2014年3月5日水曜日

クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング 『4ウェイ・ストリート』


長いことロックを聴いてきたけれど、私にとって、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの『4ウェイ・ストリート』は、とりわけ思い出深いアルバムだ。ハード・ロックとプログレッシヴ・ロックに、どっぷりと浸っていたロック少年の私に、このアルバムはアコースティックな音や、歌の世界への扉を開いてくれたからだ。

もっともこのアルバムとの出会いの印象はあまり良くなかった。世間の評判につられ大枚をはたいて(何しろ2枚組たから)買ったのだったが、1枚目のA面に針を落とすと流れてきたアコースティック・サウンドに、ひどくがっかりしたことをおぼえている。ハード・ロック少年には、どうにも軟弱な音に聴こえたのだ。
2枚目のエレクトリックなサウンドで何とか気を取り直し、最初の頃はこちらの方ばかり聴いていたものだ。例のスティルスとヤングのギター・バトルを、手に汗を握りながら何度も何度もなめるように聴いた。おかげで、二人のギターのフレーズは、すみからすみまで頭に入ってしまった。

しかしそのうちにだんだん1枚目の良さがわかってきて、今度はもっぱらそちらの方ばかり聴くようになった。激しいエレキ・ギターの音による感情の発散よりも、心にしみ込む深くて繊細な歌の世界に強くひかれるようになったのだ。こちらもずいぶん繰り返し聴いた。
そんなCSNYの魅力に導かれて、その後の私は、ニール・ヤングや、ジェームス・テイラーや、キャロル・キングたちの世界に足を踏み入れることになる。


<アルバム『4ウェイ・ストリート』の魅力>

私にとっての『4ウェイ・ストリート』の魅力のひとつは、収められている演奏そのものの良さはもちろんとして、風通しのよい自由な空気が、アルバムの隅々にまでいきわたっているように感じられたことだ。

たとえば選曲のユニークさ。ライヴ・アルバムといえば、当時も、そして今も、そのバンドのベスト・アルバム的な選曲というのがふつうだ。ところが、『4ウェイ…』は全然発想が違う。
冒頭彼らの代表曲「青い眼のジュディ」が聴こえてきたかと思ったら、あっという間に30秒で終了。ある意味、人をくったような仕掛けだ。
「ティーチ・ユア・チルドレン」とか「オハイオ」のようなシングル曲もあるが、CSNCSNYとしてのオリジナル・アルバム収録曲よりも、そのアウト・テイクや、各人の元のバンド時代の曲とか、あるいはソロ・アルバムからの曲が目立つ。また、オリジナルの演奏とは、全然違うアレンジで演奏されていたりもする。まさに好きな曲を好きなようにやっている感じだ。
それと同時に、このアルバムに、もうひとつのオリジナル・アルバムとしての価値を持たせようとする意欲も感じる。

それからアルバム全体の構成も独特だ。
1枚目がアコースティック・セット、2枚目がエレクトリック・セットというのは、当時の彼らのコンサートをそのまま踏襲したものという。ちょうどフォーク・ロック期のボブ・ディランのコンサートを思い出すが、それをきっちり2枚のアルバムに分けて収めるという発想もなかなかの思い切りだ。
またそのアコースティック・セットの中身が、グループとしてではなく、ほとんどメンバーのソロ演奏をフィーチャーしたものであったこともちょっと驚きだった。それまでのグループというもののあり方にとらわれない自由さを感じた。

さらに、曲と曲の間で、ステージ上でのメンバー同士や観客とのやり取りが聴こえるのも自然で良かった。メンバー達の仲間としての和気あいあいとした雰囲気や、観客の歓声に応えるフレンドリーな会場の空気が伝わってくる。遠く離れたヒーローではない、等身大の彼らの姿に親しみが持てた。

このようなアルバムの選曲や構成や曲間の会話などからは、彼らの意欲と機知と自由な発想が伝わってくる。そんなところがこのアルバムのもうひとつの魅力だったのである。
もちろんそのようなことが可能であったのは、彼らがまさに時代の流れに乗っていて、圧倒的な支持を受けていたからでもある。つまりどのような試みも、このときの彼らには許されたのだ。そのような意味でも、このアルバムは、時代とシンクロしたこのグループの姿と勢いを生々しく伝えてくれるものと言えるだろう。


