2015年8月29日土曜日

バインミーが食べたくて (レシピ付)


■バインミーが食べたい

この夏、ベトナムのホーチミンを訪れた。
ホーチミンは活気にあふれていて、しかもどこまでものんびりとしている。ちょうど昔の日本を思わせるところがあって、何だか懐かしい気持ちになった。
美味しいものもいろいろ食べた。中でも、本場のバインミーを食べることができたのはうれしかった。

バインミーとは、ベトナム名物のサンドイッチのこと。長さ20センチほどのベトナム風のフランスパンに切り込みを入れ、肉や野菜をたっぷりとはさんだものだ。路上の屋台や食堂やカフェなど、それこそ街中どこでも売られている。ちゃんとした料理というより、いわゆるファストフード、B級グルメであり、ベトナムの人たちが昔から日常的に食べているソウルフードとも言えるものだ。

もともとサンドイッチ好きで、フランスパン好きの私としては、前々からこれが気になっていたのだ。
旅行の間に、二つのお店の計7種類のバインミーを食べることができた。そしてそのどれもがじつに美味しかった。
日本に帰ってきてから、あのバインミーをまた食べたいと思った。何とか、自分で作れないものか。いろいろ調べてみたら、私と同じ思いを持っている人がたくさんいることがわかった。そういう人たちの記事と、自分が実際に食べた経験をもとに、自分なりに作ってみた。けっこう美味しいものができた。
(レシピにだけ興味のある方は、スキップして文末をご覧ください)

■バインミーについて

「バインミー」とは、本来ベトナム語でパンのこと。正確には「バインミー・ティット」(ティットは「肉」の意味)のように、うしろに具を示す言葉がつくという。
バインミーが普通のサンドイッチと大きく違っている点は、まずパンの食感が軽くてサクサクとしていること。そして具材の量が多くて、しかも多種多様な食材が取り合わされていることだ。
中でも特徴的なのは、日本でいう紅白なます(大根と人参のなます)が入っていることと、パクチーなどの香草や、ヌックマム(ベトナムの魚醤)などの調味料によって独特のエスニック風味が醸し出されていることだ。これらによってファストフードとは思われない複雑で奥深い味わいが生み出される。一度食べて病みつきになる人が多いらしいが、その気持ちはよくわかる。

■バインミーの基本形とヴァリエーション

バインミーのレシピにはかなり自由度があって、お店によってかなりまちまち、よく言えば個性的だ。一応、基本形は次のようになる。
ベトナム風のフランスパンの横に切り込みを入れ、バターとパテ(レバーペースト)を塗る。これに、メインの具材(ハムや肉など)と、紅白なますと、生野菜(キュウリ、たまねぎ、レタス等)と、そして香草(パクチーなど)をはさむ。仕上げにヌックマム等の調味料を振って出来上がり。
お店では、作り置きしてある場合もあるが、たいていは注文するとそのつど、目の前でチャッチャッチャッと作ってくれる。

メインの具材の定番は、ハム、卵焼き、サバ缶詰などらしいが、さらにさまざまなヴァリエーションがあって、たとえば ソーセージ、ミートボール、ローストしたポークやビーフやチキン、肉のフレーク、スモークサーモン、イワシ、白身魚、さらには豆腐やもつ煮込みまで、じつにさまざま。なお、レバーペーストに加えてチーズをはさむ店もあるらしい。まさに何でもありといった感じだ。
そしてそれぞれの具材により、取り合わせる野菜や調味料も変わるとのこと。

■バインミーの美味しさ

ベトナムでバインミーを食べた人が、バインミーはどこで食べても外れがなかった と書いていた。なるほどそうだろうと思う。不味いバインミーなんて存在しないのだ(たぶん)。
なぜかというと、バインミーの味は、いろいろな美味しさを組み合わせて成り立っているからだ。

