2012年11月17日土曜日

ツェッペリンのブルース・ルーツについてのメモ

The Early Blues Roots of Led Zeppelin』というアルバムがある。私は数年前にタワー・レコードで見つけて手に入れた。
ジャケットがデジパックで、ブックレットつき、しかもアナログ盤風のピクチャー盤。なかなか気が利いたつくりにもかかわらず、輸入盤とはいえ価格が1000円以下と、かなりお得感があった。

これはツェッペリンに影響を与えたブルースのオリジナル曲を集めたコンピレーション盤だ。
ツェッペリンの音楽の最も重要なルーツが、ブルースであることは言うまでもない。同様の企画のアルバムは、他にも『ツェッペリン・クラシック』など何種かあるようだ。が、私はこれしか持っていない。

いくつかあるブルース・ルーツのコンピ盤の中で、このアルバムのユニークなところは、タイトルに「Early Blues」とあるように、初期の古典的なブルース、つまり戦前の南部ブルース、あるいはカントリー・ブルースの曲だけを集めたものであることだろう。
付属のブックレットの解説によると、これらはすべて1920年代から40年代にかけて録音されたものだという。14人のブルース・マンによる17曲。スタイル的には、アコースティックな弾き語りの曲が中心。

その代わり戦後のシカゴ・ブルースやシティ・ブルースなど、電化楽器とバンド・スタイルで演奏するブルースは入っていない。
だからツェッペリンのブルースのカヴァーの中では最も有名と思われるマディ・ウォーターズ「ユー・シュック・ミー (You Shook Me)」とか、オーティス・ラッシュの「君から離れられない (I Can't Quit You Baby)」とか、「レモン・ソング(The Lemon Song)」の原曲、ハウリン・ウルフの「Killing Floor」なんかはこれには入っていない。

曲目は次のとおり。

The Early Blues Roots of Led Zeppelin

1. When the Levee BreaksMemphis Minnie
2. Sugar Mama
Sonny Boy Williamson
3. Jesus Gonna Make Up My Dying Bed
Josh White
4. Nobody's Fault But Mine
Blind Willie Johnson
5. Traveling Riverside Blues
Robert Johnson
6. Girl I Love She Got Long Curly Hair
Sleepy John Estes
7. Shake 'Em on Down
Bukka White
8. I Want Some of Your Pie
Blind Boy Fuller
9. Gallis Pole
Leadbelly
10. My Mama Don't Allow Me
Arthur "Big Boy" Crudup
11. My Baby I've Been You Slave
Sonny Boy Williamson
12. Fixin' to Die
Bukka White
13. Boogie Chillen
John Lee Hooker
14. Lone Wolf Blues
Oscar Wood
15. Got the Bottle Up and Gone
Sonny Boy Williamson
16. Truckin' Little Woman
Big Bill Broonzy
17. Going Down Slow
St. Louis Jimmy Oden

タイトルを見ただけでどの曲の原曲かわかってしまうものもあれば、そうでないものもある。
で、ツェッペリン・ファンである私としては当然ワクワクしながら聴き始めたわけだ。たしかにあの曲の原曲はこれだったのかという驚きもいくつかはあった。しかし、大半の曲は、ツェッペリンとの関係がさっぱりわからない。
このアルバムのブックレットの英語のライナー・ノートは、4ページもあるのに、各曲についての情報はほとんどないに等しい。
そこでネットでこのアルバムについて調べてみた。ツェッペリン・マニアの誰かが詳細に説明してくれているのではないかと期待したのだが、私には探し当てられなかった。
このアルバムを持っている何人かの方の記事を見ても、ツェッペリンとの曲の関連がわかっている人はいないようだった。