<アルバムの中身>

もう少し詳しくアルバムの中身について見ていこう。
このアルバムには、19703月のアルバム『デジャ・ヴ』の発売後、6月から7月にかけて行われたアメリカ国内ツアーからの音源が収録されている。
このツアーは、CSNYにとっての2度目のツアーにあたる。この前年の19695月に、CSNのデヴュー・アルバム『クロスビー・スティルス&ナッシュ』を発表後、ニール・ヤングを加えた4人は、7月からアメリカ国内とヨーロッパを巡るツアーを行っている。この間の8月には、ウッドストック・フェスに参加して人気を不動のものにしたのだった。

70年に入って発表したアルバム『デジャ・ヴ』は、チャートの1位となった。その後の6月から7月にかけての2度目のツアーは、まさに彼らの人気の頂点で行われたわけである。
『4ウェイ・ストリート』に話を戻すと、アルバムのクレジットによれば、具体的には、ニューヨークのフィルモア・イースト(6/2-7)、シカゴ・オーディトリアム(7/5)、ロサンゼルスのザ・フォーラム(6/26-28)の3ヶ所の公演の音源から選ばれている。
どの曲がどこの公演での演奏なのかはわからないが、少なくともボーナス・トラックのスティルスの「ブラック・クイーン」だけは、67日のフィルモア・イーストでの演奏ということがわかっている。
それにしても何テイクもある録音の中から厳選しているんだろうけど、その割には演奏上のミス・タッチやミス・トーンがあったりするのは、何とも不思議。もしかして、わざとそういうキズのあるテイクを選んでいたりしてね…。

ツアー・メンバーとしてリズム隊に、ドラムスのジョン・バーベイタ(ジョニー・バルバータ)と、ベースのカルヴィン・サミュエルズが起用されている。
スティルスと仲が良いドラマーのダラス・テイラーが参加しなかったのはちょっと不思議。テイラーはCSNのファーストや『デジャ・ヴ』の録音に参加し、その後もスティルスのソロやマナサスにも加わったのに、このアルバムだけお休みしているのだ。
代わりに参加したドラムスのバーベイタは、元タートルズにいて、このツアー後、ジェファーソン・エアプレインに加入している。
ベースのサミュエルズは、西インド諸島出身とのことで、スティルスのソロ作や、この後マナサスにも参加している。

昔このアルバムを聴いていたときはよくわからなかったが、このリズム隊はなかなか優秀だ。エレクトリック・セットの演奏でのこの二人の貢献度はすごく大きい。どの曲も、スティルス自身やダラス・テイラーが叩いていたオリジナルのスタジオ・ヴァージョンより、こちらのライヴでの演奏の方が断然良くなっている。リズムが強靭で、しかもニュアンスに富んでいるのだ。スティルスとヤングのギター・バトルも、このリズム隊にしっかり支えられていればこそ何とか聴けるというものだ。

上にも書いたがLP2枚組のうち、1枚目(サイド1・2)はコンサートのアコースティック・セットを、2枚目(サイド3・4)はエレクトリック・セットを収録した内容になっている。なお、1992年の再発CD版では、ディスク1の最後にアコースティック・セットからさらに4曲がボーナス・トラックとして追加された。
曲目は以下のとおり。

〔サイド1〕
1 組曲:青い眼のジュディ (Suite: Judy Blue Eyes
2 オン・ザ・ウェイ・ホーム (On the Way Home
3 ティーチ・ユア・チルドレン (Teach Your Children
4 トライアド (Triad
5 リー・ショア (Lee Shore
6 シカゴ (Chicago/We Can Change the World 
〔サイド2〕
7 ライト・ビトウィーン・ジ・アイズ (Right Between the Eyes
8 カウガール・イン・ザ・サンド (Cowgirl in the Sand
9 ブリング・ユー・ダウン (Don't Let It Bring You Down
10
 49のバイバイズ/アメリカズ・チルドレン (49 Bye-Byes/America's Children
11
 愛への讃歌 (Love The One You're With
〔1992年ボーナス・トラック〕
12 キング・ミダス (King Midas In Reverse 
13 ラフィング (Laughing 
14 ブラック・クイーン (Black Queen
15メドレー ザ・ローナー~シナモン・ガール~ダウン・バイ・ザ・リヴァー  (Medley: The Loner, Cinnamon Girl, Down By The River
〔サイド3〕
1 プリ・ロード・ダウン (Pre-Road Downs
2 ロング・タイム・ゴーン (Long Time Gone
3 サザン・マン (Southern Man
〔サイド4〕
4 オハイオ (Ohio
5 キャリー・オン (Carry On
6 自由の値 (Find the Cost of Freedom

