2014年12月4日木曜日

ボブ・ディラン&ザ・バンド 『地下室』(1975)


ちまたでは、ディランのブートレッグ・シリーズ第11集『ベースメント・テープス・コンプリート』(The Basement Tapes Complete: The Bootleg Series Vol. 11、201411月)の発売が話題になっている。が、今回は、あえてこのブートレッグ・シリーズではなくて、ベースメント・テープスの最初の公式盤である1975年に出た『地下室』のお話。

今回のブートレッグ・シリーズも買おうかどうしようか迷った。こういうときに私は、手元にあるそのアルバムの関連音源を聴いてみることにしている。そこで今回はベースメント・テープス関連のアルバムということで、75年の『地下室』、ザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』、ディランの『ジョン・ウィズリー・ハーディング』、そしてついでにザ・バーズの『ロデオの恋人』なんかを聴き直してみたのだった。それぞれどんな関連があるかは省略。
そうしたら自分でも意外だったことに、久しぶりに聴いた『地下室』が、すごく良かったのだ。何で「意外」かというと、私はこのアルバムが、ずっとあまり好きではなかったからだ。ゴメンね。

私はこの『地下室』を、1975年の発売と同時に手に入れて、ずいぶん繰り返し聴いたのだ。しかし、全然その良さがわからなかった。
このアルバムが出た1975年といえば、ディランは生涯で2度目のピークを迎えていた頃だ。74年に『プラネット・ウェイヴズ(Planet Waves)』、75年には『血の轍(Blood on the Tracks)』、そして76年には『欲望(Desire)』が発表された。いずれも名盤だ。その深く鋭い叙情は、聴く者の心をわしづかみにした。
思えばこんな一連の名盤群のはざまに『地下室』は発売されたのだった。見劣りしてしまうのは、しょうがない。『地下室』のデモ録音のような大雑把な演奏と歌は、当時の私の心には全然響かなかったのだ。

ついでにいうと、『地下室』のアルバム・ジャケットもいただけなかった。あの猥雑でごちゃごちゃしたジャケットのイメージは、収められている曲と演奏が、庶民というか大衆の音楽に根ざしたものであることを表しているのだろう。その意図があまりにも単純過ぎて面白味がないのだ。
そんなふうだから、その後このアルバムを聴くことはめったになかったし、あまりいい印象も持っていなかったのだ。

ところが、今回久しぶりに引っ張り出して聴いてみたら、なかなか良かったというわけである。ファンキーでラフでワイルドなところがまず魅力的だ。しかも、それが気取っていなくて、自然体の演奏なのもいい。しかし、もちろんそれだけではない。それだけではないのだが、この良さをどう表わしたらいいのだろう。

ちなみに、このベースメント・テープス・セッションの曲を、ザ・バーズがアルバム『ロデオの恋人』で2曲ほどカヴァーしている。「どこにも行けない(You Ain't Goin' Nowhere)」と「なにもはなされなかった(Nothing Was Delivered)」だ。
ザ・バーズの『ロデオの恋人』は、カントリー・ロックの先鞭をつけた作品と評価されている。しかし、今の耳で聴くと、ここで聴けるのは、ただのつまらないカントリーそのものだ。ディランのカヴァー2曲も、じつに平板で凡庸な演奏。
しかし、この演奏を聴いてみて、逆にディラン&バンドの元の演奏がいかに魅力的かがよくわかる。ディランのうねうねとよじれた歌い回し、そしてバンドの悠然としたサポートぶり、それが一体となってじつに味わい深いのだ。

ところで、発売以来ずっと興味がなかったので、この『地下室』に関する情報は、ほとんど何も知らなかった。なので、今回、ブートレグ・シリーズの発売にあわせて遅ればせながら知った『地下室』に関する事実の数々は、私にとってはまさに“驚きの真実”だった。
いちばん驚いたのは、収録されている全24曲中、ザ・バンド単独の8曲が、じつはベースメント・テープスのものではなかったことだ。そればかりか、何とその8曲の中には、75年の時点での新録も含まれていたというのだ。
また、ディラン参加の曲にも、ザ・バンドによるオーヴァー・ダブが施されるなど、かなり手が加えられているという。これらは、このアルバムの編集にあたったロビー・ロバートソンの仕業ということだ。

ちなみにロビー・ロバートソンは、ずっと私のギター・ヒーローのひとりだった。ザ・バンドの曲作りの中心人物(「ザ・ウェイト」とかね)であると同時に、その渋いギター・プレイは他に類がなかった。しかし、だんだんこの人の良くない評判を聞くようになる。そしてあの映画『ラスト・ワルツ』で見た彼の姿。本当にうさん臭い人物に映った。
なるほど『地下室』を、本来の姿から、よりザ・バンド色の強い形に改変する事など、彼ならいかにもやりそうなことに思えた。

とはいえそんなディランよりもザ・バンド側に偏ったこのアルバムの音楽性は、割り切って聴けば、そんなに悪くはないのだった。ザ・バンド的にみると、ここで聴ける音は、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』とセカンド・アルバム『ザ・バンド』の中間あたりに位置するように聴こえる。これはこれで良い。もう一曲「アイ・シャル・ビー・リリースト(I Shall be Released)」が入っていれば完璧だったのだが。
ただし、このアルバムを、オリジナルのベースメント・テープスが録音された1967年の作品と考えてはおかしなことになる。どちらかというとロバートソンが手を加えた1975年の作品と考えるべきだろう。だからこそ、オリジナルの形である今回のブートレッグ・シリーズの『ベースメント・テープス・コンプリート』の発売に大きな意義があるわけだ。

さてそれで、ブートレッグ・シリーズの方は買ったのか?って。それはまた次回にね。


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