2014年5月28日水曜日

ペイジ&プラント 『ノー・クォーター』


今回のレッド・ツェッペリンのリイシュー・プロジェクトを勝手に記念して(?)、ツェッペリンをカヴァーしたアルバムのペスト3を選ぼうと思った。
セルフ・カヴァーも含め、あらためていろいろ聴き返してみたら、ツェッペリン・カヴァーの最高峰は、やっぱりジミー・ペイジ&ロバート・プラントの『ノー・クォーター』だった。あらためて再認識した次第。
というわけで、カヴァー・ベスト3はとりあえず置いといて、今回は『ノー・ク;オーター』について。

ペイジ&プラントの『ノー・ク;オーター(No Quarter: Jimmy Page & Robert Plant Unledded)』(1994年)』は、例のMTVアンプラグド発の企画アルバム。
原題にある「Unledded」は、番組アンプラグドのこの回のタイトルとのことだ。もちろん「アンプラグド(unplugged)」にかけているわけだが、さらに「unleaded(無鉛)」と、おそらくは、「Un-Led Zeppelin-ed (つまりツェッペリン抜き)にもかけていると思われる。

ちなみにこれに先立つ1990年に、「Un-led-Ed」というタイトルのツェッペリンのカヴァー・アルバムが出ている。ドレッド・ツェッペリン(Dread Zeppelin)(笑)というバンドのアルバムだ。ツェッペリン・ナンバーを、何とレゲエにアレンジしてカヴァーするというオフザケなアイデアなのだが、驚いたことにこの演奏がじつに素晴らしい(これを聴いてペイジは激怒したとかしないとか)。

さて、『ノー・ク;オーター』は、非常に評判が悪いアルバムだ。
これはツェッペリンの曲をアンプラグドつまり、アコースティックなアレンジで演奏したアルバムでは、全然ない。大半の曲を主に中近東風にアレンジした、ワールド・ミュージック的サウンドのアルバムなのだ。
そのためにツェッペリン・クラシックスの再現を期待したファンたちが、がっかりしたのもわからないではない。また、ワールド・ミュージック通の人たちは、その中途半端なアプローチの仕方が、物足りなかったらしい。

しかし時は流れた。このアルバムが発表されてから、今年でちょうど20年。ツェッペリンの再結成は、この間、別の形で実現した。そして、ワールド・ミュージックのブームもすでに去ってしまった。
今ならよけいな期待感なしに、白紙でこのアルバムを聴くことが出来る。するとあらためてこれはなかなかの傑作だということがわかるのだ。

何よりいいのは、ペイジとプラントが本気でやっていることだ。昔の曲をちょこっとやって、小遣いを稼ごうぜ、みたいなよくある話とは全然違う。
過去の曲を素材にしながらも、新しいものを創り出そうという二人の意気込みが伝わってくる。
プラントは、解散後ソロになってからずっと、ツェッペリン時代の曲を歌おうとしなかったという。そのプラントが、はじめてここで歌うことにしたのは、あくまで新しい曲として彼が取り組んでいたからだろう。
そんな二人のこだわりと、やる気のために、この回のアンプラグドは、それまでとかなり違う異色の展開になったわけだ。

CDに収録されているのは、全14曲。これらは、3種類の音源からなっている。MTVでのライヴ録音が9曲、スタジオ録音の曲が2曲、モロッコで現地ミュージシャンと録音した曲が3曲。CDには、これらがシャッフルされて収録されている。
特徴的なのは民族音楽的な要素が全編をおおっていることだ。モロッコでの3曲はいずれも新曲だが、現地ミュージシャンの音楽性を生かして当然モロッコ風。スタジオ録音の2曲「俺の罪」と「ノー・クォーター」も、トラッドから民族音楽へとつながっていくような曲調だ。
MTVライヴの9曲の内、4曲は例外で原曲に近い形での演奏。この仲の「サンキュー」、「ザッツ・ザ・ウェイ」、「ギャロウズ・ポウル」など、アコースティック・ギターがメインの曲は、いかにもアンプラグドの本来の趣旨にそった選曲だ。過去のツェッペリンを期待して会場に集まったファンへのサービスといったところか。
その他のライヴ5曲の内、1曲がオリエンタル風の気の抜けた新曲。残りの4曲はいずれも、旧作をアラブ~インド風にアレンジした魅力的な演奏だ。とくに「フォア・スティックス」、「フレンズ」、「カシミール」の3曲には、エジプト人のパーカッションとストリングスなどが加わり、強力な演奏を展開してこのアルバムのハイライトになっている。