1枚目のオープニングはじつに鮮やか。「青い目のジュディ」がフェード・インしてきたと思ったら、それは曲のエンディング部分。あっという間に終わって観客の拍手に包まれる。そこへニール・ヤングが紹介されて登場、しみじみと「オン・ザ・ウェイ・ホーム」を歌う。続いて軽快な「ティーチ・ユア・チルドレン」。ここまででもう彼らのコーラスとアコースティック・ギターの音色にぐぐっと心をつかまれてしまう。

しかしグループとしての演奏はここまで。あとは、1枚目のラスト曲「愛への讃歌」で再びグループ演奏になるまで、メンバーのソロ曲が続く。
アルバムには、ボーナス・トラックを含めると、きれいに各メンバー3曲ずつが収められている。それぞれのソロをフィーチャーしたミニ・コーナーが順番に続いていくといった趣だ。
しかもその選曲がかなり独特だ。上にも書いたが、CSNYとしてのオリジナル・アルバム収録曲ではなく、大半がアウト・テイクや、各人の元のバンド時代の曲や、あるいはソロ・アルバムからの曲なのだ。グループの一員としてではなく、ソロ・アーティストとしての選曲なわけで、そういう意味でも、これは完全にソロ・コーナーなのだ。

ちなみに前年の69年のツアーでは、私の手元にあるブートレグで聴く限り、ここまで独立したソロ・パートにはなっていなかった。すでにその頃から、コンサートをアコースティック・セットとエレクトリック・セットに分けてはいた。だが、そのアコースティック・セットでは、ソロの演奏も基本的にアルバム収録曲をやっている。クロスビーなら「グゥィニヴィア」、ナッシュなら「島の女」とかアコースティック・ヴァージョンにした「マラケシュ急行」、そしてスティルスなら「420」といった具合。
スティルスは他に自分のソロに後に入れる曲もやっていたが、これは『CSN』のアウト・テイクか
なおヤングは『CSN』制作後の参加だから、彼だけは自分のソロ・アルバムからの曲をやっている。「Birds」とか「I've loved her so long」などだ。

しかも69年のライヴでは、『4ウェイ…』のように一人ずつのコーナーに分かれていない。ソロ曲と3人がコーラスで歌う曲「泣くことはないよ」とか、「どうにもならない望み」とか、「ブラックバード」(これはアルバムには収録されずお蔵入りになってしまった曲だが)が混在している。このような状態が、しだいに各人のソロ・コーナー方式へと発展していったのだろう。

ついでにエレクトリック・セットを前年のライヴと比較してみよう。
プリ・ロード・ダウン」と「ロング・タイム・ゴーン」で始まるのは70年と同じ。そしてラストを「自由の値」でしめているのも同じだ。しかし、長いギター・ソロが展開される「サザン・マン」とか「キャリー・オン」に当たる曲として、最初はヤングの「ダウン・バイ・ザ・リヴァーr」が演奏されている
CSNYのエレクトリック・スタイルの曲と言えば、何と言ってもウッドストックでも演奏されていたヤングの「シー・オブ・マッドネス」と「木の舟」が印象的だが、『4ウェイ…』には収録されなかった。これは、もしかして、すでに両方とも『ウッドストック』のサントラ・アルバムに収録されていたかなのだろうか。

4ウェイ・ストリートの』のエレクトリック・セットでは、「サザン・マン」と「キャリー・オン」の二つの大曲でのギター・バトルがつねに話題に上る。ロック少年だったかつての私も胸を熱くして耳を傾けていたものだ。
いまだにこのアルバムのレヴュー上で、このバトルは「すごい」ということになっている。しかし、今の耳で冷静に聴いてみると、はっきり言ってこの「バトル」はかなり素朴。二人ともそれほどのテクニシャンというわけでもないし、またギター・ソロのやりとりもそんなにこったことをしているわけでもない。
でもこの素朴な熱気が、今も輝いていることは間違いない。

