2012年7月5日木曜日

手打ちラーメン自作に到る長い道のり

自分でラーメンを作って食べるようになって約一年になる。
最近、麺の作り方に大きな進歩があって、やっとわれながらそこそこ満足のいくものが食べられるようになった。
今回はここまでの工夫の数々や苦労話を振り返ってみることにする。

なお、その途中で考えついたいくつかのラーメンのレシピや、最近たどり着いた手打ち麺のレシピは、それぞれ別ページで紹介しているので、この文中では省略してある。レシピに興味のある方は、まずそちらを参照されたい。

勤め人をしていた頃、足しげく通っていたラーメン屋があった。激辛ラーメンが売りのこの店の味に、私は完全にハマってしまった。ひところは、二日に一度はここのラーメンを食べていたほどだ。しかし仕事を辞めて隠居の身となってからは、めったに行けなくなってしまった。
でもやっぱり舌がなじんだあのラーメンが食べたい。そこであの店の味を何とか自宅で再現してみようと思い立ったのだった。こうして長くて楽しい道のりが始まった。

自分用のためだけだから、あの店のように鶏がらを大きな寸胴で何時間も煮込むというわけにもいかない。そこで、多少(というか、かなり)妥協して、各種スープの素や魚介系のダシの粉末、それに中華系の調味料などをいろいろ調合し、その他にんにくや野菜も加えて、何とかそれなりのものを作ろうと試みた。
その頃から試行錯誤をしながら毎日毎日飽きることなく、お昼にラーメンを作って食べ続けることとなる。

例のラーメン屋には1,2か月に一度くらいの頻度で立寄る機会があった。そのたびにやっぱり「本家本元」は旨いなあと感じいり(当然だ)、自作ラーメンの味の、「本物」との大きな落差にがっかりしたものだ。
しかし、そのつど自分の作った味のどの辺が足りないのかチェックして、微調整を繰り返していた。まあこちらは略式レシピだから出来ることと出来ないことがあるわけだが。
その成果である私なりのラーメンのレシピは、このブログ上でそのつど何度か紹介している。

 この間、麺はずっと、スーパーで買ってきた市販のものを使っていた。つけ麺のブームは家庭にまで及んでいるらしく、つけ麺用の太い麺がスーパーでも容易に入手できる。この麺が例の店で使っている中太麺に近い太さなので、だいたいこれを買ってきて食べていた。
ところが今年になって、スープだけではなく、麺も自分で作ることを思いついた。べつに市販のものに大きな不満があるわけではなかった。ただ自分でときどきうどんを打っていたので、道具もあることだし同じ要領でラーメンの麺も出来ないものかと考えたのだ。

さてラーメンの麺の材料として「かん水」というものがある。調べてみると「かん水」はラーメンの麺に特有の添加物で、麺に弾力と滑らかさをだすという。ラーメンの麺独特の黄色い色もこの「かん水」によるものらしい。しかし、これをスーパーなどで見かけたことはない。
ネットで調べてみると、「かん水」は入手が難しいものらしい。
それからまた、「かん水」は食品添加物の一種なので、あえてこれを使わない「無かん水」のラーメンというものがあることもネットで知った。つまり「かん水」は無くてもよい、あるいはむしろ無い方がよいという考え方もあるようなのだ。
そうした時、「かん水」の代わりに玉子を使う玉子麺のレシピというのを見つけた。

「かん水」が無くても、玉子がこれに代わるならと、さっそく作ってみることにした。しかし、やはり自分なりの試行錯誤が必要だった。
小麦粉は中力粉を使い、これに塩と玉子と水をあわせてこねて生地を作る。これらの材料は玉子を除けばうどんとまったく同じだ。
作り方も、うどんのときと同じように、こねた生地をビニールの袋に入れて足で踏む。平らに伸ばしては折り畳み、また足で踏んで平らに伸ばす。これを数回くりかえすのだ。
その後1,2時間放置して熟成させるのもうどんと同様。
ちなみにこの材料の小麦粉をデュラムセモリナ粉に置き換え、オリーブ・オイルを加えるとパスタそのものである。

それから麺棒で薄く延ばして包丁で細く切ることになる。これがかなり難しい。まずなかなか思うように薄くならない。どうしても厚さ2ミリくらいまでしか薄くできないのだ。
さらにそれを折り畳み、こま板を当ててそば包丁で切るのだが、細くしようとすると、うまくそろった太さにできない。
麺は茹でると生の状態よりかなり太くなるので、茹で上がりはラーメンというよりうどんに近いもの、というかほとんどうどんそのものだった。

生地の伸びをよくして薄くするために、水分の量を加減したり、中力粉の一部を薄力粉に置き換えたりといろいろ工夫をした。
しかし、色こそ玉子の色がそのまま残ってラーメンらしい黄色だが、コシはあっても滑らかさが足りない。やっぱりどうしても、うどんに近い麺になってしまう。
しかし玉子麺には、それなりのやさしい食感と美味しさがある。それに私の作るスープとの相性も悪くはなかった。まあとりあえずこれでもいいことにしようと思った。
麺を手作りし始めてから、だいたい一ヶ月くらいかかって、材料の配合の割合と作り方の手順がほぼかたまった。そのレシピもブログ上で紹介している。

