2013年3月14日木曜日

柳田ヒロ 『ミルク・タイム』 『HIRO YANAGIDA』

フード・ブレインのDNAシリーズということで、第1回は柳田ヒロの初期ソロ・ワークについて。

フード・ブレインの唯一のアルバム『晩餐』が出たのが1970年10月のこと。フード・ブレインはそのまま解散することになる。そして早くもその翌月11月には、フード・ブレインのキーボーディスト柳田ヒロのソロ第1作『ミルク・タイム』が発表されたのである。
となれば当然『晩餐』のセッションで果たせなかった柳田の音楽的志向を、自分の思うとおりに実現しようとしたのがこの『ミルク・タイム』であると考えたくなる。
しかし『ミルク・タイム』は『晩餐』とけっこう似ているところがあった。強引に言えば『晩餐』の続編と言えないこともない。
インプロヴィゼーション中心のセッション風の曲があり、フリー・フォームの曲もあり、また、曲の間に短いつなぎの小曲を挟んだりする構成の仕方も似ていた。せっかくならもっと全然違うことをやればいいのに…。思えばこの辺りからすでに柳田のアーティストとしての限界が見えていたのかもしれない。

さて柳田ヒロの名前を私が最初に聞いたのは、たしか岡林信康のバック・バンドのリーダーとしてだった。
岡林の1971年7月の日比谷野音でのライヴを収録したアルバム『狂い咲き』でバックを務めているのが柳田ヒロ・グループだ。メンバーはピアノの柳田に、ベースが高中正義、ドラムスが戸叶京助のトリオ編成。高中はフライド・エッグの前にこんなところでベースを弾いていたのだった。このバンドははっぴいえんどに代わって、岡林の3枚目のアルバム『俺らいちぬけた』からバックを務めていたのだ。
しかし、しょせんここでの役割は歌伴だし、ピアノのソロも何箇所かで聴けるが、注目するほどのものではなかった。

それから長い月日が流れた。そしてだいぶ遅れてフード・ブレインを聴き、柳田のオルガン・プレイにびっくりさせられることになる。奔放でワイルド、破壊的なエネルギーを発散するそのプレイは、今聴いても十分に刺激的だ。

そこでフード・ブレイン後に出た柳田ヒロのソロ第1作『ミルク・タイム』(70年)とその数ヵ月後に出た第2作『HIRO YANAGIDA(7才の老人天国)』を聴いてみたのだ。
この2枚は日本のプログレッシヴ・ロックの先駆的作品として定評のあるアルバムである。

しかし聴いてみると良い曲もあるが、それほどでもない曲もたくさんあった。日本のロック・アルバムにありがちな「水増し感」がやっぱりあって全体としては薄味で物足りない印象だ。
とくに柳田のアルバムの場合、よく言えばヴァラエティに富んだ内容ということになるが、悪く言えばとっちらかっていて何をしたいのかよくわからない感じがある。興味の間口が広過ぎ、やりたいことが多過ぎるのだろう、たぶん。で、結局まとまらないのだ。
さかのぼれば、フード・ブレインの「M,P.B.のワルツ」あたりから何だかそんな感じはあった。

柳田ヒロはキーボード・プレイヤーとしては間違いなく卓越した才能の持ち主だ。しかしアーティストとしては、結局ポリシーに欠けていたと言うしかない。彼のその後の活動もフォークの方に行ってみたり、ジャズ・ロックに戻ったりと、ポリシーのなさを証明しているような気がする。そして早々に音楽の世界から姿を消してしまったのも、そのせいだったのでは…。

しかしもちろん、そのことで彼の残したいくつかの最高のプレイの価値が失われるわけではない。同様にこの2枚のアルバムの中で光を放っているいくつかの曲の輝きもまた薄れるわけではないのだ。

以下アルバムについてのコメント。


□ 柳田ヒロ 『ミルク・タイム』 (1970)

『ミルク・タイム』は、柳田ヒロの初ソロ・アルバム。上にも書いたようにフード・ブレインの『晩餐』発売の翌月である1970年11月に発売された。
これも上に書いたことだが、『ミルク・タイム』は『晩餐』に似ているところがある。柳田が『晩餐』でできなくて、このソロ・アルバムでやりたかったこととは何だったのか。
見たところ、それはメロディ志向とクラシカルな要素を盛り込むことだったように思われる。