私はこの『4ウェイ・ストリート』をCSNYの最高傑作と思っている。が、あらためてよく考えてみると、グループとしての魅力が発揮された演奏というのは、ほんの一部だ。
1枚目のアコースティック・セットでは、グループとしての演奏は、最初の3曲と最後の1曲だけだ。すなわち「青い眼のジュディ」(の最後の部分)~「オン・ザ・ウェイ・ホーム」~「ティーチ・ユア・チルドレン」と、最後の「愛への讃歌」。
あとはこの間に、先ほど来書いているようにメンバー各人のソロ曲がきれいに2曲ずつ並んでいる。スティルスはソロ曲は1曲だが、最後の「愛への讃歌」が自分のソロ曲を兼ねていると考えられる。92年の再発盤から付け加えられたボーナス・トラック4曲も、きれいに各人のソロ曲が並んでいる。
CSNYのアルバムというよりは、ソロ・アーティストのオムニバス・アルバムに近いとも言えるだろう。

2枚目のエレクトリック・セットも、グループとしての魅力を感じさせるのは、「オハイオ」と「自由の値」の2曲だけだ。ちなみにこの2曲は、この時点での彼らの最新シングルのAB面曲だ。
残りの4曲は、各メンバーの曲をきれいに1曲ずつ取り上げているが。これらの曲は、コーラスではなくそれぞれの作者がリード・ヴォーカルをとっていることもあって各人の個性が前面に打ち出されている。
スティルス作の「キャリー・オン」は、オリジナルでは、CSNの特徴である3声が対等のコーラスだった。しかし、ここでのコーラスは、スティルスの声がリードをとるスティルス中心の形になっている。
要所でスティルスとヤングのギターが目立つわけだが、これはグループの魅力というのとはちょっと違うだろう。

というわけで、グループとしてよりメンバー個々の個性が強く出たアルバムなわけで、これを彼らの最高傑作としてよいのかという気もしないではない。しかし、アルバム・タイトルの『4ウェイ・ストリート』というのは、まさにそのような内容を言い当てたものだ。開き直りでもあるが、むしろこのような集合体がCSNYなのだというメッセージでもあるような気もするのだ。

今となっては、やはりこのアルバムの最大の魅力は、1枚目のアコースティック・セットの歌の数々だろう。どの曲もオリジナルは、バンド・スタイルによる演奏だった。それをアコースティックのソロ弾き語りにアレンジしているわけだ。そしてシンプルな演奏によって、どの曲もオリジナルより断然良くなっている。深い歌の世界が広がっているのだ。とりわけニール・ヤングとデイヴィッド・クロスビーのここでの歌は、永遠の名演といえるだろう。

なお92年にCDのディスク1に追加されたボーナス・トラックにはちょっと困っている。やはり、アコースティック・セットは、各人のソロ・コーナーのあと、全員参加の「愛への讃歌」で景気良くしめてほしいのだ。
ではボーナス・トラックをどうするか。もう1枚ボーナス・ディスクをつけて、それに入れたらどうか。できれば、ついでに同じツアーからの未発表源をさらに追加するなどして。
あとこのアルバムの紙ジャケ化も是非お願いしたい。


<参考:『4ウェイ…』前後のソロ・アルバム>

ここで参考までに、『4ウェイ・ストリート』の発売前後の書くメンバーのソロ・アルバムのリリース状況を紹介しておこう。
『デジャ・ヴ』発売後から、『4ウェイ…』のツアーをはさんで、『4ウェイ…』の発売前後まで、4人のメンバーは活発にソロ活動をしていたことがよくわかる。

1969.1 ヤング 『Neil Young
1969.5 ヤング 『Everybody Knows This Is Nowhere
1969.5 CSN 『クロスビー、スティルス&ナッシュ』
1970.3 CSNY『デジャ・ヴ』
1970.6~7 『4ウェイ・ストリート』収録のライヴ・ツアー
1970.8 ヤング 『After The Gold Rush
1970.11 スティルス 『Stephen Stills
1971.2 クロスビー 『If I Could Only Remember My Name...
1971.4 CSNY 『4ウェイ・ストリート』
1971.5 ナッシュ『Songs for Beginners
1971.6 スティルス『Stephen Stills 2