人間の味覚は、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五つといわれる。バインミーには、みごとにこの五つの味が全部含まれている。たとえば甘味と酸味はなます、塩味はヌックマム、苦味はパクチー、うま味は肉やパテといった具合だ。また唐辛子やチリソースによって辛味が加わる場合もある。
そしてまたこうしたさまざまな味や食感が絶妙のバランスで取り合わされている。たとえばバターやパテやハムの脂っこくて濃厚なコクに対して、なますのさっぱりとした甘酸っぱさや、生野菜のみずみずしさが、ちょうどよい対比になっている。
また、食感的にも、パテやハムのねっとり感に対して、なますのパリパリ感や生野菜のシャキシャキ感がうまくバランスをとっている。
 もうこれだけで美味しいに決まっているのだが、さらにこれに、香草とヌックマムがアクセントに加わって、奥深い味わいを作り出しているのだ。
これなら、どこで食べても美味しいはず。外れがないのも当たり前のような気がしてくるでしょ。

■フランスパンの違い

ガイドブックの紹介文やいろいろなレシピには、バインミーに使われるパンのことをただ「フランスパン」と書いてある。しかし、バインミーのパンは、日本で私たちが食べているフランスパンとはかなり違うものだ。美味しいとか美味しくないとかの問題ではなくて、まったくの別種のパンとしか思われない。

バインミーのパンには米粉が入っているという。そのせいなのか、このパンは空気を多く含んでいて、サクサクと軽い食感が特徴だ。日本のフランスパンは、もっと密度が濃く、もっちりとしている。
バインミーのパンは、密度がスカスカなので、切れ目を入れて開いて、かなりたっぷり具をはさんでも、ちゃんと閉じることができる。具の厚みをパンの生地が吸収してしまうのだ。バインミーの断面を見ると、まるでパンの中心を繰り抜いて詰め込んだように、具がきれいに真ん中に収まっている。
日本のフランスパンは、少し具が多いと、閉じたときにバクハツしてしまう。つまり、上と下のつながっている部分が破れてしまうのだ。ちなみにウィキペディアのクックブックのレシピでは、具を収めるために、パンの中身を少し削り取れと書いてある。

この軽くてサクサクのベトナム風フランスパンが手に入らない以上、日本で本場のバインミーを再現するのは残念ながら無理というものだ。

■自分流のレシピを考える

何でもありとは言え、それでもバインミーであるための最低限の要素とはいったい何だろう。私見では、それはパンと、パテと、なますだ。
パンについては上に書いたとおり。「バインミーの味はパテで決まる」とも言われているらしいが、このこってりしたパテとなますの酸味が、バインミーの美味しさの骨格を形作っているものと思われる。あとは、これにいろいろな具材を足して、香草と調味料で味をしているわけだ。

上にも書いたようにベトナムのフランスパンが手に入らない以上、完全な再現はできないわけだが、なんとか基本を押さえつつ自分なりのバインミーを作ってみようといろいろ試してみた。

・パンについて…パンは、パン屋さんの本格的なフランスパンでは、皮が厚くて硬いし、中身も密度が高過ぎてとてもバインミーには向かないと思う。
そこで思いついたのが、スーパーで売っているフランスパンだ。うちの近所のスーパーでは、ヤマザキと神戸屋とトップバリューのものがあった。いずれも、本格的なフランスパンよりソフトで密度が粗くて軽い。その分ベトナムのフランスパンに近いとも言えるわけだ。ただし、サクサクとした食感はないのだが。
なお作る前にアルミはくで包んでオーブントースターで温める(10分くらい)と、パンがやわらかくなって、具をはさみやすくなる。実際に本場でも、具をはさむ前にパンを火であぶったりすることがあるらしい。

・塗るものについて…マーガリンとレバーペーストを使った。
レバーペーストは、近所のスーパーで売っていた「ジェンセン デラックスレバーパテ」。ちょっと高いけれど、何しろ「バインミーの味はパテで決まる」と言われているわけだし…。パンに塗る時もかなりたっぷりと塗った。

