2012年11月1日木曜日

東京散歩「隅田川テラスを歩く」 銀座から浅草まで

10月下旬のある日、また東京に出かける機会があって、ついでにまた散歩してきた。今回は前回に続いて再び隅田川のほとりを歩くことにする。前回、勝鬨橋から佃大橋まで歩いたのだが、とても開放的な空間で快適な散歩だった。それでまた歩いてみたいと思ったのだ。
今回はその続きとして、佃大橋から浅草の吾妻橋を目指して歩いてみようと考えた。

銀座で午後2時半に用件が終了。銀座1丁目と2丁目の間の柳通りを隅田川の方に向って歩いていく。昭和通りを越え、首都高を越え、新大橋通りを越えるが、佃大橋はけっこう遠かった。今日の隅田川沿いの散歩は、かなり長い道のりになりそうなので、その前にこんなに歩いてしまって大丈夫かなと心配になる。

銀座から約20分でやっと佃大橋のたもとに到着。橋のわきの階段を川のほとりに降りていく。すると大きな空間が開ける。
空は快晴。対岸の佃島の突端には、その空に向って高層マンションがにょきにょきとそびえ建っている。岸の手すりの向こうは舗道の高さのすぐ下から川面が広々と広がっていた。
ここに来るまでにもう少しくたびれていたのだが、この気持のいい景色を見て、急に元気がわいてきた。さっそく上流に向って歩き始める。
ちなみに川の流れを上流から下流に向かってみたとき、右側を右岸、左側を左岸と言うのだそうだ。したがって私の歩いているのは、進行方向からみると川の左側なのだが、右岸ということになる。

隅田川のほとりは「隅田川テラス」と名付けられ遊歩道として整備されている。この遊歩道の設置は隅田川の堤防の整備にともなうものだそうで、水面のごく近くに舗道があってその陸地側に堤防の役割の壁がある。だから水面と壁の間を歩いていくことになる。
しかし、殺風景な感じはしない。敷石も壁も素材やデザインに工夫が凝らされていて、エリアごとに雰囲気を変えている。今回、歩き始めてすぐのあたりは、左側の壁がレンガ積みになっていたり、コンクリートのところにはツタ系の植物が這わせてあったりする。ところどころでは壁ではなく芝生の斜面になっているところもある。
舗道の面も石を幾何学的なパターンに並べたり、お城の石組みのように不規則にしてみたり、あるいは板を張ってウッド・デッキのようになっているところなんかもある。
さらに壁際に生垣風の植え込みを設けたり、フラワー・ポットが置かれていたりと緑も豊富だ。
歩いていくとこんな感じで道の様子がどんどん変化するので飽きない。

ただ、何箇所か隅田川に注ぐ支流のところで、この「隅田川テラス」は途切れてしまう。
佃大橋から歩き始めるとすぐ亀島川という支流があってここで道が行き止まりになっていた。少し引き返して階段を上り堤防の上に出る。そこはごみごみとした川沿いの裏路地のようなところだ。一般道を探し、さらにこの支流を越える橋を探す。
何とか見つけて橋を渡るが、今度はまた遊歩道に降りていく入り口がなかなかわからない。もうちょっと何とかわかりやすくして欲しいものだ。

苦労の末、無事、「隅田川テラス」に降りることが出来て散歩を再開。すぐ前に佃島と結ぶ中央大橋がかかっている。立派な橋だ。
その橋の下をくぐって進むとそのあたりは隅田川と晴海運河が合流するところで、とにかく川幅がやたら広い。まるで海みたいだ。そこを水上バスやその他の船がけっこう頻繁に往来している。行き過ぎていく船を見るというのはやはり風情があるものだ。

上流には永代橋が見える。その向こうの意外と近いところにスカイツリーが立っていた。
永代橋は何回も渡ったことがある。もう20年くらい前のある時期、日本橋からバスに乗って佐賀町まで何回も行く機会があった。あのときバスから見下ろした隅田川の風景の中を、今20年後の自分が歩いている。自分の人生の軌跡が交錯するような感じだ。あの頃の自分と自分を取り巻いていた状況を思い返す。ちょっと切ない気持になる。

永代橋の下をくぐり、支流の日本橋川を渡る。今度はわりとスムーズに越えられた。前方には隅田川大橋が見えてくる。道路が二段重ねの近代的な橋だ。高さがあるからさぞ眺望も良かろうと思われるが、車の通行も多いしわざわざ上がってみる気にはなれない。
この橋を越えると次には清洲橋が見えてくる。青い色で吊り橋型のきれいな橋だ。
あの橋を向こう岸に渡ったその先にはすぐ清澄庭園がる。この庭園は今年の春に訪れたばかりで楽しい思い出がある。
なるほど橋にはこれまでの人生につながるそれぞれの思い出がある。こうして川を遡りながら次々に橋を越えていくことは、まるで人生の航跡の縦糸を横糸でつむいでいく様なものだなと思う。

清澄橋がきれいだったので、この辺で橋に上がって向こう岸に渡ってみることにする。橋の上から見下ろす川面は、日差しが映えてきれいだった。
橋を渡るとすぐ支流の小名木川を越えるのだが、ここでもちょっと戸惑ってしまった。
小名木川にかかる萬年橋を渡り終え、遊歩道に降りていく手前に石碑がある。「ケルンの眺め」と書いてある。説明を読んでみると、清洲橋はケルンの吊り橋を模して作られたとのこと。そして、萬年橋のたもとのこの地点から眺める清洲橋の姿がもっとも美しいのだとか。そうかと思って清洲橋の方を見ると、おそらくこの碑より後にできたと思われる川べりのマンションにさえぎられて橋の全景を見ることが出来ない。何とも間抜けな石碑だ。

