2012年5月2日水曜日

D.シルヴィアンと元ジャパンたちのアルバム5選+5選

今回は、元ジャパンのメンバーたちのアルバムから私の好きな5枚を選んでみる。
といっても、デヴィッド・シルヴィアンの5枚と残りの3人をひとくくりにしての5枚という2本立て。この分け方は3人の方のファンには申し訳ないけど、誰しも納得だよね。

前回デヴィッド・シルヴィアンの新作ベスト盤『ア・ヴィクティム・オブ・スターズ』について書いた。よいベスト盤を聴くと、オリジナルのアルバムを無性に聴きたくなる。ベスト盤にチョイスされた曲が新しい輝きを放っていて、「これが入っていた元のアルバムって、こんなに良かったっけ」と思わせるからだ。
で、シルヴィアンのオリジナルのアルバムをひと通り聴き返した。そうしたらさらに他の3人関連のアルバムも聴きたくなり、結局このところ彼らの音楽の世界にどっぷりとひたって日々を過ごしている。

デヴィッド・シルヴィアンのアルバムを5枚選ぶのは私の場合わりと簡単だ。
今回のベスト盤『ア・ヴィクティム・オブ…』の方法論、つまりインストはすっぱりとはずす、を私も適用。その上で、まず6枚のソロ・アルバムを見てゆく。
2ndの『ゴーン・トゥ・アース』は散漫なので落選、6thの『マナフォン』は難解なので落選。あとは、どうしてもはずせない。ということで、もう4枚決定。
残りのひと枠をどうするか。レイン・トゥリー・クロウか、シルヴィアン/フリップか、ナイン・ホーセズか、このいずれかのグループのアルバムから1枚というのが順当なんだろうな。しかし、ここで私は変則技で、ジャパンの『ティン・ドラム(錻力の太鼓)』を選ぶことにする。これで決まりと。
というわけで、以上に順位をつけると以下のとおりとなる。

<デヴィッド・シルヴィアンのアルバム・ベスト5>

 第1位 『シークレット・オブ・ザ・ビーハイヴ』
 第2位 『ブリリアント・トゥリーズ』
 第3位 『ティン・ドラム(錻力の太鼓)』(ジャパン)
 第4位 『デッド・ビーズ・オン・ア・ケイク』
 第5位 『ブレミッシュ』

スティーヴ・ジャンセン、リチャード・バルビエリ、ミック・カーンは、いろいろなくくりでアルバムを出している。3人のJBK,ジャンセンとバルビエリの二人ユニット、それぞれのソロ、さらにジャパンOB以外の人とのコラボといった具合だ。ここではそれらのアルバム全体の中から、私の好きなアルバムを5枚選んでみることにしよう。

この人たちの音楽はとにかく地味だ。「ポップ度」はかなり低めで、しかもインスト・ミュージックが中心。もうほとんどロックとは言えない。あまりジャンル分けに詳しくないのだが、アンビエント、エレクトロ、テクノ的な要素が強い音楽と言えると思う。ヨーロピアン・コンテンポラリー・ミュージックとでも呼べばよいか。
ともかくこんなに地味な音では、大きいセールスは絶対望めないのはあきらかだ。この人たちが、それでもこんな音楽を演っているのは、シリアスなミュージシャン・シップによって、よい音楽を作りたい一心からのような気がする。
そしてとにかくその音楽は耳に優しく、控えめで、押し付けがましさがない。感性の鋭さ、センスの閃きは感じるものの、多くのテクノ系インスト・ミュージックがそうであるように、「煮え切らなさ」感もないではない。
だが、日常的に聴いていると、これがハマるのである。

彼らの音楽を聴いていると、結局彼らは良くも悪くもミュージシャンなのだということがわかる。これに対し、デヴィッド・シルヴィアンは、やはりミュージシャンを超えた、かなり強烈な表現者なのだ。つねにアーティスティックで、ときに文学的な世界を自分の音楽で表現しようとしている。それゆえに彼の音は重いのだ。
そんな表現欲求のかたまりのようなシルヴィアンが、ぐいぐいと前進していき、他のメンバーがそれに否応なく引きずられていったのが、ジャパンというグループのありようだったのだろう。
グループが解散し、シルヴィアンという重石がとれたとき、他の3人は自由を味わっただろうが、さて何を演ったらいいのかわからない、というのが正直なところだったのではないかと想像する。

