2013年2月7日木曜日

寿司を握る日々

<寿司を握る日々 1>

このところ私の昼食は、毎日握り寿司だ。すごいでしょう。もうちょっと正確に言うと、自分で握ってそれを食べているのだ。
「修行中」なので、最初の頃は安いネタばかりだった。たとえば、かまぼことか、カニカマとか、刺身こんにゃくなどなど。回転寿司なら一皿100円クラス。
しかしこれでも、かまぼこはイカのつもりで、カニカマはもちろんカニのつもり、そして刺身こんにゃくはマグロのつもりなのだ。なんだか落語の『長屋の花見』みたいだな。貧乏長屋の面々が、お茶をお酒に、大根の漬物をかまぼこや卵焼きに見立てて花見をする話だ。

もともと私も人並みに寿司が好きだ。けれど隠居の身となってからは、すっかり寿司とのご縁が薄くなってしまった。
うちの奥さんが生(なま)ものをあまり好まないということもあって、店に食べに行くということはまったくない。
ただし我が家では、家族の誕生日に寿司の出前を取る慣習がある。寿司を食べるのはこのときだけだ。だから年に四回。それ以外はほんのときたまスーパーで、パック入りのものを買ってくるくらいだ。

なぜ自分で寿司を握ろうと思ったのか。もちろん、寿司を手軽に安く食べたかったのだ。
この間うちの奥さんの誕生日に久しぶりに出前を取って寿司を食べた。これがすごく美味しかった。また食べたかったが、何しろ寿司は高い。それなら自分で作ってしまえっ、と思い立った次第だ。
これまで、こんなノリで、うどんとラーメンを自分で工夫して作ってみたことがある。どちらも自分なりには満足するものができた。さて、今回はどうなるか。

まずネットで寿司の作り方を調べてみた。今は本当に便利な時代だ。動画で寿司を握っている様子をいろいろ見ることができる。ただ細かいところまでは、なかなかよくわからない。しかし、たくさん見ているうちに、何だか自分でもすぐできるような気になってきた。
それから、寿司めしの作り方もわかった。そこで、さっそくトライしてみたのだ。

ここで、寿司の作り方を、調べた情報に私の体験を加えて紹介しておこう。自分も作ってみようという人のために。そんな人いないかな。

<寿司のマニュアル 寿司めし編>

寿司めし(シャリ)の作り方は、意外に簡単だった。
ご飯にまぜる寿司酢の材料は、調べればすぐにわかる。ちなみに、私の場合はこんな配合だ。

【寿司酢の材料(お米1合につき)】
酢  大さじ1.
砂糖 小さじ1
塩  小さじ0.5。

酢に砂糖と塩をよく溶かすために、火にかけると書いてあったが、よく混ぜれば加熱しなくても溶けた。
ご飯をかために炊いて、これに分量の寿司酢をかけ、よく混ぜれば出来上がり。
飯台で混ぜるのがいいらしいが、私は一人前で少量(1合)なので、メラミン製のボールにご飯をあけて混ぜている。
ご飯に液体(酢)を混ぜるわけだから、びちゃびちゃになるのではとちょっと心配だった。最初はたしかにそうなるのだが、少しおくとご飯が吸ってべちゃべちゃ感はなくなる。

私は酢の代わりに黒酢を使っている。ネタが安ものなので、せめて寿司めしは美味しくしたいと思ったのだ。
なお私の炊飯器には炊き方のメニューに「すしめし」モードがあったのでこれを使っている。

<寿司のマニュアル 握り方編>

寿司の握り方の基本の手順はだいたい以下のとおり。言葉だけで説明するのは難しいのだが…。
握る前に、手に寿司めしが付かないように、「手酢(手水とも言う)」といって水に酢をくわえたもので手を湿らせておく。

① 右手で寿司めしをつかみ、そのまま片手で軽く小さい丸型にまとめる。
 左手の手のひらにはネタを置く。人差し指から小指までの、指の付け根と第二関節の間あたり。

② ネタの上に右手の丸い寿司めしをのせる。
そして右手の人差し指を寿司めしに上から添えながら左手で握る。

③ 左手を開き、握った寿司を指先の方に転がして半回転させ、ネタと寿司めしの上下をひっくり返す。
ネタを上にしたまま、左手の元の位置に戻す。
そして再び右手の人差し指を上から添えながら左手で握る。

④ 左手を開き、上下左右の側面を右手の親指と人差し指ではさんで整える。
それを右手で持ち上げ、寿司の両端(手前側の端と向こう側の端)を180度回転させて入れ替える。
そしてこれを三たび右手の人差し指を添えながら左手で握る。
手を開いて右手で形を整えて出来上がり。

このときあまり強く握ってはいけない。形をしっかりさせたいし、ネタとご飯をしっかりくっつけたいので力を入れてぎゅっと握りたくなる。しかしそうするとご飯がおにぎりのように固まって、口に入れたときのほどけ具合がよくないのだ。
なおふつうは②で、寿司めしをのせる前に、ネタにわさびをつける。しかし、私の場合はつけ過ぎが心配なので、ここでつけずに、食べるときにつけることにしている。

<いろいろな失敗といろいろなコツ>

最初いざ握ろうとしたら、指にご飯が盛大にくっついてしまって、全然握るどころではなかった。もちろん手には手酢をつけて湿らせておいたのにである。
そこで少し多めに手酢をつけると、今度はつかんだご飯がびしょびしょになってばらばらとほぐれてしまう。
しかし何回かやっているうちに、手につかないようにして、ご飯が扱えるようになってきた。

