2013年4月18日木曜日

極太スパゲッティの快楽

<太麺2.2ミリ業務用を買った>

ついに思い切ってスパゲッティを通販で買った。ものは「ボルカノ・ローマン・スパゲッチ」の.2ミリ。業務用の4キロ袋だ。
配達してくれたクロネコ・ヤマトの方は、これが入ったダンボールの箱を渡してくれるとき、「重いですよ」とわざわざ声をかけてくれた。なるほど、4キロのスパゲッティはずっしりと重かった。

なんでこんなものを買ったのか。太麺のスパゲッティが食べたかったのだ。2.2ミリの太麺のスパゲッティは、ふつうのスーパーでは売っていない。置いてあるのは、1.4ミリからせいぜい1.7ミリまで。ようやく輸入食品のお店で見つけたが、また買いに行くのもたいへんだ。なにせ、田舎に住んでいるもんで。

太麺のそれも炒めたスパゲッティを食べたいと思っていた。その背景には、個人的に興味を寄せているスパゲッティをめぐる三つの事柄がある。今回は、その三つのスパゲッティの話題を御紹介しよう。


<ナポリタンの復権>

昨年2012年あたりからナポリタンのブームが続いているらしい。つい先日も読売新聞でナポリタンの話題が載っていた。鉄製のステーキ皿にナポリタンを乗せて供するメニューが人気で、女性にも受けているというのだった。

その他でもナポリタンのブームはじわじわと広がっている。この記事にもあるように、近頃はナポリタンを定番のメニューにする店が増えている。洋食屋、喫茶店はもちろん居酒屋などでも出すところがでてきたらしい。
またナポリタンを看板メニューとするジャンク系のスパゲッティ(路スパと言うらしい)のチェーン店も増加しているという。
さらにカップ麺や冷凍食品でも、ナポリタンが売れていて、新製品も出ているとのことだ。

年配の人が懐かしい味としてナポリタンを食べるだけではなく、若い人たちにも目新しいメニューとして受けているらしい。どうりで、ナポリタンをめぐるいろいろな話題を目にする機会が増えてきたと思った。

まさにナポリタンの復権である。
私が高校生だった1970年代、スパゲッティといえば、ミート・ソースとナポリタンの2種類しかなかった。私は断然ミート・ソース派だった。これに、たっぷり粉チーズとタバスコをかけて食べたものだ。高校生の私にはけっこうな御馳走だった。
しかし、80年代からイタめしのブームが広まって、本格的なパスタ料理が一般にも普及していった。それからこっち、ナポリタンは長いことさげすまれ、不遇の時代をかこってきたように思う。本場イタリアのパスタ料理を、遠く離れた極東の地で、わけもわからないまま安直化したマガイモノとして馬鹿にされてきたのだった。
 
本場では、茹でたてのパスタにソースを和えて食べる。ナポリタンのように麺を茹で置きしたりしないし、それを炒めたりもしない。さらにはアメリカ生まれのケチャップを味付けに使ったりなんてこともけっしてしない。
ケチャップについてついでに言うと、アメリカではケチャップは食べ物にかけるものであって、加熱して料理に使うというのは一般的でないらしい。

先日、本格的なナポリタンの作り方をテレビで紹介していた。麺は太麺を使う。これをいったん茹でてから、冷蔵庫でわざわざ一晩ねかすのだという。こうすると、モチモチ感が増すらしいのだ。本場のパスタのアルデンテとは、もう目指している方向がまったく違っているのだ。
こうしてナポリタンは、今や、まったく日本独自の料理として、新しく価値を与えられ復活してきたわけなのだ。


<あんかけスパゲッティ>

あんかけスパゲッティというものがある。名古屋めしのひとつである。名古屋特有の食べ物としてメジャーな味噌煮込みうどん、味噌カツ、ひつまぶし、天むすなどには、もうそれほどの興味はない。しかし名古屋めしでも、もうちょっとB級な台湾ラーメンとか、手羽先唐揚げとか、このあんかけスパゲッティなんかは、ぜひ一度食べてみたいと思っていた。
このうちあんかけスパゲッティは、2,3年前にやっと食べることができた。東京の新橋にあるパスタ・デ・ココまでわざわざ食べに行ったのだ。パスタ・デ・ココは、カレー・チェーンのCoCo壱番屋が別展開しているあんかけスパゲッティ専門のチェーン店である。何しろCoCo壱番屋は名古屋が発祥だからね。
このチェーンも含めて、以前は東京にもあんかけスパゲッティの専門店がいくつもあったようだ。しかし、そのほとんどが閉店して、現在ではここ新橋に唯一一店舗が残っているだけだという。