遊歩道に降りて、今度は左岸を歩いていく。こちらはこちらで植栽が多く、公園のように工夫されている。このあたりには芭蕉のゆかりの地があったりするのだが、今回はひたすら隅田川沿いを歩くことに専念する。
新大橋をくぐり首都高の箱崎ジャンクションの下をくぐると、そこからは頭の上を首都高が通ることになる。右側には両国国技館があるはずだが、堤防の壁と天井のように上をふさいでいる首都高のせいで何も見えない。
しばらく対岸の景色を眺めながら歩く。この風景も懐かしい。車で東京に来るときには頭の上にある首都高を必ず通った。左に国技館があり、そして右側、墨田川の向こうにこの風景があった。

先の方に両国橋が見えてきたので、これを渡ってまた向こうに戻ることにする。そうしたら、右の堤防の壁に、昔の隅田川の様子を描いた大きな浮世絵が見えた。思わず近づいて見入ってしまう。
ここからは「隅田川テラス・ギャラリー」という一画で、隅田川や両国界隈を描いた浮世絵や錦絵を、拡大して壁面に掲示しているという。今、目にしている光景と、昔の賑わいの様子が重ねて見えて興味深い。
というわけで、壁面の浮世絵を辿りながらそのまま左岸を歩き続けることになる。電車が頻繁に往来する総武線の橋を越えて歩いていくと、昔の河岸のちょっとした復元などもあったりしてなかなか面白い。

蔵前橋の下をくぐる。そろそろトイレに行きたくなってきた。遊歩道に設置してある地図を見ると、次の厩(うまや)橋の向こう側のたもとにトイレがあることがわかった。そこで、この厩橋を渡る。まだ、4時前だが、日差しがだいぶ傾いてきた。しかし、渡っている人影はまだまだ多い。
再び今度は右岸の遊歩道を歩くことにする。対岸のすぐそこにスカイツリーがある。そうか、向こう岸を歩いていたので、スカイツリーが近づいてくるのに気がつかなかった。こちらに渡ってよかったと思う。
ここからは屋形船の乗り場が続いている。当然この時間は、何艘もの屋形船が岸壁にもやってある。今夜も出番があるのだろうか。

浅草までもう少し。だいぶ足もくたびれてきた。そのままこちら側の岸を歩いてゴールしようと思ったら、なんと次の駒形橋をくぐったところで遊歩道がなくなっている。
仕方なく駒形橋を渡ってまた向こう岸に渡ることにする。
橋に上がっていくところで、手すりにもたれて川面を見ていた30歳前後の男に声を掛けられた。
この辺で野宿できるところを知らないかという。秋田から出てきて来週仕事があるはずなのだが、それまでお金がない。昨夜はそこの駒形橋の下で夜を過ごそうとしたが、ガードマンに怒られたり、ホームレスに絡まれて大変だったという。
東京にはいろんな人がいるんだなあと思う。しかし私にもどうにもならないので、自分も田舎から出てきたのでわからない、と言って別れる。
別れ際にその男はこんな事を言った。「ちゃんと話を聞いてくれてうれしいです、誰もまともに相手にしてくれなかったので。オトーサンのような人に会えてよかった」。この「オトーサン」というのは私のことらしい。まあオヤジだからしょうがないけど。

駒形橋を渡って再び左岸に下りる。ここから次の吾妻橋までは、植栽が多くてまるでミニ公園のように整備されている。またこっちに戻ってよかったと思う。
そして、終点の吾妻橋に到着。この橋を向こうに渡ると浅草だ。佃大橋から歩き始めてちょうど2時間。けっこう疲れた。

橋を渡ろうとしたら今度は60前後のおばさんに声を掛けられる。浅草橋の駅はどこかという。「浅草」とつく橋だからからすぐ近くと思っているらしい。
浅草橋の駅まではけっこう歩くこと、しかも川の向こう側にあることを教えてあげる。すると川のこちら側(左岸)を歩いて行くと何があるのかと尋ねてくる。両国の国技館があるが、やっぱりけっこうな距離があると忠告した。歩くのは平気なので行ってみると言ってその人は去っていった。日もだいぶ傾いてきたというのに、これから一人歩きで観光か。元気なおばさんだ。東京にはいろいろな人がいる。

吾妻橋を渡ると久しぶりの浅草。相変わらずの賑わいだ。
くたびれていたのに何となく田舎者の定番コースを巡ってしまう。まず神谷バーに入って、デンキブランを一杯だけ飲む(260円)。次に大黒屋に行って海老天丼(1900円)を食べた。かけ汁がものすごく黒っぽい。前から思っていることだが、これって粋な江戸風というより、思いっきり田舎っぽいんじゃないのかな。
それからせっかくなので浅草寺で観音様にお参りした。お堂を出ると境内に、スカイツリーに向って写真を撮っている人がたくさんいる。見るとまだ夕方なのにスカイツリーに月がかかっていた。なるほどいい風情だ。そう言えばたしかまもなく十三夜だったな。
最後にいいものを見た。これで今日の散歩はおしまい。いい散歩だった。

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