 メンバーはドラムスがフード・ブレインからの角田ヒロ、ベースが「プレ」フード・ブレイン(『新宿マッド』)からの石川恵樹。ギターが水谷公生。私はこのアルバムで初めてこのギタリストを知ったのだが、その異才ぶりにはまったく驚かされた。そしてヴァイオリンの玉木裕樹とフルートの中谷望。

内容的には上にも書いたとおりヴァラエティに富んでいるが、それがあまり成功しているとは思えない。その結果「水増し感」を感じてしまう。
全10曲中の4曲、すなわち「LOVE ST.」、「WHEN SHE DIDN'T AGREE」、「LOVE T」、「MILK TIME」は1分内外の短い曲。これがアルバム冒頭や曲間のつなぎの役割を果たしている。
ちょうどフード・ブレインの『晩餐』と同じ趣向だ。してみると『晩餐』でのあのアイデアは柳田によるものだったのだろうか。
このつなぎは、チェンバロやフルートやヴァイオリンによる静かでクラシカルな曲調のもの。まあ可もなく不可もないといったところだ。

この4曲に加えて「FISH SEA MILK」、「ME AND MILK TEA AND OTHERS」の2曲も2分台という短い曲だ。「ミルク」がらみの曲はみんな短いのか?
ある程度の長さの曲は結局、残る4曲のみ。というようなわけで「水増し」な感じはいや増すのであった。

その中でメインとなる曲はインプロ主体の「RUNNING SHIRTS LONG」jと「FINGERS OF A RED TYPE-WRITER」の2曲。それと短いながらフリー・フォームの「FISH SEA MILK」が良い演奏だ。

このアルバムは日本のプログレッシヴ・ロックの先駆と言われているようだが、私にはあまりピンと来ない。おそらく、キーボード主体のハードな曲と、チェンバロやフルートのクラシカルな曲が同居しているので、プログレと呼んでいるだけではないのか。

以下いくつかの曲について印象を。

「RUNNING SHIRTS LONG」
フード・ブレインにつながるパワフルなセッションだ。このアルバムのベスト・トラック。
水谷公生のギターはエグい。海外の誰にも似ていない独自のスタイルだ。柳田のソロのときのサイドの入れ方もエキセントリック。
エレクトリック・ヴァイオリンのソロも個性的だ。
そして柳田のオルガンも熱い。
角田ヒロのドラム・ソロは珍しく空間を生かした知的なソロだ。

「HAPPY, SORRY」
ポップなインプロ曲だが、フード・ブレインの「M.P.B.のワルツ」にも通じるような面白くない曲。
各自何とか演奏でがんばっているが、いかんせん曲そのものがつまらない

「FISH SEA MILK」
一転して『晩餐』の「穴のあいたソーセージ」につながるフリー・フォームの曲。これがなかなか充実した演奏。もっと長く聴きたい。

「FINGERS OF A RED TYPE-WRITER」
やっと2曲目のハード・エッジな曲。ウォーキング・ベースやロールを効かせたドラムなどリズム隊がジャジーなジャズ・ロック。
ギターがオルガンと絡みながら白熱のソロを展開するが、ブレイクの後、エフェクトをはずしてねじれたソロへ。続くエレクトリック・ヴァイオリンのソロも、粘着質でユニーク。フランク・ザッパを思わせるこの「ねじれ感」は悪くない。
意外にも柳田のオルガンは、サイドに徹したままて前面に出てこない。

「MILK TIME」
アルバムのタイトル曲は意表をついたヴァイオリンによるクラシカルな27秒の小曲。


□ 柳田ヒロ 『HIRO YANAGIDA(七才の老人天国)』(1971)

前作をプログレと呼ぶのは疑問があるが、こちらのアルバムなら日本のプログレの先駆と呼ぶことに異論はない。
アナログA面の全部を占める3曲がとりわけ素晴らしい。「屠殺者」から「真夜中の殺人劇」、そして「夢幻」へと、ハードなプログレ魂が16分にわたって炸裂している。

しかし、あとがいけない。前作同様、今作もヴァラエティに富む内容だが、B面は「高層ビル42F」を除いて残りの曲はみな魅力の乏しい中途半端な曲ばかり。だからやはりアルバム全体としては「水増し感」のする内容になってしまっている。
せめてもう1曲くらいA面に匹敵するテンションの曲があれば名盤になれたのになあ。

