2012年10月25日木曜日

公園日記 「ひたち海浜公園」

このところ公園をよく歩いている。隠居の身なので、たいていは平日に出かけて行く。地方の平日の昼間だから、ぶらぶら歩いているような暇な人はあんまりいない。ちらほら見かけるのは、お年寄りか中年の御婦人方ばかり。
そんな閑散とした場所を一人で歩いていると、やっぱりちょっと寂しい気持になる。しかし、そんなささやかな孤独を抱えながら、緑の中を歩いていくのもなかなかいいものだ。自分は本当に自由だということを実感する。

べつに植物や花に特別の興味があるわけではない。だから木や花の名前には、あまり詳しくない。虫が好きなわけでもないし、鳥に興味があるわけでもない。
歩いているときの楽しみと言えば、いい景色を眺めること。どちらかというと、広い空間や小高いところから眺める風景が好きだ。また、深い林の中にわけ行っていくときのちょっとどきどきするような怖い感じもそれはそれで悪くない。
こんな「散歩者」である私の目から見た公園の紹介を、これからしてみたい。

10月半ばのある日、ひたち海浜公園を散策してきた。目的の一つは、園内のコキアの紅葉を見ること。
園内の「みはらしの丘」という小高い丘を一面におおうコキアが、真っ赤に色づいている風景は、この公園の秋の最大の見所となっている。
一度、この時期に訪れて、この風景を見てみたいと思っていた。テレビのローカル・ニュースで、ちょうど今が見頃と紹介していたので、さっそく出かけてみたわけだった。

ひたち海浜公園は国営の公園で、茨城県ひたちなか市にある海に面した広大な公園だ。戦前は日本陸軍の水戸東飛行場があり、戦後は米軍の射爆撃場として使用されていた場所の跡地に作られた。私が若い頃は、延々と続く有刺鉄線に囲まれた得体の知れないエリアと思っていた。
それが今は見違えるような風景になっている。ウィキペディアによると公園の総面積は350haで、東京ディズニーランドの5倍の広さ。このうち現時点で実際に公園として利用されているのはまだ全体の555%とのこと。[
それでもとにかく十分に広い。私にとってのこの公園の魅力は、やはりこの広大さだ。

勝田駅からバスに乗った。いつもならがらがらのこのバスが、すでに混んでいた。お年寄りに加えて、中国人のグループなんかもいる。みんなコキアを見に行くらしい。
約20分(390円)で、公園の西口に到着。バスはこのあと終点の南口まで行くのだが、全員ここで下車する。
西口周辺もいつになく混んでいる。なるほどコキア人気は思ったよりもすごいようだ。

入り口から入った人たちは、三々五々、コキアのある「みはらしの丘」に向って歩いていく。やはり、広いのでさすがに行列にはならない。
木々の間から赤い「みはらしの丘」が見えてくると、歩いている人々が小さな歓声をあげている。15分くらいで「みはらしの丘」のふもとに到着。

「みはらしの丘」は、園内の海に面したところに人工的に作られた小山だ。この頂上がひたちなか市で一番高い場所だという。この丘を春は青いネモフィラが、秋は赤いコキアが一面をおおい、その風景がこの公園の呼び物になっている。
秋のコキアは、ホウキグサともいう背の低い植物で、箒のような細かいが特徴的。茎を乾燥して実際に箒として利用される。そして秋になると葉はもちろん茎まで真っ赤に紅葉する。

さて、コキアはもう紅葉の時期になっているのだろうけど、去年の写真などで見るより赤さが今ひとつ薄かった。たぶん今年の夏の暑さのせいなのじゃないだろうか。
赤い丘の頂上につづくジグザクの道に人の行列が続く。その様子が、そのまま絵になる風景になっているところが面白い。めったにしないのだが思わずケータイで写真を撮ってしまった。

さて時刻は12時過ぎ。何か食べたいなと思っていたら、丘のふもとに簡単なフード・コートができていた。たぶんこの時期限定なのだろうけど、プレハブ造りながらいくつかのお店が「長屋」のように入っている。
焼きハムのお店に長い行列ができていた。長い串に厚く切ったハムをいくつも刺して、煙を上げながら焼いている。いかにも美味しそうだったが、行列に並ぶのがいやなのであきらめる。
結局、「長屋」の一番左はじのカレーのお店で、「カレー屋の焼そば」と「ナン・ドーナツ」というのを買う。合計500円。
焼そばは、ふつうのソース味ではなくエスニック味。量もたっぷりだし、イカ、エビや野菜もいろいろ入っていて大当たりだった。ドーナツは、ナンの生地を丸くまとめて揚げたゲンコツ状のドーナツで、これもなかなか美味しかった。

お腹か満たされるとまた歩き始める。じつはここからが、今日の本当の目的。「みはらしの丘」の北側に広がる森の中を歩く予定なのだ。
丘の海側を回り込むように北へ歩いていく。丘のふもとはあんなににぎわっていたというのに、こちらへ来るといきなり人影がなくなる。
「みはらしの丘」の頂上に登ると丘の北側に森が広がっているのが見える。そこには何の建物もない。前からあの中を歩いてみたいと思っていたのだ。園内マップで見ると、その一帯は「樹林エリア」と名付けられていて道も通じているようだ。

森の中の道は園内の他のエリアの道と同じくけっこう幅が広くてちゃんと舗装されている。自然の中に、ちょっと場違いな感じだ。ここもいずれシーサイド・トレインが走る予定なのだろうか。
このあたりは公園が出来る以前の植生をそのまま残してあるようだ。ひとっこ一人いない森の中の道を歩いていく。これが楽しいのだ。

しばらく歩いていくと道端に簡易トイレがあり、その左右に森の中に入っていく入り口があった。「散策路」の看板がある。
深い森の中に入っていっても大丈夫かな、とちょっと心配になる。多少ためらいながらも踏み入っていく。木々の間を小道が通っている、両側に低く紐が張ってあって、ちゃんと道が示してあるので安心だ。もし、この紐の外に出たら方向もわからなくなって、もう森の外に出られなくなるだろうな、などと想像する。
小道は大きな円のコースになっていて、けっこうな距離を歩いてもとの場所に戻った。面白い散策だった。森の空気を満喫した感じ。

再び、舗装された道を歩いていくと、西口わきの駐車場に出る。少し柵に沿って歩くとまた森の中に続く道。
ここを入っていくと、池を中心とした「ひたちなか自然の森」というエリアになっている。ここも人の気配はまったくなくて、深閑としている。池のほとりには、うち捨てられたように木製のデッキや橋があってなかなか風情のある空間だ。

ここからはすぐ西口前の池のステージがある広場に出る。約1時間の森の中の楽しい散歩だった。
池のわきのレイクサイド・カフェで、生ビールとたこ焼きを買って池を見ながら休憩する。たこ焼きはたぶん冷凍物だと思うけれど、外側がパリッとしてものすごく美味しい。今日は、ジャンク・フード三昧のおいしい散歩でもあった。

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