2013年6月13日木曜日

越前風おろしたっぷりそば

大根を冷蔵庫の中で持て余してしまうことがたまにある。
おでんにも入れた。風呂吹き大根も作った。さて、それでも残った大根を一気に使い切るにはどうしたらよいか。

そんなとき私は、おろしそばを作って食べる。
おろしそばといっても、たぶん普通の人が思い浮かべるものとはだいぶ様子が違っている。大根おろしがとにかく大量。
大量に作った大根おろしにめんつゆをかけて、そばのつけ汁にするのだ。つまり水なしで、大根おろし100パーセント。
茹でてセイロに盛ったそばを、このつけ汁につけて食べる。どっぷりと浸し、おろしをそばにからめて一緒にすくいながら食べるのだ。なかなか豪快でしょ。

ところで、たいていのそば屋にはメニューに「おろしそば」がある。しかし「おろしそば」と言えば、本来は越前そばのことなのだ。
もうずいぶん前のこと。福井県出身の知人に連れられて日本橋にある越前そばのお店に行ったことがある。
聞けば福井県もそばの産地であり、伝統のそばがあるとのこと。私の住んでいる茨城も有数のそば産地であるから、福井のそばとは如何なるものかと思いながら出てくるのを待った。

出てきたのは、一見して普通のもりそばだ。そばの色が、老舗のそば屋の気取った白っぽい色ではなくて、田舎風に濃いめなのに好感を持つ。蕎麦殻まで挽いてそば粉にするので、色が濃くなるのだが、その方が風味が強くて私は好きだ。
しかし、普通のそばと決定的に違っていたのはつけ汁だった。大根おろしの汁だけを絞って、それにかえしを加えたものだという。
かえしとはしょうゆ、砂糖、みりんを合わせて煮てから寝かせたもの。そばのつけ汁は、これをだし汁で割ったものだ。だし汁の変わりに、このお店では大根おろしのしぼり汁を使っているわけだ。しかもその大根は、辛味大根でけっこうピリリとくるのだが、これがまたいい。
かなり個性的だが、印象に残る美味しいそばだった。

後で調べてみると、越前そばは越前おろしそばとも言うくらいで、大根おろしと切っても切れない関係にある特徴のあるそばなのだった。
その食べ方には、ぶっかけとつけそばの二通りがあるという。ぶっかけは、そばに大根おろしを乗せ、その上からツユをかけて食べる。つけそばは、大根おろしにツユを加えて、これにつけながら食べる食べ方だ。
日本橋のお店で食べたつけ汁は、大根おろしの汁だけを絞って使っていたが、あれは都会風のアレンジだったのだろう。本来は大根おろしを絞らずそのまま使うものらしい。

面白いのは、福井もけっこう寒い地方のはずだが、越前そばには温かいツユで食べるいわゆるかけそばの伝統がないことだ。どうしてだかは知らない。しかし、そばは温めるとコシを味わうことが出来なくなるから、何といっても冷たいもりそばに限る。かけそばがないとは、この越前そばを伝えてきた人たち、なかなか通ではないか。

最近のそば屋のメニューに、温かいかけそば系と冷たいもりそば系に加えて、冷やし系というのを見かける。浅い器に盛った麺に具材を散らし、その上からツユをかけたものだ。
 これは、冷やし中華か、あるいは讃岐うどんの「ぶっかけ」をまねて、最近になって生まれた食べ方かと思っていた。ところが、越前そばにはちゃんと昔からこのぶっかけの伝統があったのだった。

さてそういうわけで、今日の私のお昼は、越前風おろしたっぷりそばだ。
今日はこのためにわざわざ生そばを買ってきた。一応2食分180グラムを食べることにする。そばを茹でるお湯を沸かしながら、大根をおろす。
こういうときは、セラミック製の丸型のおろし器を使う。すごく便利だという評判を聞いて、ちょっと高いけど買ってみた。ところが、使い勝手が悪くて、めったに使っていない。できたおろしを器にあけるときに、まわりをびちゃびちゃに汚してしまうからだ。
しかし大量におろすときには、両手で大根を持ってごしごしできるので使っている。

このおろし器てひたすら大量の大根おろしを作る。今回、できたものをためしに量ってみたら280グラムあった。生そば180グラムは、茹で上がると270グラムになるはずだから。麺と大根おろしがほぼ同量ということになる。
小さなどんぶりに移した大根おろしに、めんつゆを50ccほど加えてみた。
茹で上がったそばを水にさらし、水を切ってセイロに盛る。これで出来上がりだ。

いよいよそばを、大根おろしのつけ汁につけて食べ始める。
つけるというより、そばをどっぷりと浸し、おろしをたっぷりとからめて一緒にすくいながら食べる要領だ。
大根おろしは、もう薬味の域をとうに越え、そばの引き立て役でももはやない。大根おろしそのものが主役といった感じだ。こうなると、そばはむしろ添えもの。でもそれでよいのだ。これは大根を美味しく大量に食べる方法なのだから。大根おろしだけだったら、こんなに美味しくたくさんは食べられないよね。

どんぶりの底におろしを少し残して麺を完食。ここに麺を茹でたそば湯を注いでゆっくりと飲む。今日の生そばには、けっこう打ち粉がついていたので、そば湯にもそれなりに風味がある。
ちょっとしたおまけの幸せ。ごちそうさまでした。

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