メンバーはドラムスが前作の角田ヒロから田中清司に代わり、ヴァイオリンが抜けただけで、あとは前作と同じ。ギターの水谷公生が、ここでも個性的ないい仕事をしている。

以下、各曲についてコメント。

「屠殺者」
 必殺のオープニング・ナンバー。せわしなくたたみかけるように迫る冒頭のオルガン、そしてロールするドラムスとエッジのはっきりしたベースなどまるでEL&Pそのものだ。
フード・ブレインからふっ切れて、目まぐるしい展開を作り込んだ柳田の意欲が伝わってくる。
押し寄せるようなテーマの繰り返しの合間で、歪みまくるギターと金切り声で叫ぶフルート・ソロがすごい。

「真夜中の殺人劇」
続くこの曲も冒頭部はやはりベースとドラムスがEL&P風。
リズムがワルツ・タイムに変わってインプロヴィゼーション・パートに突入。ひしゃげた音でうねるベース音に乗って、ファズ・ギターがよじれ、オルガンが咆哮を続ける。
この「邪悪」で「暗黒」な感じは『アースバウンド』のキング・クリムゾンを思い起こさせる。

「夢幻」
  一転してフルート中心のアコースティカルな曲が始まり、後半エレクトリック・ギターとドラムが入って盛り上がっていく展開。まさにこれぞ哀愁のブリティッシュ・プログレ。
ロビン・トロワーのような水谷のギターソロを満喫できる。

「グッド・モーニング・ピープル(Good Morning People)」
ここからアナログB面。やっぱりまたやてる。柳田って人はこういう曲が好きなんだねえ。フード・ブレイン時代の「M.P.B.のワルツ」、前作の「HAPPY, SORRY」につながるポップでライトなだけの取りえのない曲。

「オールウェイズ(Always)」
 フォークっぽい柳田のヴォーカル曲。どうしても歌いたかったのだろうな。曲に魅力がないし、とにかく彼のヴォーカルは「ヘタウマ」というより「ヘタヘタ」。

「高層ビル42F」
 これはすごい。坂本龍一がやりそうなアンビエント曲。このセンスは時代のずいぶん先を行っていたことになる。
クールなフルートとアヴァンで破壊的なピアノの対比が見事。

「愛しのメリー」
オールド・タイミーなポップ・ソング。EL&Pにならってのお遊び曲なんだろうけど、シャレのピントがずれている。なので意味不明の一曲。
ヴォ^カルはこの後スピード・グルー&シンキに参加するジョーイ・スミス。

「憂うつ」
 プロコル・ハルムばりのオルガン・サウンドは重厚。しかし、結局それが延々と続くだけの曲。歌もつまらないし面白みなし。

2013年3月13日水曜日

「つけ麺 坊主」訪問 「特製麻婆らーめん」 2013

前回訪問より約10日後、再び「つけ麺 坊主」を訪問した。
いつも訪問するのは平日の開店(11時)の直後なので、前回、日曜日の昼過ぎに行ってみたら店の外に行列が出来ていて、その人気ぶりに驚かされた。
今回は平日の11時35分に入店。やはり昼時に近いせいか混んでいる。先客10人。

券売機に向う。前回は「特製麻婆つけめん」だったので、今回はその兄弟分の「特製麻婆らーめん」にする。2月の限定期間に一回しか食べなかった「極辛麻婆らーめん」の余韻を味わいたくて…。それといつもの「白めし」と「ビール」。

カウンターの中ほどに空席を見つけて座る。御主人に「麺とめしは普通で」とお願いする。
先客は、作業服の人たち、サラリーマン、高校生など。みんなグループで、単独客は自分ひとり。女性客もなし。後客は14人。さすがに昼時だ。
混んできたので厨房の御主人は忙しく動き回っている。早めにビールが来る。ありがたい。お勤めの方々や受験について話す学生さんたちの間で一人ビールをぐびりぐびりと飲む。

ここでこの店のメニューを簡単におさらいしてみる。
このお店は「つけ麺」と名乗っているわけだが、もちろんラーメンもやっている。メニューは大別すると、「つけめん類」と「らーめん類」に分かれている。

「つけめん類」は辛い方から次のようになっている。
カッコ内の辛さの表示はメニューに記載のもの。
・極辛麻婆つけめん (超極辛、2月・8月限定)
・特製麻婆つけめん (極辛)
・特製つけめん (超激辛)
・つけめん (激辛)