そこでしかたなく自分なりに調べたメモが今回のこの記事である。
参考にしたのは、主に『レコード・コレクターズ』誌1996年2月号のツェッペリン特集に掲載された小出斉氏の「ブルースから曲のイメージを、ファンクから音の骨格を アメリカ黒人音楽との関わりを徹底検証」という文章だ。
他にこのアルバムのブックレットのパット・ハリソン(Pat Harrison)という人の解説(前述のように曲についての情報量は少ない)など。あとは、自分なりに曲を聴いたり、ネットで当たったりしてみた。
ツェッペリン関係の書籍を読めば、この辺についての情報があるのかもしれないが、とりあえず私は持っていないので…。

さてちょっと調べてみると、このアルバムに収録されている曲は、三つに大別できることがわかってきた。

① 単独のカヴァー曲…まずひとつめは、ツェッペリンが単独の曲としてカヴァーした曲の原曲。

② メドレーの中に登場する曲…二つめは、ツッペリンのライヴにおける呼び物のひとつであった「胸いっぱいの愛を」の曲間のメドレーの中で演奏された曲(初期には「ハウ・メニー・モア・タイムズ」の曲間にメドレーがあった)。

③ ツェッペリンの曲の素材になった曲…そして三つめが、丸ごとのカヴァーとしてではなく、ツェッペリンの曲の部分的な素材として使われたり、あるいはインスピレーションの元となった曲。

ただし①のカヴァーや②のライヴでの演奏においても、原曲に忠実であることはむしろ少ない。
歌詞を変えたり、新たに付け加えたりといったことがしばしばある。曲調がかなり変えられていることもある。その上、弾き語り中心の素朴な原曲に対し、ツッペリンの曲は、こったアレンジがほどこされ、爆音リフが前面に出ているから相当印象は変わっている。
だからライヴの「胸いっぱいの愛を メドレー」などで、演奏されていても、私のようなブルース初心者には元の曲を判別できないことが多い。
なお彼らの場合、原曲があっても、作曲のクレジットにそれを示さず、自作である事にしたり、トラディッショナルと表示していろいろなトラブルを引き起こしてきたことは御承知のとおりだ。

収録曲を上の区分にしたがって分けてみると次のようになる。

① 単独カヴァー曲

1. When the Levee Breaks
  「レヴィー・ブレイク (When The Levee Breaks)」の原曲
2. Sugar Mama
  ツェペリン版は未発表
3. Jesus Gonna Make Up My Dying Bed
  「死にかけて (In My Time of Dying)」の原曲
4. Nobody's Fault But Mine
  「俺の罪 (Nobody's Fault but Mine)」の原曲
5. Traveling Riverside Blues
BBCのセッションでカヴァー
また「レモン・ソング(The Lemon Song)」の素材でもある
6. Girl I Love She Got Long Curly Hair
BBCのセッションでカヴァー
9. Gallis Pole
「ギャロウズ・ポウル (Gallows Pole)」の原曲

② メドレーの中に登場する曲

12. Fixin' to Die
ライヴ「胸いっぱいの愛を メドレー」で演奏
13. Boogie Chillen
ライヴ「胸いっぱいの愛をメドレー」で演奏
初期の「ハウ・メニー・モア・タイムズ メドレー」でも演奏
15. Got the Bottle Up and Gone
ライヴ「胸いっぱいの愛をメドレー」で演奏
初期の「ハウ・メニー・モア・タイムズ メドレー」でも演奏
16. Truckin' Little Woman
ライヴ「胸いっぱいの愛をメドレー」の中で演奏
17. Going Down SlowSt. Louis Jimmy Oden
「胸いっぱいの愛をメドレー」の中で演奏

③ ツェッペリンの曲の素材になった曲

7. Shake 'Em on Down
「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー (Hats off to Roy Harper)」の素材
また「カスタード・パイ (Custard Pie)」の素材でもある
8. I Want Some of Your Pie
「カスタード・パイ (Custard Pie)」の素材
14. Lone Wolf Blues
「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー (Hats off to Roy Harper)」の素材

