2013年5月22日水曜日

東京散歩 「懐かしい仮想の東京を歩く」 江戸東京たてもの園訪問

ゴールデン・ウイークの一日、家族と連れ立って小金井公園の中にある江戸東京たてもの園を訪ねた。
江戸東京たてもの園は、都内に建っていた歴史的に貴重だが現地での保存が難しい建築物を、移築・復元して集めた野外展示施設だ。愛知県にある明治村の東京都版と言ったらいいか。
集められた建物は、江戸時代から昭和までのもので、全部で30棟。ここは都立の施設で江戸東京博物館の分館になっている。
私は、神社仏閣などよりも、実際に人が住んでいた昔の家を訪ねて見学するのが好きだ。それで以前からこのたてもの園を訪ねてみたいと思っていたのだ。

JR武蔵小金井駅からバスに乗って小金井街道を北へ進むと、5分ほどで小金井公園の西口に到着。
小金井公園は広々とゆったりしていて、木立も多いきれいな公園だ。昼時なので、まずベンチを見つけてお昼を広げる。さっき駅前の西友で調理パンやお稲荷さんを買い込んできておいたのだ。もうすっかりピクニック気分。お天気のよい公園は、のんびりとのどかで気持がよかった。

少し歩いてたてもの園の入り口に着く。園の入り口になっている建物が、もう光華殿という由緒ある歴史的建造物だ。中に入るとチケットのカウンターやショップがあるが、休日とはいえ混み方はそこそこといった感じ。
建物奥の敷地内への入り口脇には展示室があって、園内に建っている建物の設計図面や建築家の資料などが展示してある。ここで予習をして、いよいよ園の中へ。

園内は思ったより緑が多くて広々としている。「展示」というと何となく展示物がぎっちりと並んでいるような印象を持ってしまうが、このあたりは建物と建物の間にけっこう緑がある。
入り口でいただいた園内マップを見て、まず西ゾーンの方へ歩いていく。

このたてもの園が興味深いところは、ただ古い建物を集めただけではなく、それらを下町と山の手の街並みを再現するように配置してあることだ。西ゾーンが下町、東ゾーンが山の手、そしてその先が武蔵野の農村といった構成になっている。
ちょうど昔の東京をそのままミニチュア化したような配置だ。つまり、昔の東京をテーマにしたテーマ・パークとも言える。そう考えると、何だかちょっとワクワクしてくる。

西ゾーンは、下町中通りという通りが中心にあって、その通りの両側に建物がいろいろと並んでいる。なかなか良い風情。通りの突き当たりには、りっぱな銭湯の建物がある。まずはこの銭湯の中に入る。
この銭湯は、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』に出てくる風呂屋のモデルになったとか。あれはたしか道後温泉もモデルにしているはずだけど。
靴を脱いで脱衣場からその奥のタイル張りの浴場まで入れるようになっている。本来は裸で入るところに、服を着て入るのはちょっとだけ違和感を感じる。でもとにかく何だか懐かしい。

銭湯の隣に仕立て屋と居酒屋がある。居酒屋の中は狭いカウンターの前に桶で作った椅子が並んでいて、なかなかいい感じだ。こんなところで飲んでみたいな。
下町中通りをぶらぶらとあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、建物を一軒ずつのぞいていく。
お醤油&酒屋、宿屋、和傘の問屋、乾物屋、文房具屋、花屋、荒物屋、小間物屋といったお店が並んでいる。
それぞれの建物は外観や内装まで再現してあるのはもちろんだが、そこで売っていた商品まで並べて店内の様子を再現している。

とにかく、どれも懐かしい、というか懐かしいような気がする。
売り場の面積は、どこもそんなに広くない。その売り場の空間を天井の方まで上手に工夫して使って品物を収めている。
それにしても現在に比べたら扱っている品物の種類はすごく少ない。でもこれで人々の生活には十分だったのだろうし、その生活は幸せだったのだろうと思えてくる。今だって、本当はここに並んでいるくらいの品物で十分なのだとも思う。

売り場の裏の居住部分ものぞくことが出来た。お醤油屋や和傘の問屋は、やっぱり金持ちだったらしく、部屋も広いし部屋数も多い。たぶん使用人を使っていたせいもあるのだろう。
しかし、その他の個人商店の居住スペースはどこも狭い。商いをしながらのつましい生活がしのばれた。ここにも『三丁目の夕日』に描かれているような、夢と希望と幸せがあったのだろうな、などと想像してしまう。

その他このゾーンで印象に残ったのは、万世橋交番の建物。小さいながら石造りの立派な造りだ。この構えにはたぶん国家権力を誇示する意図があるのだろうが、それと対照的に中の空間がとにかく狭くて、いかにも窮屈。ここで任務を果たしていたおまわりさんはお気の毒でした。

そこから木々の間を抜けながら、高橋是清邸(2.26事件の暗殺現場!)や、まるでミニ日光東照宮のような旧自証院霊屋などを巡る。
そして今度は東ゾーンの山の手通りへ。ここには、写真館の他、有名無名の個人の邸宅が並んでいる。それぞれその中に上がって見学ができる。靴を脱いだり履いたりしながら順番に見てまわった。
蔵も併設された財閥三井家のお屋敷はさすがに豪邸。さっき見てきた高橋是清邸も立派な邸宅だった。しかし結局いちばん印象的で、住んでみたいなと思ったのは、そんな豪邸ではなく、もっと小さな家だ。
中でも、建築家前川國男の自邸と「田園調布の家」と呼ばれている家が良かった。けっして広くはないが、センスが感じられて、住んでいて心地よさそうだ。しかし、こういう家をきれいに住みこなすには、そこに住む人の暮らし方にもセンスが求められるんだろうな。私は大丈夫かな、ちょっと自信がない。

くたびれてきたので、デ・ラランデ邸を見学したところで、その中にある武蔵野茶房というお店で休憩することにする。
デ・ラランデ邸は、デ・ラランデというドイツ人建築家の洋館で、今年の4月20日から公開されたばかり。そのせいもあってか、けっこう混んでいる。
こんな貴重な建物の中で、お茶なんて飲んでいいのだろうかと思いつつコーヒーを注文。オープン直後で段取りがよくないのか、出てくるまでだいぶ待たされたが、おかげでゆっくりと座って休憩することが出来た。

休憩後、山の手エリアのさらに先にある武蔵野の農家を見てまわる。どれも立派な造りだ。茅葺で、土間があって、上がると広い畳の部屋がいくつもつながっている。こんなに立派ではなかったが、私が子供の頃、何度か泊まった祖父の家を思い出して懐かしかった。
しかし、日本人はこういう暮らし方がイヤで、洋風の快適な暮らしにあこがれた。そしてその結果、現在のような家の形になったわけだ。だから、今さらこんな暮らしもいいなんてのんきに言ってはいけないような気もする。

こうして園内を巡り終える。ゆっくりと半日かけて、懐かしい昔の日本を堪能することが出来た。昔の人々の地味で慎ましい暮らしにぶりを肌で感じて、自分の生活を振り返るよい機会にもなったような気がする。
ともかく家族と過ごした楽しい連休の一日だった。

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