<各曲についてのコメントなど>

〔ディスク1〕

1 組曲:青い眼のジュディ (Suite: Judy Blue Eyes 

途中からフェード・インしてくるのは最後のパートのさらに最後の部分。約30秒で終了。アルバムの幕を開けるための景気づけのSEといったところ。

2 オン・ザ・ウェイ・ホーム (On the Way Home 

紹介されてニール・ヤングが登場。
バッファロー・スプリングフィールド時代のヤングの曲。『ラスト・タイム・アラウンド』収録。そこではバンド・スタイルでの演奏で、リッチー・フューレイがヴォーカル、バックのコーラスがヤングとスティルスだった。ウキウキとしたポップで明るい曲だったが、ここではしみじみとした深みのある歌の世界が聴ける。演奏が違うと、同じ曲もこんなに印象が変わるものかと驚かされる

ここでは他の3人のメンバーがバック・コーラスに参加、またヤングと一緒にスティルスもギターを弾いている。スティルスのアコースティック・ギターのいかにも彼らしいソロが印象的。ただし、途中で小節の区切りを間違えて、出のタイミングをミスしているのは御愛嬌。

3 ティーチ・ユア・チルドレン (Teach Your Children 

途中でナッシュが笑うのがこのライヴならでは。

4 トライアド (Triad 

ここからメンバー各人のソロ演奏コーナーの始まり。まずクロスビーの喋りがあって、弾き語りがはじまる。他のメンバーのコーラスはなし。ギターの音と寄り添うように歌う。不思議なコードの響きで、ひんやりとして深い孤高の世界が展開される。

クロスビーのバーズ時代の曲。ウィキペディアによると、バーズのアルバム『名うてのバード兄弟』制作の際、この曲の収録を他のメンバーに反対されたことが、クロスビーのバーズ脱退の原因のひとつになったとのこと。なおお蔵入りしていた、この曲のバーズによるヴァージョンも、近年になって陽の目を見たらしい。当時は知る由もなかったけれど、そういういわくつきの曲なわけだ。

5 リー・ショア (Lee Shore 

つづいてもう1曲クロスビーの弾き語り。美しい曲だ。今度は、バックにナッシュのコーラスが入る。

ボックス・セット『CSN』にこの曲のバンド・スタイルでの演奏が収められている。69年末の録音で、ヤングも参加。リズム隊も『デジャ・ヴ』と同じなので、『デジャ・ヴ』セッションのアウト・テイクなのだろう。

6 シカゴ (Chicago/We Can Change the World 

かわってナッシュのピアノ弾き語り。たまに彼がやるちょっとアグレッシヴな曲。
ナッシュのファースト・ソロ・アルバムに収録され、シングル・カットされた。

7 ライト・ビトウィーン・ジ・アイズ (Right Between the Eyes 

もう1曲ナッシュ。今度はギター弾き語り。スタートに失敗してのおしゃべりが微笑ましい。ほとんどこの部分だけのために、収録されたのではないかと思いたくなるような、取りえのないおお甘の曲。
途中で「島の女」を思わせるクロスビーとのスキャットの絡みがある。

8 カウガール・イン・ザ・サンド (Cowgirl in the Sand 

ここで再びニール・ヤング登場。セカンド・ソロ・アルバム(69年)からの曲。
ソロ・アルバムではバンド・スタイルでの演奏だった。10分にわたる長い曲で、クレイジー・ホースをバックに、ヤングがエレクトリック・ギターを延々と弾きまくっていた。それがここでは一転、ギター弾き語りにアレンジ。バック・コーラスはなし。しみじみと味わい深い曲になっている

9 ブリング・ユー・ダウン (Don't Let It Bring You Down

もう1曲ヤング。今度は、3枚目のソロ『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』(70年)からの曲。
最初のしゃべりと客の笑い。シリアスな曲の前のやりとりにしては、不似合なのでかえって印象に残る。

10 49のバイバイズ/アメリカズ・チルドレン (49 Bye-Byes/America's Children 

ニール・ヤングの「僕の友達」という紹介に導かれてスティルス登場。
ピアノの弾き語りで「49のバイバイズ」を。CSNのファースト・アルバム収録曲だが、途中の盛り上がり部分では、バッファロー時代のヒット曲「フォー・ホワット(For What It's Worth)」の一節が聴ける。
良くも悪くもスティルスの「一人芸」の世界。

11
愛への讃歌 (Love The One You're With

続くスティルスの演奏は彼のファースト・ソロ・アルバム収録曲だが、ここではCSNYて演奏している。
ソロ・アルバムでの演奏は、アコースティック・ギターが中心ながら、ベース、オルガン、各種パーカッションが加わったかなりニギニギしいものだった。コーラスにも、クロスビー&ナッシュに加えて、リタ・クーリッジとプリシラ・ジョーンズの姉妹やらジョン・セバスチャンまで加わっていた。
このライヴでの演奏は、それに比べると、シンプルなわけだが、むしろスタジオ版よりもよりコーラスが強力でパワフルかつシャープな印象だ。

それにしてもこの曲、「青い目のジュディ」の最後のパートを拡大したような曲だ。「青い目の…」を収録しなかったのは、もしかしてこの曲とかぶるからか?