それからは、朝、生地をこねては寝かせ、昼前に延ばして切って麺を作る毎日。しだいに生地のこね方や延ばし方の要領もよくなり、麺を切る技術もそれなりに上達して、以前よりは細く切れるようになっていった。
美味しい毎日が続いた。

さて、ラーメンを自作し始めて約一年、麺を手打ちで作り始めて半年くらい経った今年の6月、いよいよ私のラーメン作りは次の段階に入ることになる。「かん水」を使った本格的な麺作りを試みるようになったのだ。
きっかけは「かん水」の代用として重曹が使えることを知ったことだった。
かねてから「かん水」を使って麺を打ってみたいとは思っていた。しかし、ラーメンの麺を手作りするのは、蕎麦やうどんほど一般的ではないようで、材料の「かん水」も、ネットでは業務用の比較的容量の大きいものしか売っていなかった。少量の入手は難しいようだ。そのためなかなか思い切れなかったというわけだ。

ところが、重曹がこの「かん水」とほぼ同じ成分なので、「かん水」の代わりになるという記事を見つけた。重曹ならスーパーで容易に手に入る。そこで、さっそく重曹を買ってきて試してみた。しかしすぐにはうまくいかなかった。
そこで、あらためてじっくりと重曹を代用にした麺の造り方について調べてみたのである。ほんとにネットってありがたい。
数は少ないが、いくつかのブログで作り方が紹介されていた。それらを見比べながら整理してみて、だいたい次のようなことがわかった。
・重曹を「かん水」の代用にすることができる。
・その際、重曹を水で溶き、いったん65度以上で加熱する必要がある。炭酸水素ナトリウム(重曹)を分解して、炭酸ナトリウム(「かん水」の主成分)にするためだ。
・成分的には「かん水」1gは、重曹だと1.6gに相当する。
「かん水」の使用量は、小麦粉の1~2パーセントなので、重曹で代用する場合は、その1.6倍を使用する必要がある。
・「かん水」は使い過ぎると、麺の味をそこなってしまう。

しかし、人によってまちまちの点もいくつかあった。
たとえば麺の主原料は強力粉なのだが、これにつなぎとして少し薄力粉を入れるという人もいた。また、うどんのときは必ず加えるのだが、塩を入れる人と入れない人がいる。
それから、ラーメンの麺特有の黄色い色は、本来「かん水」によるものなのだが、重曹で作ると、そのせいかどうか定かでないが、色が若干薄い。そこで鮮やかな黄色になるように、着色料(くちなし)を加えるという人もいた(市販の麺も加えているらしい)。

 結局このような疑問点は自分でいろいろ試してみて、何とかやっと自分なりの配合と手順に辿りついたところだ。
作業上でこれまでとの違いは、「かん水」を入れると生地の段階でかなり弾力があるので、麺棒で延ばすときに手間がかかることだ。麺棒を押し付けて平らにしても、また元に戻ろうとして少し縮んでしまう。だからこれまで以上に何度も根気よく延ばす必要がある。

こうして「かん水」入りの麺を作って食べてみると、やっぱりラーメンの麺とうどんとは、まったく別物であることがわかる。
うどんは塩を入れることによって強いコシが生まれる。しかし、滑らかさはなかなかでない。プロの職人は技術で滑らかさをだしているのだろう。素人には難しい。
ところが「かん水」を使うと、麺はコシと同時に弾力もあってしなやかになる。素人でも比較的容易に、弾力としなやかを得ることができるのだ。
思えば玉子麺を食べていると、汁がしょっちゅう丼の外にはねたものだ。麺を箸ではさみ、持ち上げて口に運ぼうとすると、麺が暴れて汁を飛ばすのだ。ところが、かん水を使った麺は、そのような時でも、しなやかなので箸からすっと下に流れ、注意していれば玉子麺ほど汁ははねたりしないのだ。こんなところでも違いを実感した。

というわけで何とか一応満足できる麺が打てるようになった。
今は、毎日、美味しいラーメンを食べている。しなやかで弾力のある歯応えがうれしい。
ここまでの道のりをあらためて振り返ってみると、やっぱり手作りというのは楽しいものだ。最終的な完成形を食べるのはもちろんだが、そこに到るまでの改良の過程もまた楽しい。
ラーメンは一日一回お昼に食べるだけだ。だから、つまり実験は一日に一回しか出来ない。今度はここをこうしよう、あそこをああしようと思っても、試せるのは一日一回きり。試行錯誤は遅々としてなかなか進まない。しかしこののんびりさ加減を、今は逆に楽しんでやろうという気持になった。
何といっても食べに行くよりお金もかからないし、こんなことを毎日していられるのは最高のぜいたくかもしれない。
では、今日もいただきます。

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