2013年10月15日火曜日

ベック・ボガート&アピス 『ライヴ・イン・ジャパン~40周年記念盤』


この(2013年)9月から10月にかけて、ロック・ファンのサイフを直撃する重量級アイテムの発売が相次いでいる。ボブ・ディランの『セルフ・ポートレイト』関連のブートレッグ・シリーズ最新版が出て、ザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』の完全版が出た。
個人的には、CS&N関連アルバム9枚の初紙ジャケ化なんていうジャブ攻撃もあった。そして今月はいきなりキング・クリムゾンの24枚組(内CD20枚は1974年のライヴ音源)という巨大爆弾が落下。みんな無事に生き延びてますか。

そんな中、さらに加えて先月の『レコード・コレクターズ』誌の記事で、ベック・ボガート&アピスの『ライヴ・イン・ジャパン~40周年記念盤』の発売を知った。これははたして買いか、それとも…。
発売元が発表したこのアイテムのポイントは次の五つ。

1 オリジナル・アナログ・マスターからのリマスター
2 当日の演奏曲順通りの収録
3 ツアー・パンフの復刻封入
4 7インチ・アナログ・シングル・サイズの紙ジャケ化
5 豪華ブックレット

ボーナス・トラックはなしということだ。となるとリマスターは私にはあんまり関係ないし、シングル・サイズの紙ジャケなんてCD棚でいかにもじゃまくさそう。私的には、演奏曲順通りに曲を並べ直したことくらいしか興味がわかない。
というわけで、こういうときにいつもしているように、手元にあるBB&Aの『ライヴ・イン・ジャパン』を聴きなおしてみた。私の持っているのは2005年の紙ジャケ版だ。
で、結局のところ結論としては手元の盤で十分、わざわざ買い直す必要はなしということになった。

なぜかというと、このアルバム、そもそも曲順がどうのこうのというほどの内容じゃないからだ。
『レコード・コレクターズ』誌20052月号ジェフ・ベック特集の中で、このアルバムについて小野島大は「体育会系のノリ」とか「肉体派ハード・ロック」という言い方をしていた。私もまったく同感。だから曲の順番なんてどうでもいい感じ。

それにアナログ時代からのこのアルバムの曲順も、これはこれでそれなりに良くできていると思う。ちなみにその曲順とは以下のとおり。

〔A面〕 1 迷信
2 君に首ったけ
3 ジェフズ・ブギー
〔B面〕 4 ゴーイング・ダウン
5 ブギー
6 モーニング・デュー
〔C面〕 7 スウィート・スウィート・サレンダー
8 リヴィン・アローン
9 アイム・ソー・プラウド
10 レディー
〔D面〕 11 黒猫の叫び
12 ホワイ・シュッド・アイ・ケア
13 プリンス/ショットガン

アナログの4面に、収録時間の関係から演奏順には眼をつぶって割り振ったらしい。しかし、A面からD面へとちゃんと起承転結の構成になっている。
「迷信」や「ジェフズ・ブギー」でいきなりギュっと聴く者の心をつかむA面。続くB面は、実際のコンサートでのアンコール・ナンバー「ゴーイング・ダウン」と「ブギー」の2連発でさらに盛り上げる。そしてC面で一転、「スウィート・スウィート…」や「アイム・ソー・プラウド」など、メロウなバラードのソウル・サイドとなる。
そしてD面は「ブルース・デラックス」入りの「黒猫の叫び」から、ギターとベースのかけあいがある「ホワイ・シュッド・アイ・ケア」へと盛り上げていき、「プリンス/ショットガン」の怒涛のメドレーに突入してエンディングとなっている。
たしかに「君に首ったけ」では、アルバム2曲目にして長い長いベース・ソロが入ったりするなど多少不自然なところはあるかもしれないけど、曲順はもうこれでいいんじゃないの。


それにしても今月号の『レコード・コレクターズ』誌(201311月号)のBB&A特集にはちょっとビックリ。この『ライヴ・イン・ジャパン』の発売に合わせて組まれた特集とはいえ、何だかBB&Aをホメ過ぎのょうな気も…。
アルバム『ライヴ・イン・ジャパン』だけならともかく、BB&Aのヒストリー記事はあるし、前作のスタジオ作『ベック・ボガート&アピス』の全曲ガイドやらボガートとアピスのBB&A以外の活動の詳細まで紹介するという力の入れようだ。
『ベック・ボガート&アピス』の全曲ガイドをやるなら、もっと先にやるべきベックのアルバムはいっぱいあるはずなんだけど。