ともあれソロ・コーナーはこの強力なグループ演奏で幕を閉じるわけだ。 

〔ボーナス・トラック〕

本当はここで終わって欲しかったのだが、92年の再発盤からボーナス・トラック4曲がこの後に続くことになってしまった。
メンバー各1曲ずつ。全てアコースティック・ギター弾き語りで、バック・コーラスなしだ。

12. キング・ミダス (King Midas In Reverse 

ナッシュ作のホリーズの曲。
この曲は、ホリーズ時代のナッシュが、他のメンバーの反対を押し切ってシングル・カットした曲とのこと。しかしこれが売れなかったために、ナッシュはホリーズを脱退することになったという。真偽のほどは、わからないけれども。だとすると、クロスビーの「トライアド」に当たる曲ということになる。

13. ラフィング (Laughing 

クロスビーのファースト・ソロ・アルバム収録曲。このスタジオ・ヴァージョンでは、コーラスにジョニ・ミッチェルとナッシュが参加。バックは、ジェリー・ガルシアのペダル・スティールに加え、グレイトフル・デッドのリズム隊が担当。アコースティック・ギター中心の演奏ながら、ゆったりとした厚みのある演奏だった。
ここではクロスビーのギター弾き語りで、コーラスもなし。スタジオ・ヴァージョンより当然音はシンプルだが、研ぎ澄まされた感覚で、スタジオ作より深くて重厚な世界を作り出している。

14. ブラック・クイーン (Black Queen

ステゥルスのファースト・ソロ・アルバム収録曲。ボックス・セット『CSN』に、これと同じヴァージョンが収録されていて、そのクレジットによると、7067日にニューヨークのフィルモア・イーストでの録音とのことだ。
スティルスのファースト・ソロは、曲がどれも小粒で今ひとつだったが、その中の数少ない例外が「愛への讃歌」とこの曲だった。

ここでの演奏は、いつもこの人の演奏に感じる浮ついたところのない、じっくりと地に足がついた渋い演奏だ。ギターもいつものようにテクニックをひけらかしたりせず、あくまで控えめにスゴいことをやっている。
最初からこの曲を『4ウェイ・ストリート』に採用すればよかったのにね。

15 メドレー ザ・ローナー、シナモン・ガール、ダウン・バイ・ザ・リヴァー  (Medley: The Loner, Cinnamon Girl, Down By The River

ニール・ヤング・メドレー。「ザ・ローナー」はファースト・ソロ・アルバム(69年)から、「シナモン・ガール」と「ダウン・バイ・ザ・リヴァー」は セカンド・ソロ(69年)からの曲。いずれもオリジナルはエレクトリックのバンド・スタイルでの演奏。とくに、「ダウン・バイ・ザ・リヴァー」は、ヤングのギター・ソロが延々と続く曲だった。
それをシンプルにアコ・ギ一本で演奏している。とにかく深い。

〔ディスク2〕

1 プリ・ロード・ダウン (Pre-Road Downs 

『CS&N』収録のナッシュの曲。エレクトリック・セットの始まりを告げる躍動感のあるわくわくするような演奏だ。リズム隊がしっかりしているせいで、アルバム・ヴァージョンのような浮ついたところがなく、タイトでワイルド。スティルスのギターも伸びがあってよい。

2 ロング・タイム・ゴーン (Long Time Gone 

 クロスビー作。これも『CS&N』収録曲だが、オリジナル録音時にはまだ参加していなかったヤングが、ここではギターとバック・コーラスで大フィーチャー。曲の個性の大きな一部となっている。
ヤングの轟音ギターとクロスビーのシャウトによって、この曲本来の持つアグレッシヴな面が強調されている。

