2014年6月23日月曜日

レッド・ツェッペリン 『ライヴ・アット・ジ・オランピア(LIVE AT THE OLYMPIA)』


今回(2014年)発売されたレッド・ツェッペリンのリマスター盤のうち、<デラックス・エディション>のシリーズは、オリジナル盤とコンパニオン・ディスク(ボーナス・ディスク)の2枚組仕様。ファースト・アルバムのコンパニオン・ディスクには、691010日のパリ・オランピア劇場でのライヴが収録されている。フランスのラジオ局によって録音された音源で、2007年の12月に突如発掘されたものとのことだ。

これまでツェッペリンの69年の演奏は、オフィシャルでは、『BBCライヴ(BBC SESSIONS)』と、『レッド・ツェッペリンDVD』でしか聴くことができなかった
BBCライヴ』は、ディスク1の14曲が69年のもの。『レッド・ツェッペリンDVD』には、ディスク1のエクストラ・トラックとして、デンマークと、フランスと、イギリスのテレビ番組での演奏が計7曲収録されていた。
しかし、これらの音源は、『BBCライヴ』の中の4曲を除いて、あとはいずれも番組収録のためのスタジオ・セッションないしはスタジオ・ライヴで、いまひとつ迫力に欠けていて物足りなかった。
個人的には69年もののブートレグを数枚持っているのだが、当時のステージでの彼らは、猛烈なエネルギーを放出しながら、爆発的な演奏を繰り広げていた。

そんな初期の彼らのライヴが、今回ちゃんとした形で聴けるようになったのはうれしい。けっして最高の出来というわけではないが、当時の彼らの勢いは十分に伝わってくる。


1969年のツェッペリン

このライヴが行われた69年の10月は、ツェッペリンにとってどのような時期にあたるのか。とりあえず、69年の彼らの動向を簡単にたどってみることにしよう。
前年の1968年に新たなヤードバーズとして結成されたこのバンドは、9月からライヴ活動を開始。ツアーの途中でヤードバーズから、ニュー・ヤードバーズ、そしてレッド・ツェッペリンへと名前を変えている。
そして196810月に、自前でデヴュー・アルバムを録音。このテープによって、アトランティック・レコードと破格の金額で契約を結んだのは有名な話だ。そして、19681226日から最初の北米ツアーを開始し、そのまま1969年に突入したのだった。

69年は、ツェッペリンにとって、まさにツアーに明け暮れた1年だった。
前年の12月からこの年の2月までが第1回北米ツアー。
3月には、英国国内と北欧ツアー。その合い間に、BBCやデンマークのテレビ、ラジオに出演してプロモーション活動を行っている。
4月から5月にかけて、再び2回目の北米ツアー。ツアーをしながらセカンド・アルバムを録音。
6月には英国ツアー。その合い間をぬって、またBBCやフランスのテレビ、ラジオに出演している。
7月から8月にかけては、またまた今度で3回目の北米ツアー。引き続きツアーをしながらセカンド・アルバムの録音を続ける。
9月に入りアメリカから帰国後、この年はじめてのオフを取る。
そして、1010日にパリのオランピア劇場、12日にロンドンのライシアム劇場で単発のライヴを行い、その後10月から12月にかけて、なんと4回目の北米ツアーを行っている。
何と良く働く人たちなんだろう。

この間、第1回北米ツアー中の1月12日に、記念すべきデヴュー・アルバムがアメリカで発売されている(イギリスでは328日に発売)。
そして、第2回から3回の北米ツアーをしながら各地で録音されたセカンド・アルバムは、1022日に発売された。

さて、この1010日のオランピア劇場でのライヴである。上記のとおり、この年初めてのまとまったオフの後、そして、ニュー・アルバムの発売と4度目の北米ツアーの直前に行われたことになる。
ツアーのためのウォーム・アップ・ギグであり、新アルバムのお披露目&プロモーションとも考えたくなる。しかし、このライヴで披露された新曲はたった2曲のみ(「ハートブレイカー」と「モビー・ディック」)。しかも、このかんじんの2曲ともペイジは、ギターをミスっている。
ちなみに、この後の北米ツアーでも新曲はこれにさらに「強き二人の愛」を加えた3曲だけで、あまりプロモーションにはなってないような気もするのだが。
結局、単発のライヴであり、しかもわざわざパリの会場で行っていることや、放送用の録音が残っていたことから考えて、放送局のオファーを受けての公演だったのではないだろうか。


