2012年3月17日土曜日

ボブ・ディランのアルバム5選

いよいよ最後の大ネタ、ボブ・ディランのアルバム5選である。

高校生の頃、ずいぶんディランを聴いた。1970年代の初め頃だから後追いである。さかのぼってフォーク・ロック期からカントリー・ロック期、そして、『セルフ・ポートレイト』とか『ディラン』とか『パット・ギャレット……』とかの「わけのわからん」期までをも聴いていた。
さらに厚い『ボブ・ディラン全詩集』も買って一生懸命に読んだものだ。ディランの詩は難しくてよく分らなかったけど。

映画『ドント・ルック・バック』の画面に登場するサングラスをかけ、タバコを吸いまくる若いディランの姿にはしびれた。異様にギラギラしていて、オーラを放出し続けていた。その容姿はまさに「ロック」だった。
けれど、その後のフォーク・ロック期のディランのサウンドは、全然ロックじゃなかった。レッド・ツェッペリンやディープパープルを聴いていた耳にはロックとは聴こえなかったのだ。

しかしロック少年はディランの存在自体に引き付けられたのだと思う。あのとっつきにくいしゃがれ声、語尾を引きずるようにして歌うクセのあるヴォーカル、そしていくつかの曲での平坦なメロディー。これのどこがいいのか説明するのは難しい。しかしハマると抗しがたい魅力があって、ヤミつきになってしまう。

そして1970年代の<復活>からは、リアル・タイムで注目し、アルバムが出るたびに繰り返し聴いた。そして、ついには1978年の武道館公演で、ディランの姿を目の当たりにしたのだった。
しかし、ディランはこの頃からまた曲がり角を曲がり、長い低迷期に入ってしまう。今の彼は私からずいぶん遠いところに行ってしまった。評判の高い近作も一応聴いてみたが、私の心を動かすものではなかった。

以下今回もかなり極私的なアルバム5選である。その前に、世間的な評価はたぶんこうなんだろうなというベスト5を挙げておく(余計なお世話だろうけど)。

<一般的にはたぶんこうだろうと想定されるベスト5>

・『時代は変わる』
・『追憶のハイウェイ61』
・『ブロンド・オン・ブロンド』
・『血の轍』
・『モダン・タイムズ』(?)
*順位なし。発表年代順。

<私の選ぶボブ・ディランのアルバム極私的5選>

第1位 『ブラッド・オン・ザ・トラックス(血の轍)』
第2位 『プラネット・ウェイヴズ』
第3位 『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』
第4位 『ハード・レイン(激しい雨)』
第5位 『ボブ・ディラン』
<次点> 『ボブ・ディランズ・グレーテスト・ヒッツ Vol.Ⅱ』
<次点の次点>『ニュー・モーニング(新しい夜明け)』

<アルバム5選の概要>

第1位を除いて、比較的マイナーなアルバムが並んでしまった。べつに奇をてらったわけでも、へそ曲がりだからでも、判官びいきだからでもない。私が素直に好きだと言えるアルバムだ。
なお1978年の『ストリート・リーガル』以降のアルバムは、世評の高い近作も含めて私はまったく評価していないので、当然ここにも出てこない。

<各アルバムについてのコメント>

第1位 『ブラッド・オン・ザ・トラックス(血の轍)』

誰もが認めるディランの最高傑作。私も何も言うことはない。
1974年の<復活>から始まる70年代中期のディランは、アルバム製作やライヴ活動に精力的に取り組んで、気力の充実していた時期だ。音楽的にみてもこの頃がディランの第二のピークだったと思う。その頂点で作られたのが、このアルバムというわけだ。
 
音がすっきりとクリアーで、リアルにディランの声が迫ってくるアルバムだ。
この頃のディランは、私生活の上では妻のサラとの別れがあり、つらい時期だったらしい。その事を歌った曲も収められている。しかし、ここで聴けるディランの声は明確で確信に満ちていて、しかも深い。

第2位 『プラネット・ウェイヴズ』

発売されたときは待望のザ・バンドとの初共演盤ということで話題になった。ところが、現在では人気も評価もなぜかかなり低い悲しいアルバム。だが私は大好きな一枚だ。名盤だと思う。

このアルバムには落ち着いたいい曲がそろっている。
とりわけ「ゴーイング・ゴーイング・ゴーン」、「フォーエヴァー・ヤング」(A面のヴァージョン)、「ダージ(悲しみの歌)」などの翳りを帯びた切々としたディランの歌声は、しみじみと胸に迫ってくる。それまでのディランの歌には感じられなかったものだ。

ザ・バンドは、「共演者」というよりはやはりバック・バンド。でも、『ブラッド・オン・ザ・トラックス』なんかよりは、歌と演奏に一体感がある。
ザ・バンドの演奏は、一曲目の「オン・ザ・ナイト・ライク・ディス(こんな夜に)」(アコーディオンがじつにいい味)に典型的にうかがわれるように、タイトではないが独特のノリと、ふくらみと味わいのある音で、それなりに彼らの個性を発揮している。