以下の2曲は関連がわらなかった。残念。

10. My Mama Don't Allow Me
11. My Baby I've Been You Slave

以下、収録曲順に簡単にコメントを付す。

1. When the Levee BreaksMemphis Minnie

「レヴィー・ブレイク (When The Levee Breaks)」の原曲
ただし小出斉氏によれば、原曲にない歌詞でサビ部分を作っているとのこと。

2. Sugar Mama
Sonny Boy Williamson

ライナー・ノートでパット・ハリソンは、ライヴで演奏している曲と書いているが、それは確認できなかった。
この曲はツッペリンが1969年にロンドンのモーガンスタジオで録音したカヴァー曲の原曲だ。
ツェッペリンのこの演奏は未だに未発表のレア音源。でもユー・チューブで簡単に聴くことができる。

3. Jesus Gonna Make Up My Dying Bed
Josh White

「死にかけて (In My Time of Dying)」の原曲。
小出斉氏によるとツェッペリン版は、曲のアレンジ、歌詞も原曲とは大幅に違うとのこと。
ウィキペディアの解説では、ツェッペリン版の曲タイトルは、原曲からではなく、ボブ・ディランがこの曲をカヴァーしたときのタイトル「In My Time of Dying」(ファースト・アルバムに収録)に倣ったと指摘している。
だからおそらく曲そのものも、ツェッペリンはこのディラン版を下敷きにしているのではないだろうか。

4. Nobody's Fault But MineBlind Willie Johnson

「俺の罪 (Nobody's Fault but Mine)」の原曲。
ただし歌詞は変えてあるとのこと(小出斉氏)。

5. Traveling Riverside Blues
Robert Johnson

ライナーでパット・ハリソンが書いているとおり、ツェッペリンがカヴァーしてBBCのセッションで演奏している。1969年6月24日録音。
現在『最終楽章(コーダ)』と『BBCライヴ』で聴くことができる。
小出斉氏によると、この曲の歌詞中の「You can sdueeze my lemont…」というフレーズが、「レモン・ソング(The Lemon Song)」で引用されており、曲のタイトルにもなったとのこと。

6. Girl I Love She Got Long Curly Hair
Sleepy John Estes

ツェッペリンがBBCのセッションでカヴァーしている曲。1969年6月16日録音。
『BBCライヴ』の曲目表記では、「ザ・ガール・アイ・ラヴ(The Girl I Love She Got Long Black Wavy Hair)」となっている。つまり原曲の「Long Curly Hair」が、「Long Black Wavy Hair」と変わっているが同じ曲である。

7. Shake 'Em on Down
Bukka White

一聴してすぐ「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー (Hats off to Roy Harper)」の原曲とわかる。
ツェッペリンのこの曲は、タイトルからしてロイ・ハーパーの曲が元ネタと思いたくなるが、じつはブルースが原曲だったとはちょっと意外。ただし、歌詞はだいぶ違っているようだ。
ツェッペリン版は、ギターもヴォーカルも異常に歪みまくっていて原曲とだいぶ印象が違う。しかし小出斉氏によると、ペイジとプラントはこのブッカ版をかなり参考にしていると指摘している。
また小出氏によるとCD『ツェッペリン・クラシックス』の解説では、この曲を「カスタード・パイ (Custard Pie)」の原曲としているとのこと(ただし同氏はあまり賛同していない様子)。

8. I Want Some of Your Pie
Blind Boy Fuller

「カスタード・パイ (Custard Pie)」の元ネタのひとつらしい。
ウィキペディアによると、「カスタード・パイ」は、この曲の他、ブッカ・ホワイトの「Shake'Em On Down」、ブラウニー・マギーの「Custard Pie Blues」など複数の古典的なブルース・ナンバーが元となっているとのことだ。

9. Gallis Pole
Leadbelly

「ギャロウズ・ポウル (Gallows Pole)」の原曲。
ただし、あるネット上の記述によると、この曲の原曲は「The Maid Freed from the Gallows」という民謡で、これをレッドベリーが上記のタイトルで最初に録音したものという。
だから曲のクレジットに例によって「トラディッショナル」とあるのは、この曲の場合は正しいということになる。