あんかけスパゲッティとは、炒めた太麺のスパゲッティに、トマト・ベースの餡状のソースをかけたものである。この餡状のソースは、あくまでトマト味がベースであることと、大量の胡椒が使われていてかなり辛味が効いていることが特徴である。
ウィキペディアによると、この料理はミート・ソースを名古屋人好みの味に仕立てようとしてできたと言われているとのこと。

さらに具材がタマネギ、ピーマンなど野菜のものは「カントリー」、ウインナー等の肉類のものは「ミラネーゼ」、野菜と肉の両方を使ったものは「ミラカン」と呼ばれているという。
名古屋ではたくさんのお店で出しているのに、ちゃんと一定の定義が確立されており、調理法と名称も固定化している。そんなところからも、かなり食文化として成熟し、地域に定着している感じがある。

それからあんかけスパゲッティのもうひとつのj特徴として、その盛り付けの量が多いということもあるらしい。なので名古屋ではあんかけスパゲッティは、もっぱら若者や男性の食べ物とされている。

 では、味の方はどうなのか。
まあ、それなりに美味しい。しかしパスタ・デ・ココに限って言うと、辛さも今ひとつだし、分量も少なめでちょっと物足りなかった。
これはたらふく食べて満足し、それを何度か繰り返しているうちにやみつきになりそうな味ではある。でも、東京で専門店が次々閉店して一軒きりになってしまったのも何となくわかる。

というわけで私が食べに行ったのは一回きり。でもその後、自分の家でトマト味のスープなどが残ると、それにとろみをつけ胡椒を大量に投入して、スパゲッティにかけて食べたりしている。

なおちょっとややこしいが、名古屋めしにはもうひとつイタリアン・スパゲッティというものがある。これは熱した鉄皿に溶き卵をしいて、その上にナポリタンをのせるものだ。溶き卵は次第に固まって、ナポリタンの底部と一体になる。
前項で紹介した最近はやっている鉄皿乗せナポリタンのルーツは、この辺りにあるらしい。


<B級グルメの名店「ジャポネ」のこと>

有楽町の首都高の高架下、そのいちばん京橋よりの銀座インズ3の一画に「ジャポネ」という店がある。カウンターだけの小さな店なのだが、これがB級グルメ界でカルト的な人気を誇るスパゲッティの店なのだ。
私もB級グルメ好き&スパゲッティ好きなので、その人気を聞きつけて何度か足を運んでいる。
店にはつねに長蛇の列が出来ていて、その人気ぶりが窺われる。並んでいるのはほとんどサラリーマンだ。

この店のスパゲッティは本格パスタとは無縁の、茹で置き麺を炒めた純和式スパゲッティだ。
メニューはとにかく多彩。醤油、塩、明太子、梅のりなどの和風から、ザーサイ入りの中華風(メニュー名「チャイナ」)、カレーをかけたインド風(同「インディアン))、そしてもちろんナポリタンもある。

この店の売りはとにかく安いことと、量が多いこと。
標準のレギュラー・サイズで、値段は500円か550円ほど。安いでしょ。
麺の量は、レギュラー(350g)、ジャンボ(550g)、横綱(750g)の3段階。メニュー上ではここまでだが、さらにこの上に親方(950g)、理事長(1050g)というのがあるという。
なお、この麺のグラム数には諸説がある。ネット上でファンによって紹介されているグラム数には、数十グラムの違いがあるのだ。しかし、いずれにせよなかなかものすごい量であることはまちがいない。
ネットで見ていたら、全メニューで理事長を制覇したなどという、まさにフード・ファイターのような猛者もいて驚かされる。

カウンターに座ると調理しているのはすぐ目の前。コンロの熱でこちらまで熱いくらい。中華なべに油をしいて熱し具材と茹で置きしてある大量の麺を手づかみで投入して炒める。
ちなみにこの店の一番人気のメニューで私も何度か食べた「ジャリコ」の場合、その具材には、小松菜、トマト、しその葉、豚肉、タマネギ、しいたけ、えびが入っている。はっきりいってこれらの量は麺に比べるとほんの少量。十分炒めてから、仕上げにしょう油を回しかけると、じゅうじゅうと音がして出来上がりだ。

これらを2~3人分ずつ豪快に炒めては、皿に盛り付ける。何しろ行列が出来ているわけだから、次から次に何時間も炒め続けるわけで、なかなか大変な商売だなと感心する。

それで味の方はというと、はっきりいってびっくりするほど美味しいものではない。炒められて香ばしい醤油の香りと、太い麺のモチモチした食感、そしてとにかく満腹になれた満足感がこのお店の醍醐味だ。まさにジャンクな旨さ。
かなり油っぽいので食べていると口の中がギトギト、口の周りがベタベタになり、体調によっては食後ちょっと胃にもたれることもある。
B級グルメというものが、だいたいみんなそうであるように、ジャポネのスパゲッティもそんなにたいそうなものではない。しかし、このジャンクな旨さが人々を引き付けるのもよくわかる。それで私も何回か足を運んでしまったのである。

