアルバムに見直すべき価値があるとは思われない。
他のメンバーのソロ第一弾、ジョージ・ハリソンの『オール・シングズ・マスト・パス』と、ジョン・レノンの『ジョンの魂』がそれぞれロックの歴史に残る超名盤だったというのにねえ。ポールの場合は、それは第2作だったというわけだ。

というわけで私のベスト5からは落選。でも「メイビー・アイム・アメイズド」というせつない名曲が入っていることと、全体にまだポールのロック心(ごころ)が感じられる点が救いだ。

『ラム』

これぞロック魂全開だ。
前作で少し反省したのだろう。それとも、やりたいようにやってすっきりしたのか。ともかくどれもすごくよい曲ばかり。しかも抑制の効いた、しまりのある的確な演奏。じわじわと聴く者の心に響いてくる。
以前ビートルズのメンバーたちのソロ・アルバムについてコメントしたことがある(「ビートルたちのソロ・アルバム」)。その中にも書いたが、このアルバムは本当に繰り返しよく聴いた。
高校一年生の私の頭の中では、このアルバムの「トゥー・メニー・ピープル」や「ラム・オン」や「ディア・ボーイ」や「ハート・オブ・ザ・カントリー」や「モンクベリー・ムーン・ディライト」が、いつもぐるぐるまわっていたものだ。

でも今回のデラックス・エディションは買わないつもり。今回に限らずボーナス曲って、やっぱりそれなりのものでしかなくて、オリジナル版の曲より良かったためしがない。当然と言えば当然の話。それで、よっぽどのことがないかぎり、手を出さないことに決めた、つい最近のことだけど。

『ワイルド・ライフ』

ライヴもしたかったのだろうが、やっぱりバンドをやりたかったんだろうな。で、ウイングス結成。
前作のかっちりした曲作りの反動か、セッション的な雰囲気のラフな作り。それはそれでべつにいいんだけれど、何せ曲がどれもつまらない。で、落選。

『レッド・ローズ・スピードウェイ』

三日間で録音した前作とは対照的に、録音に半年もかけたわりには、可もなく不可もない印象の薄い凡作。当然、落選。

『バンド・オン・ザ・ラン』

全然違う曲を強引にくっつけてしまったタイトル曲「バンド・オン・ザ・ラン」。この無理やりな展開が素敵だ。つづく「ジェット」の自信満々のヴォーカルとアレンジと演奏。たたみかけるようなテンションの高さから絶好調ぶりが伝わってくる。
「ブルー・バード」、「マムーニア」などとてもいい曲がある。「ミセス・ヴァンデビルト」みたいな、ヘンテコさが魅力の曲もある。その他の曲は、まあ、ふつう。で、第2位入選(本来は第3位くらいな感じだけど)。

『ヴィーナス・アンド・マース』

タイトル曲「ヴィーナス・アンド・マース」で静かに幕を開け、続く「ロック・ショー」でぐいぐいと盛り上がっていく展開。前作に続いて今回もやってくれたじゃないの。と、思わず期待は膨らんだのだったが…。
その後は、ずっとライトなポップ・ソングが続いて、最後まで煮え切らないまま終わってしまうのだった。
なので残念ながらベスト5からは、落選。

『アット・ザ・スピード・オブ・サウンド』

まずこれジャケットがダメでしょ。
そしてみごとにジャケットに見合った取り得のない内容。
ポール以外のウイングス・メンバーのヴォーカル曲が半数を占める。こっちはお金払ってんだから、素人に歌わせないでよ。当然、落選。

 『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』

「ヴィーナス・アンド・マース」~「ロック・ショー」~「ジェット」とたたみみかける怒涛の冒頭メドレー。勢いに乗ったポールのまさにロック・ショーがパッケージされたライヴ・アルバム。LP3枚組というのも、その勢いのなせる業。
スタジオ版では今ひとつだった曲目も、ライヴの演奏だとけっこう聴けてしまう。まあ、長いので途中ダレる部分もないではないけど。で、第3位入選。

 『ロンドン・タウン』

ジャケットも含めて、そこはかと漂う英国風味が好みのアルバムではある。だが、いかんせん曲がどれも小粒で、いまひとつぱっとしないアルバム。
しかしハードでトラッドなラスト曲「モース・ムース・アンド・ザ・グレイ・グース」に免じて第4位に入選ということにしよう。

私のポールとのお付き合いは、このあたりまでで終わる。なので、アルバム1枚ずつのコメントは、ここで終了。あとは中略。

『フレイミング・パイ』

ビートルズの『アンソロジー』プロジェクト直後のため、回顧モードの中で作られたと言われるアルバム。
安易なポップさに流れることなく、じつに内省的で落ち着いた渋いアルバム。スティーヴ・ミラーのギターも渋い。その分、かつてのような高いテンションや勢いはないものの、それなりによい。で、第5位。
2曲目「ワールド・トゥナイト」のジェフ・リンのハーモニー・ヴォーカルがジョン・レノンの声に聴こえてドッキリ。

『フラワーズ・イン・ザ・ダート』

エルヴィス・コステロと組んだことで話題になったアルバム。
コステロとの共作は4曲のみだが、それがだいぶ刺激になったようだ。どの曲がいいとかはないが、久しぶりに多少ともロック心を感じさせるアルバムになった。
コステロのアクはやっぱり強くて、共作曲はコステロ色濃し。で、コステロのアルバムを聴きたくなる。

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