これに対応する「らーめん類」は以下のとおり。
・極辛麻婆らーめん (超極辛、2月・8月限定)
・特製麻婆らーめん (極辛)
・特製らーめん (超激辛)
・麻婆辣麺 (激辛)
・らーめん (やや辛)

「つけめん類」と「らーめん類」はだいたい対応しているが、「つけめん」の<激辛>に対して、「らーめん」は<やや辛>と、辛さが違っている。「つけめん」に実質的に対応しているのは、「らーめん」の上にある「麻婆辣麺」ということになる。
店内の<辛さランキング>では、対応しているメニューの場合「らーめん類」より「つけめん類」の方がより辛いことになっている。ラーメンのスープを濃縮したのがつけ麺のつけ汁だから、その分辛さも強いということなのだろう。

なおこのラインナップは辛さが違うだけではない。具材の中身もちょっと違っている。いちばん大きな違いは、「特製つけめん」と「特製らーめん」にだけ麻婆豆腐が乗っていないことだ。
その点が物足りなくはあるものの、じつはその分もやしと豚肉が多めに入っているので、私的にはこの「特製」のラインがいちばんのお気に入りだ。

辛さ的にはこれらの下に、塩、醤油、味噌、胡麻味噌のつけめん、らーめんがある。さらにつけめんだけに「味噌坊主つけめん」と「坊主つけめん」というのもある。こういう辛くない方のメニューは一度も食べた事がないので、どんなものなのかわからない。
 
やがて「特製麻婆らーめん」登場。
外見は「極辛麻婆らーめん」とほとんど同じ。赤いスープが見えないくらいトッピングの赤い粉末(魚粉+唐辛子?)の山が丼の中央に盛り上がっている。その山の下からごろんと麻婆の豆腐がのぞき、その傍らに海苔一片。

トッピングを崩すと丼からこぼれそう。まずひたすらレンゲですくってスープを飲む。熱いッ。で、旨い。いつもより脂が多めで、コクが濃いめ。ときどきスープの口直しにご飯を食べる。これがまた美味しい。
最初にスープを味わい、ご飯を食べるという、この楽しみがつけ麺にはない。なので私的にはやはりラーメン系が好きなのだ。

一段楽したところで、赤い粉末の山をそっと崩してスープになじませる。それから丼のまん中ヘンにスペースを作り、底の方から麺を引っ張り出して食べ始める。
熱くてもちもちしていい感じだ。今度はしばらく麺ばかり食べ続ける。なるべくスープをからめるようにして食べる。しかしさすがにつけ麺のときに感じた味噌の風味は、スープの濃さが違う分弱くなる。なるほど、あれがつけ麺の醍醐味なのだなとあらためて思い至る。

「特製麻婆」の辛さはそこそこで「極辛麻婆」には遠く及ばない。なので、わりと落ち着いたまま食べ続ける。
具材の麻婆豆腐、もやし、豚肉などをじっくり味わい、麺をすすり、スープを飲み、ご飯を食べる。美味しい。が辛さのために我を忘れるということはなかった。
今日は、花粉が多そうなので鼻炎の薬を飲んできたら、いつもの鼻水もほとんど出ない。ラーメンの鼻水にも効くとは驚いた。汗も少しかく程度。

そしてなんなく完食。それなりに満足&満腹。
すごく辛い場合、大汗をかいて、大量の鼻水を出して、食後には体内が浄化されたような爽快感があるのだが、今回はそれはなし。次回は卓上の唐辛子を大量投入だ。
ごちそうさま、と満員の店内を出る。

その後、偕楽園まで歩き、ほどよく咲いた梅の花と観光客を見て帰る。

2013年3月11日月曜日

フード・ブレイン『晩餐』 『新宿マッド』

フード・ブレインは1970年のごく短い期間だけ活動したバンドだ。1960年代から70年代へという日本のロックの変わりめで、閃光のように一瞬の輝きを放ち、そのまま歴史の狭間に消えていった。
メンバーは陳信輝(ギター)、柳田ヒロ(キーボード)、加部正義(ルイズ・ルイス・加部 ベース)、角田ヒロ(つのだひろ ドラムス)の四人。70年の5月にステージ・デヴューし、同年の10月に唯一のアルバム『晩餐』を発表して解散している。

フード・ブレインのアルバム『晩餐』は、ヴォーカルなしのインストゥルメンタルのロック・アルバム。音楽性は本格的なハード・ロックで、前衛的あるいは実験的な面も併せ持っている。商業性を度外視したような姿勢が私にはとても好ましい。
なお近年になってバンド結成前夜に録音された映画のための音楽がCD化された。この映画は若松孝二監督の『新宿マッド』。ベースが加部ではなく、石川恵でのセッションだ。