第3位 『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』

フォーク・ロックのスタイルが確立したとされる『追憶のハイウェイ61』のひとつ前に発表され、過渡期のアルバムと言われているが、私は全然そうは思わない。電化された伴奏の曲とそうでない曲とが混在しているが、そんなスタイルを超えて、ディランのヴォーカルはどれもロックだ。

ロックに革命をもたらしたと言われる名盤ではあるが、音の構造はいわゆるロックではない。歌の伴奏に電気楽器を使ったというだけのこと。バンドのサウンドが一体となってリフを決めたりしないし、ギターが前面に出てソロをとるということもない。
むしろディランのヴォーカルが何よりロックなのだ。迷いのない自信に満ちたヴォーカルは、圧倒的なビート感を持っている。
ザ・バーズがカヴァーしてフォーク・ロックのはしりといわれる「ミスター・タンブリンマン」のオリジナル・ヴァージョンが、このアルバムに収録されている。伴奏は、アコースティックなフォーク・スタイルだが、むしろこちらの方がザ・バーズの演奏よりもよっぽどロックを感じる。

第4位 『ハード・レイン(激しい雨)』

1975年から76年にかけて行われた米国ツアー<ローリング・サンダー・レヴュー>のライヴ録音。このツアーの録音は、その後<ブートレッグ・シリーズVol.>として、拡大版が出たために先発のこの『ハード・レイン』の方は、存在価値が薄いと思われあまり顧みられなくなってしまったようだ。

<ローリング・サンダー・レヴュー>は、ディランを中心にたくさんの出演者が入れ替わり立ち代り出てくるというトータルで4時間にも及ぶショウだったという。だからこのアルバムに、そのショウのダイジェストを求めるのはそもそも無理がある。これは独自のアルバムとして聴くべきだ。
すなわちこれは1970年代のディラン充実期のエレクトリック・サウンドがコンパクトに聴けるという意味で意義のあるアルバムなのだ。ラフでかつワイルドな勢いのある歌と演奏が詰まっている。

古い曲、たとえば「ワン・トゥー・メニー・モーニング」や「アイ・スリュウ・イット・オール・アウェイ」などが印象深い名曲としてよみがえっている。また、近作の「オー・シスター」は『ディザイア(欲望)』のオリジナル・テイクよりもずっとよい。

第5位 『ボブ・ディラン』

記念すべきディランのファースト・アルバム。だが、全13曲中ディランのオリジナルは2曲のみで、残り11曲は他人の曲。ということもあるのだろう、非常に軽視されているアルバムだ。
しかし、みんなは誤解している。このアルバムは、2枚目以降のディランの世界とはまったく別の特別の輝き持った名盤なのだ。

ここでのディランの声はすでにロックしている。「フィキシン・トゥー・ダイ」や「ハイウェイ51」や「ゴスペル・プラウ」といった曲を聴けば、すぐにその意味が理解されるはず。力強い声、勢いのある歌い方。ロック的なビート感で、ディランはパワフルに唸り、シャウトしている。
じわじわと熱っぽく迫るラスト・ナンバー「シー・ザット・マイ・グレイヴ・ケプト・クリーン」もよい。ディランのヴォーカルの力はすごい。

ちょっとふっくら顔のあんちゃんみたいなアルバム・ジャケットに、けっしてだまされてはいけない。

<次点> 『ボブ・ディランズ・グレーテスト・ヒッツ Vol.Ⅱ』

1971年発売のベスト・アルバム。名前に反してシングル・ヒットはあんまり入っていない渋い内容。
まず活動時期を縦横無尽に行き来してピック・アップした選曲がシュール。シリアスなフォーク期、アグレッシブなフォーク・ロック期、マイルドでスイートなカントリー期の歌が並んでいる。そして、それらの曲の意味がありそうでたぶんない配列もシュール。この曲順はやっぱりランダムでしょ?だけど、まあどんな風に並べてもディランの魅力はちゃんと伝わってくる。もしかすると、そこがねらいなのかも。

それよりも何よりも、全21曲中6曲の初収録曲がどれもよい。レオン・ラッセルとの「ワッチ・ザ・リヴァー・フロー(川の流れを見つめて)」と「…マスター・ピース」、初期のライヴ「明日は遠く」、ハッピー・トラウムとの「アイシャルビー・リリースト」他2曲など、どれも味わい深い。
ワイト島でのザ・バンドを従えてのライヴ「マイティ・クイン」も好きな演奏なので入っていてうれしい(『セルフ・ポートレイト』に収録されているけど)。
これらが主に入っているLPのD面はよく聴いた。

<次点の次点>『ニュー・モーニング(新しい夜明け)』

 これも『プラネット・ウェイヴズ』同様に、出たときは絶賛されたのに、今はまったく顧みられることがなくなってしまったアルバム。でも、なかなか充実したよいアルバムだと思う。少なくとも『ディザイア(欲望)』よりは、いいと思うよ。

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