ところで私は、カウンターから作っている様子を見るたびに、これなら自分で作れる、いつか自分で作って見ようと思っていたのだった。


<極太スパゲティの快楽>

ナポリタン、あんかけスパゲッティ、そしてジャポネ。この三つのジャンクなスパゲッティには三つの共通項がある。
その1は、麺が太いことだ。どれも、2.2ミリを使っているらしい。
その2は、あらかじめ茹でておいたスパゲッティを炒めていること。油はかなり多めだ。これが旨さの秘訣らしい。
そしてその3は、盛りが大盛だということだ。そのために圧倒的に男性に支持されているわけだ。
 麺が太くてモチモチで、油ギトギトで、大盛。つまりこれらは、まぎれもないジャンク・フードであり、イタリアの本格パスタとは一線を画しているものなのだ。

私が、極太の麺を探したあげく通販で買ったスパゲッティは、「ボルカノ・ローマン・スパゲッチ」の.2ミリ。茹で時間は13分。
ボルカノ・ブランドでスパゲッティを作っている富山県砺波市の日本製麻株式会社の製品だ。この会社のパスタの特徴は、原料にデュラムセモリナ粉に加えて強力小麦粉を配合してあること。
この「ローマン」の原料表示を見ると、強力粉がセモリナ粉よりも前に書いてある。ということは、強力粉の比率の方がセモリナ粉よりも多いのかもしれない。このことからも本場イタリアのパスタのアルデンテ感ではなく、日本のうどんに近いモチモチとした食感を目指していることがわかる。

さっそくこの極太麺で炒めスパゲッティを作って食べてみた。
麺の量は乾麺で250gにした。これは茹でると600gになる。ジャポネのジャンボ(550g)と横綱(750g)の間くらいの量だ。
13分という茹で時間はけっこう長いが、出来上がりを待つ楽しい時間だ。
茹で上がるとフライパンで炒める。フライパンには、先に炒めておいた具材がそのまま入っている。具材は基本的にありあわせのものを使っている。タマネギ、ピーマン、キャベツなどは定番だろうが、長ネギやブロッコリーなんかを入れたこともある。
そして油は思い切ってかなり多めに入れた。大さじ2杯くらい。オリーブ・オイルとかバターなんかを使うとパスタになってしまうから、ここは当然、サラダ・オイルだ。

ケチャップでナポリタンも作ってみたが、いちばん気に入っているのはしょうゆ味だ。塩と胡椒を加えた上で、最後にしょう油を回しかける。和えるのではなく、じゅうじゅうと香ばしくしっかり炒めて出来上がり。
なお前に作った野菜炒めなどが残っていたら、これも麺と一緒に混ぜて炒め直すと美味しい。炒め物の味は、塩味、しょうゆ味、味噌炒め、中華風など何であってもかまわない。あのジャポネの何でもありのメニューを想起せよ。
これまで実際、白菜の旨煮や回鍋肉(ホイコーロー)を混ぜてみたが、最高に美味しかった。

極太炒めスパゲッティは、作っているときにとてもおおらかな気持になれる。本格パスタを作っているときは、麺の茹で加減やら、茹で上がりにジャストなタイミングで和えられるようにソースに気を配ったりで、かなり神経質にならざるをえなかった。
しかし、炒めスパの場合は、茹で時間もかなりルーズでいいし、具材もあり合わせでOK。残った炒め物を投入しても可。とにかくそれで美味しくできるのである。だから、作っているときからゆったりした気分でいられるのだ。

出来上がったスパゲッティを大皿に盛る。山盛りのスパゲッティというのは、なかなか見事な景色だ。熱々の麺をふうふうしながら食べ始める。このモチモチ感からは、パスタ料理とはまったく違う世界が広がっている。どんどんのめり込んでいくような快楽の世界だ。
そして、この油としょう油の香り。炭水化物と塩気と油の合体こそやっぱりジャンク・フードの旨さの真髄だ。まあアンチ・ヘルシーだけど。
しょうゆ味ではあるが、粉チーズとタバスコをたっぷりかけて、ハフハフと食べ進む。麺だからすいすいとお腹に入っていく。さすがに、最後の頃はペースが落ちるが、なんなく食べ終えてしまう。このときの満腹感には、この上ない幸福感がある。

今日は具材にあれを入れようかな、とか、きのう残ったあのおかずを一緒に炒めたら美味しいんじゃないかな、などと毎日楽しんでいる。こうして4キロのスパゲッティはみるみる減っていくのであった。

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