1970年当時、ちょうど私はロックを聴き始めたばかりの頃だったが、残念ながらこのバンドをリアル・タイムでは聴いていなかった。今思い返すと、何とも残念なことだ。しかし、当時の多くのロック少年がそうであったように、私もハード・ロックに関しては完全に海外のバンドの方を向いていた。日本のバンドに注意を払うような余裕などなかったのだった。

今あらためてフード・ブレインの音を聴いてみると、彼らの演奏のセンスとテクニックが世界水準に達する優れたものであったことがわかる。しかしもっと面白いのは、彼らの音楽が当時の海外のロックの「エキス」を濃縮したもののように聴こえることだ。
彼らが海外のバンドの方を向いていたのは、われわれロック少年たちとまったく同じだったろう。そして彼らがそこに感じたカッコよさもわれわれが感じていたのと同じだったはずだ。彼らはそれを自分たちの手で再現しようとしたわけだ。だから彼らの音には、当時のロック少年たちが海外のロックに感じていたカッコよさが濃縮され、ときにはデフォルメされて宿っているわけだ。

フード・ブレインの『晩餐』の発売は1970年の10月だった。これに先立つ70年の8月にははっぴいえんどの『(通称)ゆでめん』が発売されている。この二つのアルバムは、既成の価値にとらわれない自由な精神(それがつまりロックの精神だ)を共有しながら、正反対の方向を向いている点で好対称の一対という風に私には映る。
正反対の方向とは、フード・ブレインがブリティッシュ・ロックをベースにしたシリアスで硬派なハード・ロック・バンドであるのに対し、はっぴいえんどが内省的なアメリカのウエスト・コースト・サウンドを日本風に取り入れようとしたバンドであることだ。
日本のロックの二つの流れが、1970年のこの辺りで交錯していたのだ。翌年の4月に発表された『ニューミュージック・マガジン』誌の70年度のNMMレコード賞日本のロック部門では、はっぴいえんどの『ゆでめん』が第1位に、フード・ブレインの『晩餐』が第4位になっていた。ちなみに、第2位は遠藤賢司『niyago』、第3位はクニ河内と彼の仲間たちの『切狂言』だった。

1968年頃から現れた自作自演の批評精神豊かなフォークがはっぴいえんどに流れ込み、その後ニューミュージックという形で花開く。それはやがてメジャー化していくと同時に大きく変質していくことになる。
しかし結局、時代ははっぴいえんどの方へと傾斜していったことになる。そうして結果としてそうなってみると、それ以外の流れなどまるでなかったように歴史は記憶の中で整序されてしまうのだ。フード・ブレインもそんな歴史の谷間に忘れ去られてしまった存在と言えるだろう。

だから、いまさら日本のロックの歴史におけるこのバンドの重要性を謳い上げても始まらない。今につながる流れにはなり得なかったのだから。彼らの音は彼らを好む個々の人々の心の中で響いていればそれでよいのだとも思う。彼らの音を好む人々は、たぶん時代を経ても次々に現れるだろうから。

しかし取りあえず70年代の初頭、フード・ブレインのDNAは三つに枝分かれして受け継がれていくことになる。すなわち柳田ヒロの初期のソロ・ワークと、陳信輝のスピード・グルー&シンキと、そして角田ヒロの加わったストロベリー・パス~フライド・エッグにおいて。

以下フード・ブレインのアルバムについて簡単にコメントしてみる。


□ フード・ブレイン『晩餐』

アルバム全体としては柳田ヒロのオルガンの奔放さと、加部正義のベースのうねり具合がとくに印象に残る。
また陳信輝が、破天荒というよりもむしろ頭脳的 知的プレイヤーであることをあらためて強く実感させられた。

ライナーによるとこのアルバムは角田のスケジュールの都合で、たった二日間で録音されたという。
このアルバムの収録曲数が少ないのは、もしかするとそのせいかもしれない。何しろ、つなぎ的な短い曲とフリー・フォームの「穴のあいたソーセージ」を除くと、曲らしい曲は4曲のみだ。
しかし、短時間での録音というハンデが、逆に吉と出て密度の濃い演奏になったものと思われる。

