2012年9月9日日曜日

ローリング・ストーンズ『THE BRUSSELS AFFAIR ‘73』

<遅ればせで『THE BRUSSELS…』を聴いた>

今年の夏は暑かった。まだ終わっていないわけだけど。この暑い夏の間ずっと私が聴き続けていたのは、ローリング・ストーンズのライヴだった。
べつにストーンズの活動50周年を記念してとかいうわけではない。また例の「ストーンズ・バー」のベロ・マークが巷に氾濫していたこととも関係ない。

それにしても、私がロック少年だった70年代には、いつかこのベロ・マークが街中にあふれる日が来ようとは想像もつかなかった。
当時できたばかりのストーンズ・レーベルのシンボル・マークとして、この下品極まりない、というか下品さをあえてこれでもかと強調したベロのマークは登場した。それは既成の取りすました価値観を否定し、あざ笑う強烈な毒を放っていたのだ。たが、時は流れ、彼らも歳をとり、そして大衆化のつねで、今はほとんどこの毒は感じられなくなってしまった。

私がこの夏聴いていたのは、もっぱら1972年の北米ツアーと、1973年のヨーロッパ・ツアーの音源だ。
きっかけは昨年の11月に販売された、1973年のライヴ音源『THE BRUSSELS AFFAIR 73』をやっとこの夏の初めに入手したことだった。
ストーンズ・ファンなら当然とっくの昔に手に入れて聴いていたことだろう。私もできればすぐ聴きたかったのだが、何しろこのシロモノ、CDではなくてネット上でのダウンロードのみの発売。旧式人類の私にはハードルが高かったのだ。
それにこの73年のベルギーのブリュッセルでのライヴについては、この時の音源を中心にしたブートレグ『Nasty Music』も一応手元にあった。ダウンロード版はオフィシャル音源だから、ブートより音質は良いのだろうけど、まあいいかっ、と思っていたのだ。

しかし、それがどうしても聴きたくなった。『レコード・コレクターズ誌』2012年8月号(特集はストーンズ・ベスト・ソングズ100)の藤井貴之氏によるオフィシャル・ブートレグ・シリーズの解説を読んだからだ。
私は今回出たダウンロード版『THE BRUSSELS AFFAIR 73』を、ブートレグ『Nasty Music』と同一音源のリマスター版程度に考えていたのだ。
ところが上記の記事を読むと、今回のダウンロード版はブリュッセルでの昼夜2公演から新たに編集した内容とのこと。つまり中身はだいぶ違うのに、タイトルだけ有名ブートのタイトルを流用しているわけだ。これを知って、がぜん私はこの中身を聴きたくなったというわけだ。
そこで知人に頼んでダウンロードしてもらい、何とか聴くことができるようになった。

ところでローリング・ストーンズのライヴの絶頂期は1972年から1973年にかけてだ。つまりミック・テイラー在籍時。これには誰も異論はないだろう。個人的には、このうち1972年の北米ツアーの演奏が最高だと思っている。
今年はこの絶頂期である1972年から40周年。活動50周年より、こちらのくぎりの方が私にとっては感慨深い。

というわけなので今回入手した73年のライヴを聴いていても、どうしても72年の演奏と比較してしまう。だから『THE BRUSSELS AFFAIR 73』を聴いていると、やっぱり72年のライヴ音源も聴きたくなるのだ。結果的に言うと、72年の演奏が最高という私の考えはますます強くなった。
というわけで今回は『THE BRUSSELS AFFAIR 73』を聴いて思ったあれこれを記してみることにする。

<73年ヨーロッパ・ツアーのセット・リスト>

さて『THE BRUSSELS AFFAIR 73』は、手に入れてみると同じ日のブリュッセル公演をベースにしているとはいえ、『Nasty Music』とはちょこちょこと曲順が違っている。今までこれで十分満足していたのだが、今回のオフィシャル版は、当日のセット・リストどおりに曲を並べて、この日の公演をコンプリートに再現している。
収録曲は次のとおり。

THE BRUSSELS AFFAIR 73

1 Brown Sugar
2 Gimme Shelter
3 Happy
4 Tumbling Dice
5 Star Star
6 Dancing With Mr.D.
7 Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)
8 Angie
9 You Can't Always Get What You Want
10 Midnight Rambler
11 Honky Tonk Women
12 All Down The Line
13 Rip This Joint
14 Jumping Jack Flash
15 Street Fighting Man

まずこの選曲面で私的にはちょっと難がある。べつにこの音源のせいではなくて、このツアーのセット・リストそのものの問題なのだが。
当時は彼らのアルバム『山羊の頭のスープ』(駄作)が発売されたばかりだった。コンサートの5曲目からは、この新作アルバムからの曲紹介コーナーとなる。
Star Star」、「Dancing With Mr.D」、「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」そして「Angie」と4曲続く。「Doo Doo…」は、当時のセット・リストにはふつうは入っていないイレギュラーの曲だったらしい。しかし、いずれにせよ、どれもあんまり曲としての魅力に乏しい。
ちなみに先日のレコ・コレ誌のストーンズのベスト・ソングズ100のランキングでみても、これらの曲はどれも人気が低い(あんまり意味ないかもしれないけど)。
Doo Doo…」が51位、「Star Star」が58位、「Angie」が62位、そして「Dancing With…」にいたっては、100位以内に姿が見えないといった具合。