■各曲についてのコメント

1. グッド・タイムズ・バッド・タイムズ/コミュニケイション・ブレイクダウン (Good Times Bad Times/Communication Breakdown)

これはメドレーというよりも、むしろ「コミュニケイション…」のオープニングとして、ギミックで「グッド・タイムズ…」のイントロをちょっと長めにやったというところだろう。
ちなみに半年前のフィルモア・ウエストでも(427日のセカンド・セットのオープニング)、「キリング・フロアー」の冒頭で、やはり「グッド・タイムズ…」を演奏していた。
彼らはこのようなギミックをときどきやっている。印象深いのは、「ブラック・ドッグ」の頭に「アウト・オン・ザ・タイルズ」(71年のライヴ、『BBCライヴ』で聴ける)や、「ブリング・イット・オン・ホーム」(73年のライヴ、『永遠の詩』【最強盤】で聴ける)の一節をくっつけている演奏だ。

デヴュー以来ずっとライヴの1曲目は「トレイン・ケプト・ア・ローリン」だった。それがこのコンサートから、その座を「コミュニケイション…」に譲ったわけだ。これまで「コミュニケイション…」は、アンコールにやったりしていた(627日のプレイ・ハウス・シアターでのBBCライヴのときは、オープニングだったけれど)。セカンド・アルバムも出るし、そろそろ自分たちの持ち歌で、というところなのかもしれない。

その「グッド・タイムズ…」からいきなりハイテンションの演奏だ。ペイジとボーナムは、勢い余ってプレイが上滑りしている。久しぶりのライヴで、力が入り過ぎたのか。ペイジは中盤のソロから、後半のファンク風パートまで、ずっと他の演奏とかみ合わないまま。まさに暴走。勢いだけで押し切っている。ま、それはそれでやっぱりすごい。

2. 君から離れられない (I Can't Quit You Baby)

「コミニュケイション…」から連続。このイントロ部とブレイクで、ようやくペイジは体勢を立て直したようだ。
プラントとジョン・ポール・ジョーンズによって、スローなブルースが濃厚に展開される。その音の隙間を、ペイジがこれでもかとギターを弾きまくって埋めていく。相変わらずの自在ぶり。ギター・ソロのフレーズの、ひしゃげながらよじれていく感じがたまりません。

もともとクールな曲。ライヴの場でも、基本的にこの感触は変わらない。ペイジがどんなに早弾きしても、醒めた冷ややかな感じがあって、そこが何ともカッコいいし、本来の意味でブルース的でもあると思う。

3. ハートブレイカー (Heartbreaker)

新アルバムからの曲の初披露。新曲はこれと、「モビー・ディック」の2曲のみ。
プラントは、もうヴォーカル・パートを少し崩して歌っている。
ペイジの無伴奏ソロは、何と、イントロのみ。かんじんの()早弾きパートはなし。いくらその分(?)、深いエコーを効かせてもやはり肩透かしだ。その後に続くドラムスとベースが加わっての間奏でも、ペイジはソロに入るタイミングを見失ってコードを弾いている。やっと始まったかと思えば、今度は同じフレーズをいつまでもループしてみたたりと、今ひとつぎごちない感じ。
で、結局、全体の演奏時間もスタジオ・テイクより短い。ツェッペリンの曲で、オリジナルより短いライヴ・ヴァージョンてあっただろうか。練習不足(?)。まあ迫力ある演奏ではあるのだが。

4. 幻惑されて (Dazed and Confused)

いつものように不気味に始まる導入部。しかし、頭のリフ部が終わって、弓弾きパートに移行するところで、演奏がバラけてしまう。何だかちぐはぐなまま弓弾きにつなげている。この先大丈夫か、と思ったが、その後は、もう大丈夫。アヴァンな弓弾きパートから、ユニゾンで始まる後半へ。安定感のあるベースのウネリの上で、いつもどおりの緊張感あふれる世界が展開されている。

5. ホワイト・サマー/ブラック・マウンテン・サイド (White Summer/Black Mountain Side)

ファースト収録の「ブラック・マウンテン・サイド」のスタジオ・ヴァージョンは、アコースティック・ギターだったが、ライヴではエレクトリック・ギターで弾いている。そのため、ドローン的雰囲気が加わり、またタブラの音もドラムスに置き換えられて強力化され、インド風味が倍増している。