10. My Mama Don't Allow Me
Arthur "Big Boy" Crudup

不明。
関係あるかどうかわからないが、最初のフレーズが「Boogie Chillen」と同じ。この一節だけ引用されていたら、二つの曲の区別はつかないと思うのだが。
それから「カスタード・パイ」の歌詞に「My Mama Allow Me」とあるのだが関係ないかな。

11. My Baby I've Been You Slave
Sonny Boy Williamson

不明。

12. Fixin' to Die
Bukka White

ライヴの「胸いっぱいの愛を(Whole Lotta Love)メドレー」の中で演奏されている曲。
『BBCライヴ』で聴ける。ただし、ほんの一節。

13. Boogie Chillen
John Lee Hooker

ライヴの「胸いっぱいの愛をメドレー」の中でほとんどつねに演奏されている曲。
『BBCライヴ』と『永遠の詩』でも聴くことができる。
『レッド・ツェッペリン DVD』の1970年1月9日のロイヤル・アルバート・ホール公演の映像を見ると、バンド初期の「ハウ・メニー・モア・タイムズ (How Many More Times)」から始まるメドレーの中でも、すでにこの曲をやっていたことがわかる。

14. Lone Wolf Blues
Oscar Wood

ライナー・ノートのパット・ハリソンによると、この曲は「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー (Hats off to Roy Harper)」に似ているとのこと。
あるブログでも「ハッツ・オフ…」の元になった曲として、先のブッカ・ホワイトの「Shake 'Em on Down」とともに、この曲を挙げていた。
しかし私にはスライド・ギターのすべり具合以外はあんまり似ているように聴こえないのだが…。

15. Got the Bottle Up and Gone
Sonny Boy Williamson

 ライヴの「胸いっぱいの愛を メドレー」の中で演奏されている曲。
また『レッド・ツェッペリン DVD』の1970年1月9日のロイヤル・アルバート・ホール公演の「ハウ・メニー・モア・タイムズ」から始まるメドレーでも聴くことができる。「Boogie Chillen'」の次に、ほんの一節だけなのだが。
71年4月1日のBBC収録用のコンサートのライヴの「胸いっぱいの愛を メドレー」の中でも演奏されているように聴こえる。ただし下の「Truckin' Little Woman」と合体していて、その最初の一節の歌詞が「Bottle Up and Gone」と聴こえるのだが…。

16. Truckin' Little WomanBig Bill Broonzy

ライナー・ノートでパット・ハリソンは、単にライヴでやっている曲とだけ述べていたが、「胸いっぱいの愛をメドレー」の中で演奏されている曲。
『BBCライヴ』のディスク2に収録された、71年4月1日のロンドン、パリス・シアターでのライヴにおける「胸いっぱいの愛をメドレー」の中でも演奏されていた。しかしCD化の際に、この曲のパートは編集でカットされてしまった(放送時にはそのままだったのに)。このときのライヴの完全版のブートレグが手元にあったので確認できた。

17. Going Down Slow
St. Louis Jimmy Oden

ライヴの「胸いっぱいの愛をメドレー」の中で演奏されている曲。
1972年6月25日のLA公演の「胸いっぱいの愛を メドレー」で聴ける。この公演は『伝説のライヴ』に収録されているもの。
メドレーの終盤「Hello, Mary Lou」に続いて始まるこの曲のパートは、かなり長尺の演奏。ペイジの稲妻ギター・ソロもたっぷり堪能できる。最後はいつのまにか「The Shape I'm In」に変わって、エンディングの「胸いっぱいの愛を」に戻っていく。
この他、未聴だが、1973年3月17日のミュンヘン公演のブートレグに、この曲名をタイトルにしたものがある。セット・リストには単独でこの曲名が見あたらないので、たぶんメドレーの中で演奏されているのじゃないかと思う。

コメントは以上。こんなことを調べながら、このアルバムを何回も聴いていたら、とてもいい気分になった。古いブルースもなかなかいいもんだな。プラントとペイジの気持がわかるような気もする。

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