わかったのは手の湿らせ方が、意外に大事なポイントということ。手についている手酢が多すぎても少なすぎてもいけない。
指の先につけ両手をこすり合わせるようにしてのばす。濡らし過ぎた場合は、拍手のように手をたたいたりして、よけいな水分を飛ばす。しかも、一個握ったらそのつど手酢をつける必要がある。
それでもだんだん手にご飯の粘りが付いてくるので、数個握るごとに冷水で手を洗うのだ。冷水なのは、手を冷やした方がご飯がつきにくいからだ。
そもそもそれ以前に寿司酢とまぜたご飯は、ある程度冷ます必要がある。温かいとやはりその分粘るのだ。最初は省略してしまったのだが、なるほどどの作り方にも書いてあるように、たしかにうちわで扇ぐ必要があったのだ。

寿司めしが手につかないようになってはきたものの、次は形をうまくまとめることができなかった。
まず右手に寿司めしを取るとき、どうしても多く取り過ぎてしまう。それを握ると、寿司というより小さめの不恰好なおにぎりになってしまった。
これも何回かやっているうちに、だんだんつかむときにちょうどよい寿司めしの量がわかってくる。私は一回にお米を1合炊いているが、今はこれでいつも18~20個作れるようになった。

形の方は、ネタと寿司めしを置く手の上の位置が問題だった。手のひらの真ん中に置くと、おにぎりになってしまう。上のマニュアルに書いたとおり、指の付け根と第二関節の間、つまりあくまで指の上に置くようにする。これがわかると、いい形に握れるようになった。
形がうまく作れないと、ついぎゅっと力が入ってしまったのだが、要領がわかればそれほど力はいらない。

ただ形はそれなりにできても、ときどき問題があった。ネタが寿司めしにうまくくっついてくれないことがあるのだ。かまぼこや刺身こんにゃくなどはとくにそうだ。
しかし、それでもあせらずにネタを軽く押さえ形を整える。そのまま少し落ち着かせると、食べるときには何とか一体になってくれることがわかった。

<寿司を握る日々 2>

ちょっと上達してくるとやっぱり、魚をネタにして握ってみたくなる。そこで値段が安めでネタになりそうなものをスーパーで物色した。
しめさばを最初に買ってきた。これが思った以上にうまく握れたのだ。次いで今度は、安売りしていたトラウト・サーモンとか、ビンチョウマグロを柵(さく)で買ってきて、自分でネタ用に切って作ってみた。
握ってみるとこれらの魚のネタは、かまぼこなどよりすっと握りやすいのだ。ネバリがあるので寿司めしと密着する。また柔らかくしなるので握りながら形を整えやすく、きれいな形に仕上がるのだ。
これですっかり楽しくなってしまった。もちろんプロのようにはいかない。寿司の形はでこぼこがあったり、いびつだったりする。大きさもばらつきができる。でも自分で食べる分には、まったく問題ない。

こうなると次は人に食べさせたくなる。
そこで、ある休日の夕食に寿司を握ってみた。材料は少しだけ奮発した。
もっとも上に書いたように、うちの奥さんは生の魚を好まないので、魚はなし。スーパーで、握り寿司用のボイルしたエビ、タコの刺身、刺身用のイカの柵、厚焼き玉子、それから寿司用のガリ(しょうがの甘酢漬)を買ってきた。
ネタのメニューは、エビ、タコ、イカ、卵焼き、カニカマ、そして軍艦巻きのコーン・マヨネーズ。
握ったものを一人前ずつ長方形のお皿に盛ってガリを添えると、なかなかりっぱな見栄えの握り寿司になった。もちろんうちの奥さんにも好評だった。

やっぱり自分で作るのは楽しいものだ。
さてこれからどんなネタで握ってみようか。しばらく修行の日々が続きそうだ。

<おまけー寿司の思い出>

最後に寿司の思い出をひとつふたつ。

ときどき一緒にお酒を飲む友人がいる。だいたい三月(みつき)に一度くらい。数年前のある時期には、彼と毎回寿司屋で飲んでいた。
そこは水戸ではちょっと名の通ったある寿司屋だった。カウンターに並んで座って、おまかせのつまみでお酒を飲む。お刺身や、ちょっとした焼き物なんかが出てくる。
そして、途中から寿司を握ってもらうのだ。これもネタはおまかせ。そして、お腹がふくれたところで終わりにする。店にいるのはだいたい2~3時間。そんなにお酒は飲まないが、友人やその店の主人とも話ははずんで毎回楽しいひと時を過ごした。
お勘定はこれでだいたい一人分一万円以上で二万円以下。ぜいたくだけど、たまにはいいかなと思っていた。今では懐かしいぜいたくな思い出だ。

それから安い方の寿司の思い出。上野駅の中にあった回転寿司の話。
勤めていた頃、東京には月に1,2回出かけた。用向きが終わって、上野に戻り帰りの電車を待つ間、よくこの回転寿司に寄って小腹を満たしたものだった。何しろ他の店のように、注文したものが出てくるまでの待ち時間がないのがいい。半端な待ち時間でも入れて便利がよかった。
何しろ駅にあるのでいつも客がいる。だからいつまでも回りっぱなしの皿はなくて、次々に握りたてが供給されるのも気に入っていた。

ここでは寿司をつまみながら、たいていお酒を飲んだ。あふれそうなコップの酒に小さな枡をはかせて出てくる。コップからこぼれた酒を枡で受けるのだ。燗酒なのにあっという間に出てくるのが不思議だが、そこもまた都合がよかった。
夕方になると当然のことながら店は半分「居酒屋化」する。カウンターに座っていると、左右にいろんな人間模様が垣間見える。それらをつまみにしながら、ちびりちびりとお酒を飲むのだ。もちろんお寿司も食べるけれど。
このお店も、先年の上野駅のリニューアルで今はなくなってしまった。ちょっとだけ残念だった。

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