・はさむもの①メインの具材について…ハムやフランクフルトを使ってみた。フランクフルトはそのままではなく、削ぎ切りにした。
いずれも高級品ではなくて、お手頃品(?)。メインの具材についてはあまりこだわるつもりはない。バインミーの美味しさのキモは、パテとなますだから、あとはそれなりで良いと考えたのだ。
まだ試していないが、魚肉ソーセージなんかでも美味しそうだ。

・はさむもの②なますについて…なますは普通に紅白なますを作った。ただし、はさんだ後、仕上げにヌックナムなどのしょっぱい調味料をかけるわけだから、なますそのものの塩味はごく控えめ。ちなみに甘酢の成分は、酢2に対して砂糖1で、塩0。
このなますをかなり大量にはさんだ。

・はさむもの③生野菜と香草について…なますを多めにしたので、生野菜と香草は少なめ。
ただし、パクチーはぜひ使いたいところだが、残念ながら手軽には入手できない。そこで、間に合わせとして思いついたのが、スパイスとして売っている粉末のコリアンダー(パクチー)を振りかけること。
そして香草がない分、生野菜は香草の代わりにもなりそうな、細ネギ、タマネギ、カイワレなど、香りの強いものを選んだ。細ネギとタマネギは、実際に本場のバインミーにも使われている。
これらの野菜をはさんだ上に、スパイスのコリアンダーを振りかけるわけだ。生のパクチーにはかなわないが、ほんの少しベトナムに近づいた気分にはなれる。

・調味料について…バインミーに使われる調味料は二つに大別されるようだ。ヌックマムなど塩味をつける基本の調味料と、スパイシーな唐辛子系の調味料だ。
ネットのレシピを見ていると、じつにいろいろなものが使われている。基本の調味料のどれかとひとつとスパイシーな調味料のどれかひとつの計2種を仕上げにかけるわけだ。
基本の調味料としては、ヌックマム、ナンプラー(タイの魚醤)、シーズニングソース(タイの大豆系の醤油)、マヨネーズなど。スパイシーな調味料としては、チリソース、スイートチリソース(タイの甘いチリソース)、シラチャ—ソース(タイのチリソース)などがある。
ヌックマム以外は、マヨネーズを除いてみんなタイの調味料なんだけど、ベトナムのバインミーでも使われているのだろうか?ただし、マヨネーズは私が現地で食べたバインミーに使われていたような気がする。
それで結局私は、基本の調味料として、ナンプラーとシーズニングソースを、スパイシー系として、スイートチリソースとシラチャーソースを交互に組み合わせて使っている。どれもそれなりに美味しい。シーズニングソースとシラチャーソースは、近所で売っていなかったので、今回通販で購入した。

こうして出来上がったバインミーを両手で持ち、かぶりとかぶりつく。何とも言えない快感だ。具がはみ出さないように両手でしっかり持ち、ぱくぱくモグモグ食べていると、いつのまにか何もかも忘れて夢中になっている。バインミーには、そんな魔法のような魅力がある。

■私流バインミーのレシピ(まとめ)

以上をレシピの形にまとめてみる。

〔材料〕
・フランスパン(スーパーで売っているもの)
・バターまたはマーガリン
・パテ(レバーペーストなど)
・メインの具材(ハム、フランクフルト、魚肉ソーセージなど)
・紅白なます(他のレシピを見て作っておく。塩味は控えめ)
・生野菜(細ネギ、タマネギ、カイワレなど)
・香草(あればパクチー、なければコリアンダー・パウダーで 代用)
・基本の調味料(ヌックマム、ナンプラー、シーズニングソース、マヨネーズなど)
・スパイシーな調味料(チリソース、スイートチリソース、シラチャ—ソースなど)

〔作り方〕
紅白なますを作っておく。塩味は控えめに。
パンの横に切り込みを入れ、アルミはくで包んでオーブントースターで温める(10分くらい)
パンが温まったら、開いてバター(またはマーガリン)と、パテを塗る。
そこにメインの具材(ハムなど)、紅白なます、生野菜、香草(またはコリアンダー・パウダー)をのせる。
その上から基本の調味料(ナンプラーなど)とスパイシー調味料(シラチャーソースなど)をかけ、パンを閉じて出来上がり。



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