このメドレーは、初期のライヴにおける見せ場のひとつだった。オフィシャルでは、他に627日のプレイ・ハウス・シアターにおけるBBCライヴでの演奏を聴くことができる(90年発売の『ボックス・セット』に収録)。BBCライヴでのこの曲は、繊細なタッチによる聴き所の多い演奏だった。
これに対し今回は、より激しい演奏。割れ気味の音は、迫力はあってよいのだが、細かいニュアンスは飛んでしまって、長尺の演奏だと正直ちょっと飽きます。もともとクラプトンやベックのように、流麗なフレーズが弾ける人ではない。強弱や早弾きでメリハリをつけてはいるが、10分もたせるのはやはり無理があるのでは。

6. ユー・シュック・ミー (You Shook Me)

じつにこなれた演奏。どろどろと濃密で粘っこい。ヴォーカルに対して、ちょっとギターの音が小さめ。例の“all night long”のヴォーカルとギターの下降するユニゾンが生きていないような…。プラントの悶えまくるブルース・ハープも、くぐもり気味の音でちょっと残念。ただ、ヴォーカルやハープと、ギターとのからみは、何ともねちっこくて、まさにツェッペリンならでは。
ペイジのスライド・ソロは、早弾きに走らず、腰の据わった演奏で、じっくり聴かせる。じわじわと熱っぽく盛り上がっていくところは、じつに渋い。
エンディングはかなり長めに引っ張る。急にギターの音が大きくなるが、ヴォーカルとのの掛け合いのスリルは今ひとつか。

7. モビー・ディック (Moby Dick)

2曲目の新曲披露。言わずと知れたジョン・ボーナムのドラム・ソロをフィーチャーした曲。これまでドラム・ソロは、Pat's Delight」という曲だった。これは、ドラム・ソロの前後を、バンドによるリフ演奏ではさんだものだった。このリフ部を新たに差し替えたのが、この「モビー・ディック」というわけだ。

「モビー・ディック」のリフ・パートは、ツェッペリンの曲の中でも一二を争う名曲だと私は思っている。今回のリイシューで、『Ⅱ』のコンパニオン・ディスクに、ドラム・ソロ抜きのヴァージョンが入っていたのは、じつに気が利いていた。

さていきなりイントロでペイジが失敗。かんじんのリフを弾きそこなっている。結局、頭のリフ・パートは、前半の10小節をすっ飛ばして、後半からスタート。さらにドラム・ソロのあとのリフ部分でも、もう一回、ミスっている。ペイジ君、どうしちゃったの。これも練習不足か。

本編のドラム・ソロは、全然期待していなかった。そもそもドラム・ソロというものは、ボーナムに限らずライヴにおける余興というか、おまけ程度のもの、と私は考えている。ところが、意外にも今回はけっこう面白い。
ボーナムといえばパワー・スタイルのドラマーだ。セカンド・アルバム収録のこの曲のスタジオ・テイクは、センスがなくて本当にお粗末なものだった。
このライヴでも、ロール主体の雷落とし的パワー・スタイルなのだが、リズムを一定にキープしつつ、メリハリもちゃんとつけている。スタジオ・テイクのソロ・フレーズを、律儀になぞっているようなところもある。繊細でテクニカルなプレイは当然望めないわけだが、それなりにまとまりのよい迫力あるプレイを聴かせている。

8. ハウ・メニー・モア・タイムズ (How Many More Times)

冒頭、プラントの挨拶と曲紹介の後、いきなり爆裂演奏開始。ただし勢い余って、ワン・コーラスめの最後あたりで、ギターのリフが1小節ずれたような…。
プラントとの掛け合いでのギターのアウト・トーンなど、えらくカッコいい。リフ部分が終わり、間奏パートに突入。早弾きの後、間奏中盤でペイジにしてはえらく滑らかでエレガントなフレーズのソロを聴かせてくれる。まるでデッドみたい。なかなかの聴きものだ。

ブレイクの後、「オー、ロージー…」のところで、「胸いっぱいの愛を」のリフが聴こえる。これは、今回が初めてではなくて、前回の北米ツアー最終日(831日テキサス・インターナショナル・ポップ・フェス)の演奏でも、ここで同じリフが聴けた。
そして再びリフ・パートの爆裂演奏に戻り、珍しくあまり引っ張らずに盛り上げて終わっている。

いつもの冒頭のメンバー紹介なし、途中の弓弾きパートなし、「ハンター」の後のメドレーもなしで、11分強。この頃の「ハウ・メニー…」としては、わりとコンパクトな演奏だが、すっきりとしていて後味よし。



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