なおアメリカ版リマスターCDには、手元のCDでは聴けない「The Truth Explodes」と「The Rain Song」が収録されており、また、DVD版はこれにさらに「レヴィー・ブレイク」を加えた全17曲収録とのこと。欲しいなあとは、思うのだが…。

以下、CDの曲順ではなく、以上述べた音源ごとに各曲についてコメントしてみる。


■スタジオ録音

「俺の罪(Nobody's Fault but Mine)」

 原曲はブラインド・ウィリー・ジョンスンのブルース。『プレゼンス』では、ハード・ロックだったが、ここではバンジョーやハーディ・ガーディも入ってのアコースティックな演奏。トラッドと民族音楽が融合した感じ。

「ノー・クォーター(No Quarter)」

ヴォーカルとギターのみの演奏。歪んで深くエコーのかかった音は、ダークで荒涼とした世界を描き出している。まるで寒々としたイギリスの荒野を思わせるようだ。
ブリティッシュ・トラッドが、ときおり垣間見せるクールで荒涼とした手触りを、まさに抽出したような曲だ。

■モロッコ録音(すべて新曲)

「ヤラー(Yallah)」 

ドラム・ループに乗ってのインプロヴィゼーション。なかなかカッコいい。

「シティ・ドント・クライ(City Don't Cry)」
「ワー・ワー(Wah Wah)」

 現地ミュージシャンとの共演。ヒーリング感あふれる牧歌的な曲だ。

■MTVでのライヴ録音

「限りなき戦い(The Battle of Evermore)」

 もともとは、サンディー・デニーとのデュオによるトラッド色濃い曲だった。ここではインド人の女性ヴォーカリスト、ナジマ・アフタールをサイド・ヴォーカルに迎えている。
ナジマのヴォーカルは、朗々として伸びやか。マンドリンが前面に出ている演奏は原曲と同じだが、ナジマのコブシ回しのマジックによって、ハーディ・ガーディやパーカッションがインド風に聴こえる。これはこれで、なかなかよい。

「ワンダフル・ワン(Wonderful One)」

 新曲。ドラム・ループとギターの伴奏に乗って歌われるちょっと東洋風の曲 全然面白くない。

□MTVライヴのうち、エジプト人のパーカッションとストリングスなど(エジプシャン・アンサンブル)を入れた3曲 

「フレンズ(Friends)」

 アラブ風のイントロ付き。オリジナルの不穏で邪悪な陰りが、みごとにアラブ風に変換されている。

「フォア・スティックス(Four Sticks)」

 オリジナルは平板でつまらない曲だった。しかしここでの演奏は、この曲の新しい魅力を引き出している。ものすごい勢いで吹き抜けていくアラブの風が心地よい。

「カシミール(Kashmir)」

もともと中近東っぽい曲調だったが、さらに全体にスケール・アップして、インドから中近東に至る広大なエスニック・サウンドが展開している。
オリジナルの曲の本編の後に、このステージのための独自のエンディング・パートが4分にわたって付け加えられている。この演奏がとくに素晴らしい。途中で「ブラック・ドック」の一節も聴こえる。
まさに感動の一曲。

□MTVライヴのうち、オリジナルのアレンジにそった演奏の4曲

「サンキュー(Thank You)」

ほぼ原曲どおりの演奏。
ヘンテコなアレンジばかりでは、がっかりする人もいるだろうとの配慮からのファン・サービス(?)。
原曲より長いギター・ソロがあるが、いまひとつ冴えがない

「あなたを愛し続けて(Since I've Been Loving You)」

オリジナルはツェッペリン流ブルースの傑作。
ここでもほぼオリジナルどおりの演奏なのだが、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラによるバック付き。華麗なストリングスが聴こえてきた時点で、私は完全にシラけてしまいました。

「ザッツ・ザ・ウェイ(That's the Way)」

ここから2曲は、アコースティック・ギター中心で、本来のアンプラグドの趣旨にのっとった選曲(それとも、エレクトリックの曲をアコースティックにアレンジして演奏するのが、アンプラグドの趣旨だったかな)。

オリジナルは浮遊するようなスライド・ギターの音が、夢見るような甘美な特別の世界を作り出していた。ここでの演奏は、スライドなしで、バンジョーとリズム隊入り。何だか普通の演奏になってしまった。

「ギャロウズ・ポウル(Gallows Pole)」

これもほぼオリジナルにそった演奏。
マンドリンとバンジョーがない代わりに、エジプトのストリングスが薄く入っている。それなりの出来。

参考文献:三田真「リフ中心の曲作りが開いたワールド・ミュージックへの扉」『レコード・コレクターズ』19962月号


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