BB&A期は、ジェフ・ベックのキャリアの中の谷間の時期だ。つまりあまり高く評価されてこなかった。
これは私だけの見方ではなくて、これまでのごく一般的な見方だったし、何よりジェフ・ベック本人もそう考えている。BB&Aはベックにとって、始めてしまったものの、次のステップに進むために早く終わりにしてしまいたい「消化試合」だったのだ。
そして結局BB&Aはセカンド・アルバムの制作までいったものの、発売には至らないままベックがグループを放り出してしまったわけだ。
ベックが『ライヴ・イン・ジャパン』の日本以外での発売を、いまだに許可しないのは、やっぱり「消化試合」だったからだろう。

この「消化試合」はハード・ロックだったので、とくに日本では大いに受けた。今回の『レコ・コレ』誌の特集で、中重雄がその辺の事情を次ように上手くまとめている。
「BBA期のハード・ロック路線は、やりたい音楽とそれに見合う人選、自分の弾きたいギター・スタイル、一緒にやってみたいメンバーの個性などすべてがバラバラで四苦八苦していたために、集めた人材でできることを最優先した結果」(中重雄「トリオ編成による“ハード・ロック化”路線の真相」)。だからコンセプトが曖昧で、中途半端だったというのである。
私がBB&Aにあまり執着を感じない理由は、まさにその辺にある。今回あらためてスタジオ作の『ベック・ボガート&アピス』も聴き直してみたら、意外に曲はいいのだけれど ヴォーカルがダメだし演奏も中途半端で印象の薄いアルバムだと思った。一言で言えばダサいのだ。

『ライヴ・イン・ジャパン』は、ベックのプレイが伸び伸びしている点は悪くないのだが、サウンドの全体はアメリカっぽく田舎くさい。この泥臭くて垢抜けない感じが今ひとつだ。前々作までの第2期ジェフ・ベック・グループのあの洗練されたシャープな感じはない。ベック・ファンは、みんなこの泥臭さも平気なんだろうか。
今回の『ライヴ・イン・ジャパン』の40周年記念盤のオマケがテンコ盛りの売り方を見て、そんなふうにでもしないと売れないのだろうなとかんぐってしまった。たんにリマスターしただけでは、商品としての魅力が薄いと発売元は踏んだのだろう。そうだとしたらメーカーの方が、『レコ・コレ』誌よりよっぽど冷静だということになる。


ジェフ・ベックは天才だと思う。プレイヤーとしても音楽的な創造性の点でも、ジミー・ペイジやエリック・クラプトンを上回っているかもしれない。しかし、その天才性ゆえというべきか、気まぐれですぐ飽きてしまう。バンドを組んでも音楽性のツメが甘いし、バンドの運営もちゃんとできない。
そんなベックの残した最高の成果は、第1期と第2期のジェフ・ベック・グループのそれぞれセカンド・アルバムだと思う。つまり『ベック・オラ』と『ジェフ・ベック・グループ(オレンジ)』だ。
これらも今回あらためて聴いてみたら、そのシャープでひらめきに満ちたプレイに思わず聴きほれてしまった。とくに『オレンジ』は、ベックの最高傑作だと思う。バンド・サウンドそのものも、しなやかで繊細でセンスがきらめいている。アルバム全曲ガイドをやるなら、こっちが先でしょう。
BB&Aのような横道にそれずに、このソウル、ファンクとロックの合体路線でもっと先に進んで欲しかった。

〔追記〕
BB&A『ライヴ・イン・ジャパン~40周年記念盤』が発売された直後のこと、このアルバムがタワー・レコードの週間洋楽売り上げランキングで、5位に入っていた。4位より上は、ポール・マッカートニーの新譜以外は、近頃の知らないアーティストばかり。これらに続いて5位に食い込むというのは、かなりすごいことなのでは。
やっぱりみんなベックが好きなんだなあ。しかし、これはオヤジ世代ばかりでなく、若い人の中にもベック・ファンが多いということでもある。なら、第1期と第2期ベック・グループのアルバム群も40周年記念エディションを出して欲しかったな。
(2013年11月3日)



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