ところで、話は変わるがシルヴィアンや元ジャパン・メンバーのアルバム(それとクリムゾン関係でも)で忘れられないのは、ライターの市川哲史の存在だ。アルバムのライナーに頻繁に登場していた人だ。
個人的なことは何も知らず、文章だけを目にしていたが、なかなかの才人で巧い書き手だと思っていた。この人の文章が優れている点は二つあった。ひとつは往年の渋谷陽一ばりに、そのアーティストについての自分なりの批評的ストーリーを読み取っていたこと。ときにいくぶん強引な感じもないではなかったが、個々のアルバムがそのストーリーを背景に位置づけられて、単なる感想文を越えたちゃんとした批評になっていた。
それともう一つこの人は、読み取ったストーリーを元に秀逸なレッテルを作るのがうまかった。曰く「洋服をきた憂鬱たち」(ジャパン時代の4人のこと)、曰く「世界一のモラトリアム男」(シルヴィアンのこと)…。
元ジャパンのメンバーたちの世界の「普及」と「啓蒙」に、この市川の果たした役割は小さくないと思うのだがどうだろう。
いつの間にか市川の名前を聞かなくなったと思っていたら、ブランクの後、また活動しているとのこと。彼に続くような、ロックの批評の出現に期待したい。

というわけでベスト5アルバムを選ぼうと思うわけだが、これがかなり難しい。
まず3人が対等に組んだ『レイン・トゥリー・クロウ』や、JBKの『イズム』などは、私にはあんまりピンとこないのだ。なにか、お互いに気を使って、ばらばらなまま小さくまとまってしまった感じ。
それと、いくらテクノ的要素があるとはいえ、テクノの人と組んだコラボ作、ジャンセン、バルビエリと竹村延和の『チェンジング・ハンズ』や、カーンと半野喜弘の『リキッド・グラス』なんかは、あまりにも冷たい感じがして、これもいまひとつ。
思うに元ジャパン・メンバーたちの音楽の美点は、インストではあっても、温もりの残った中庸のヒューマン・タッチにあるのではないのだろうか。

あとは聴くほどに、どれも同じといえば同じという気もしてきて、選ぶのに難渋したが、とりあえず5アルバムは以下の通り。

<ジャンセン、バルビエリ、カーンのアルバム・ベスト5>

第1位 『インディゴ・フォールズ』(インディゴ・フォールズ)
第2位 『ストーリーズ・アクロス・ボーダーズ』(ジャンセン、バルビエリ)
第3位 『シード』(ジャンセン、バルビエリ、カーン)
第4位 『ストーン・トゥ・フレッシュ』(ジャンセン、バルビエリ)
第5位 『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』(ミック・カーン)
次 点 『スロープ』(スティーヴ・ジャンセン)

『インディゴ・フォールズ』(インディゴ・フォールズ)

インディゴ・フォールズはリチャード・バルビエリと奥さんのスザンヌ・J・バルビエリによるユニット(昔はジ・オイスター・キャッチャーズと名乗っていた)。
スザンヌの澄んだ高音ヴォイスが素敵。ケイト・ブッシュの声質とちょっと似ているが、もっとソフトで浮遊感がある。以前のアルバム『ビギニング・トゥ・メルト』にも収められていた「ザ・ワイルダネス」は名曲。ドラマチックでしかも癒される。

『ストーリーズ・アクロス・ボーダーズ』(ジャンセン/バルビエリ)

非常にこなれた感じがするコンビ3作目。自然体の曲作りも堂に入ってきて、ぐっとまとまりを感じさせるアルバム構成。後半は坂本龍一似の曲が並び、ライトで「微」ポップ。そこがよい。

『シード』(ジャンセン、バルビエリ、カーン)

『ビギニング・トゥ・メルト』の次に出たおまけのようなミニ・アルバム。ではあるが、前作が寄せ集め的アルバムなのに対し、こちらはすっきりとした内容で、とくにリズムが明快に強調されていて気持ちよい。

『ストーン・トゥ・フレッシュ』(ジャンセン、バルビエリ)

アンビエント色が強まった静謐なアルバム。その分ややだるいところもある。しかし、一曲目「マザー・ロンドン」のハーモニカと、何曲かで聴ける兄シルヴィアン似のジャンセンのヴォーカルが泣かせる。

『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』(ミック・カーン)

ミック・カーンのソロ・アルバム第2作。この人はフレットレス・ベースのプレイヤーとしては大好きなのだが、アルバム・アーティストとしては今ひとつ。表現したいものが自分でも見えていないのだと思う。そんなところは、同じフレットレスの巨匠ジャコ・パストリアスと似ている。
その中では、このアルバムが一番よくできていると思う。世評では、次作の『ベスチャル・クラスター』の方が上かもしれないけど、私はこちらを推す。それにこちらは2曲で、シルヴィアンのヴォーカルが聴けるし。
何といってもプレイヤーであることを超えた表現者としてのミックがここにいる。ミニマルっぽい「ランド」、永遠にループし続けるような「ドリームズ・オブ・リーズン」、そしてわけのわからんラストの合唱曲「アンサー」などなど、ごつごつしたカーンの表現意欲が伝わってくる。

『スロープ』(スティーヴ・ジャンセン)
 意外(?)とよいアルバム。兄シルヴィアンをはじめいろいろな人のヴォーカルが聴けるが、これがそろいもそろってみんな渋い。渋いヴォーカル・アルバムとしてお勧め。

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