3 サザン・マン (Southern Man

ヤングのサード・アルバム『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』(70年)収録曲。オリジナルも6分弱の長い曲だったが、このライヴではその倍以上の14分近い長尺の演奏になっている。
オリジナルのスタジオ・ヴァージョンは、リズムが平板で単調だったが、このライヴでは、リズム隊がうねりのあるタイトなビートを刻んでいて見違えるようだ。しかも間奏部分は、倍テンポになってとてもスリリング。スティルスとヤングのギター・ソロをリズム隊が緩急自在にサポートしている。起伏に富んでいて、長くてもまったく飽きさせない。

間奏のギター・バトルが聴きものとよく言われているが、バトルというほどのものではない。2回ある間奏パートは、基本的にスティルスからヤングへと、ギター・ソロがまわされている。一方がソロを弾いているときに、もう片方が合いの手というかオブリガードを弾いている。両者が同時に弾きまくっているというわけではない。
テクニック的にはスティルスが断然上だ。手数が多く、フレーズがなめらかで変化に富んでいる。でもなぜか心に残らない。ヤングは手くせだけで弾いているようなゴツゴツしたフレーズ。しかも、ソロの構成がかなりぶっきらぼう。でもとにかく心にぐいぐい迫ってくるのだ。

私はこの曲をなめるようにして何度も聴いたので、二人の弾くフレーズはすみからすみまで頭に入ってしまっている。

4 オハイオ (Ohio 

ヤング作のシングル曲で、アルバムには未収録。CSNYのシングルでは、「ウッドストック」と並んで私の好きな曲だ。
このライヴの直前の705月21日に録音され、64日に発売されている。内容に見合ったとてもアグレッシヴな曲だ。とくにこのライヴの演奏は、シングルのスタジオ・ヴァージョンよりさらに激しさを増している。
小節からはみ出してしまうヤングのギター・ソロはすごい。
Four dead in Ohio」という繰り返しも強烈。

5 キャリー・オン (Carry On 

『デジャ・ヴ』収録曲。CSNYの代表曲だが、アルバム収録のオリジナル・ヴァージョンには、ヤングは参加していない。
スティルス作で、後半のラテン・ロック風のパートは、バッフアロー時代のスティルスの曲「クエスチョンズ」(『ラスト・タイム・アラウンド』に収録)が原曲。
オリジナルはアコースティック・ギターが中心で、強力な3声のコーラスが売りだったが、ここではスティルスのメイン・ヴォーカルにバック・コーラスがつく形になっている。

オリジナルは4分半くらいの曲だが、ここではその後にインスト・パートが続く。約8分にわたって、ワン・コードで延々とギター・ソロが展開されている。
インスト・パートに突入すると、スティルスがワウ・ギターでリズムを刻む中、まずヤングが引きつったようなフレーズを展開。例によって、上手いんだかヘタなんだかよくわからない。その後、スティルスが、ワウ・ペダルをいかしながらのソロ。しかしスティルスは、あきらかにスペースを持て余している感じ。この人もある意味、上手いんだかヘタなんだかわからない。そのうしろで、クロスビーのリズムギターが巧みに変化をつけている。
いったん音が小さくなってからだんだん盛り上げていく。スティルスとヤングが、それぞれにギターを弾きまくり、ここはバトルと言えばバトルだが、フレーズをやりとりするというよりは、音量の勝負という感じ。非常に素朴なバトルだ。
でも何だか、聴き終わると一種のスッキリ感があることもたしかだ。

6 自由の値 (Find the Cost of Freedom

ツアー・メンバーのドラマーとベーシストの紹介の後、コンサートをしめるラスト曲。
この曲は、シングル「オハイオ」のB面曲。このシングルは。このツアーの直前に発売されたが、この曲そのものはウッドストックでも歌われていたから、前年の69年には出来ていたものと思われる。
アコースティック・ギター2本の演奏のあと、静かにコー-ラスが始まる。セカンド・ヴァースからはアカペラになるところがにくい。実に印象的なラストだ。

後年(81年)スティルスはこの曲の前に序章部分を付け加えて「デイライト・アゲイン」という曲にする。しかし、この『4ウェイ…』で聴けるようなピュアな感じは、きれいに拭い去られてしまったのだった。残念。

DVD『ウッドストック』(ディレクターズ・カット版)のエンドロールのバックには、CSNYの曲「ウッドストック」が流れるのだが、その最後の最後に、この「自由の値」のコーラス部分が付け加えられている。これもとても印象的だった。


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