前年の1972年の北米ツアーでやっていたのに、この73年のヨーロッパ・ツアーではやらなくなってしまった曲がいくつかある。たぶん上の4曲に押し出されてしまってのことだろうけど。
まず「Bitch」と「Rocks Off」。
コンサートのオープニングの「Brown Sugar」からこの2曲「Bitch」、「Rocks Off」と続き、さらに「Gimme Shelter」へとつながる72年ツアーの流れはとてもよかった。今回の73年ツアーでは「Brown Sugar」からいきなり「Gimme Shelter」となる。ちょっと強引。
でも本当に「Rocks Off」はかわいそうな曲だ。
72年北米ツアーのオフィシャル音源となったDVD『レディース・アンド・ジェントルメン』。このツアーのスタンダードなセット・リストが聴けるのだが、イレギュラーに入っているのが「デッド・フラワーズ」で、その代わりに「Rocks Off」がカットされてしまっている。つまりこの曲は絶頂期のライヴ音源がオフィシャル化されていないのだ。今や「ストーンズ・バー」のコマーシャルでこんなにガンガンかかっている曲だというのにね。

それから72年ライヴのハイライトのひとつでもあった2曲「Love In Vain」と「Sweet Virginia」が73年にははずされているのも残念。
Tumbling Dice」の後のこの2曲、切ないバラードからほんわかした癒しのアコースティック・セットへ。コンサート中盤手前の最高のオアシス・タイムだったのに。

あと72年にやっていた曲では「Bye Bye Johnny」もやらなくなったけど、これはまあ仕方ない。怒涛のラスト3連発の前のウォーム・アップの役割を果たしていたが、今回その役割のために「All Down The Line」を持ってきたわけで、これはこれで悪くない。

<こなれた演奏が良い音質で聴けるのだが…>

  さて肝心の演奏内容だが、ブリュッセル公演はこの年のツアーの終盤近くということもあって、全体にかなりこなれた演奏だ。
72年の演奏は、これに対して激しくてワイルド。キースのギターのカッテイングはラフで荒々しいし、ミック・テイラーのフレーズもかなりアグレッシヴ。さらに加えて、ニッキー・ホプキンスのピアノが飛び跳ねていた。
冒頭の「Brown Sugar」、「Gimme Shelter」あたりで、この違いははっきり。
続く「Happy」、「Tumbling Dice」も前年からずっとやっている曲なので、かなりこなれてよく言えば熟成した感じだ。
とりわけミック・テイラーのギターが素晴らしい。リフを弾いてもソロのときも、そしてリフの合間の短いフレーズでも、滑らかで伸びやかなトーンで曲に彩を添えている。

そしてここから『ゴート・ヘッド・スープ』コーナーの4曲だが、前にも書いたとおりあまり魅力なし。ただし、「Dancing With Mr.D」でのミック・テイラーのエリック・クラプトンばりのソロは聴きもの。

その後が中盤の山場。「You Can't Always Get What You Want」のライヴ演奏は、合唱団入りでとりすましたオリジナルよりずっと良い曲になっている。途中ギターのソロに加えてサックス・ソロもある分、72年ライヴよりさらに長くなった、
ただ72年ツアーよりメリハリの少ないやや平板な印象だ。72年の演奏はワイルドながら、バンドが一丸となってウネリを作り出していた。
続いて「Midnight Rambler」。これも御承知のとおり長い演奏で、前の曲と合わせて20分以上の長丁場。やっぱりちょっとダレる。

次いで「Honky Tonk Women」。これは72年ツアーでは聴けなかった曲。キースのギター・ソロで懐かしいフレーズが聴ける。
そして「All Down The Line」。ミック・テイラーのスライドが72年よりちょっと大人しめだ。これで、会場をウォーム・アップして、怒涛のラスト3連発へ。

コンサートの締めとして72年ツアーのときのパターンを変えなかったのは大正解だ。「Rip This Joint」、「Jumping Jack Flash」、「Street Fighting Man」とたたみかけ、「Street…」の終盤で暴走状態となって大団円。快感だ。
ただし、72年のときとはちょっと雰囲気は違っている。
つんのめるように始まる「Rip This Joint」。ここはニッキー・ホプキンスの跳ねるピアノとボビー・キーズの粘っこいサックス・ブロウ(72年ツアー)がやっぱり欲しいところ。
続く「Jumping Jack Flash」は72年にはあったミック・テイラーのソロがなくなり代わりにキースのストローク・プレイが聴けるが、ちょっと物足りない。
そしてラストの「Street Fighting Man」。前曲に続いてたたみかけるように始まる。
終盤、テンポ・アップして暴走状態に突入する。呪文のようなフレーズのギターが鳴り、ブラスが咆哮してフリーキー状態に。キング・クリムゾン『アースバウンド』の「21世紀…」を思い出させる迫力だ。
72年ツアーのラストはもっとサウンド全体がタイトで、ピアノとブラスの暴れっぷりが印象に残った。あれはあれでよかったが、こちらもなかなかよい。

というわけだが、全体の印象としては、72年の演奏の方が、ラフでワイルドでありながらバンドが一体となって突っ走っていく爽快感があった。そこが私には最高に魅力的だ。73年の演奏は、もうちょっと落ち着いている。
ミック・テイラーの演奏も73年は安定感があって多彩だが、72年の方がよりスリリングで私には好ましい。それにしても、バランスが良くて伸びやかで、クラプトンの後を継ぐ正統派のロック・ギタリストだったのになあ。

ところで今回のオフィシャル・ブートレグのシリーズは全6公演とのこと。この内4公演がすでに発売済みだ(1973、75,81,90年の音源)。
1972年北米ツアーはライヴ盤発売の一歩手前までいっていながらお蔵入りになったとか。その音源があるわけだ。
リリースを待つ残り2公演の中に、この72年北米ツアー音源が入っていることを切に願っている。
タイトルはやっぱり『Philadelphia Special』かな?

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