またつなぎの短い曲をいくつも入れたのも、少ない曲数をカヴァーするための苦肉の策だったのかもしれない。しかし、これもアルバム全体に知的な陰影をもたらすという良い結果を生んでいる。

以下、各曲について。

「ザット・ウィル・ドゥ(That Will Do)」
一曲目からバンドはいきなり疾走している。
ホンキー・トンク・ピアノ入りのイントロのカットアップの後、ブリッジに続いて始まる柳田ヒロの奔放なオルガン・プレイに引き込まれる。
うなりをあげるベースの上で延々とハモンドが暴れまくる。そのワイルドさは、ジョン・ロード以上でキース・エマーソンに迫るほどだ。ときどき絡んでくる角田ヒロのドラムスもタイトに引き締まっていてよい。
後半オルガンと入れ替わりに登場する陳信輝のギターはじっくりとうねるような展開だ。かなり知的な印象で、フランク・ザッパを思わせる。
結局この曲がこのアルバムのベスト・トラックだ。

「M.P.B.のワルツ」
オルガン・ソロのための曲。延々と続くオルガンの音色は、柳田が影響を受けたというドアーズのレイ・マンザレク風。ということはつまりヘヴィではなくて、あくまでも軽快でカラフルということ。で、あまり面白くない。曲としても盛り上がらなくて今ひとつ。
ところでこの「M.P.B.」って、やっぱりブラジルのポピュラー音楽のことなのだろうか?あとでサンバも出てくるし。

「レバー・ジュース自動販売機」
いくつものパートがたたみかけるように目まぐるしく入れ替わる構成の曲。もうちょうと曲としての展開が欲しかったところ。

「目覚し時計」
これも「冒頭の「ザット・ウィル・ドゥ」同様、うねるリズム隊の上で、オルガンとギターのソロが続くジャム・バンド的展開だ。勢いのあるオルガンのソロが素晴らしい。

「穴のあいたソーセージ」
このアルバムの中でも最長の15分間にわたって繰り広げられるる無調のアブストラクト空間。ゲストに木村道弘のバス・クラリネットが入ってほとんどフリー・ジャズ的な感触だ。
緊張感が途切れることのない密度の濃い演奏。やはりこの人たちはタダモノではない。
ちなみにこのアルバムの印象的なゾウのジャケットは、このバス・クラの木村がデザインしたものとのこと。

「禿山」、「カバとブタの戦い」、「片想い」、「バッハに捧ぐ」
この4曲はどれも1分に満たない短いもの。上記の5曲の間のつなぎのような役割を果たしている。
だが、これがどれも気が利いている。とくに「カバとブタ…」で、サンバを持ってくるところなどセンスのよさに脱帽だ。


□ フード・ブレイン『新宿マッド』

これは『晩餐』録音の数ヶ月前に録音されたものだ。若松孝二監督の映画『新宿マッド』の音楽のためのセッションである。
この映画の封切りは1970年の4月。フード・ブレインの初ステージは70年の5月だから、CDの湯浅学氏のライナーにもあるとおり、この録音の時点ではまだフード・ブレインは結成されていなかった。
映画のオープニング(ユー・チューブで見ることが出来る)のスタッフ・ロールでも、音楽の担当には四人の個々の名前が並んでクレジットされていて、「フード・ブレイン」の名はどこにもない。
しかし、このセッションに参加した4人の内、ベースの石川恵を除いた残り、すなわちギターの陳、ピアノの柳田、ドラムスの角田の3人がのちにフード・ブレインとなったので、このアルバムもフード・ブレイン名義となったものらしい。
なおフード・ブレインのベースには、このセッションの石川恵の代わりに陳の旧知の加部正義が起用されるわけだが、石川の方はその後、柳田ヒロのソロ・ワークに参加している。

このアルバムの内容は全11曲、曲名はなく、代わりに「M-1」から「M-10」まで、頭に「M―」をつけた数字が付されている(「M-7」の後に「M-7-2」があるので全11曲)。
内容は、パーマネントなバンドではない一時的なセッションにしては、きわめてバラエティに富んだものになっている。たぶん映画で使用されることを目的としていたためなのだろう。また、CD化に当たって曲順等もよく考えられており、1枚のアルバムとしてなかなかよくできた構成になっていると思う。
ただこの『新宿マッド』の方が『晩餐』よりも優れているというレヴューも見かけたが、私はそうは思わない。やはりこちらはアルバムとしてまとめる前提のセッションではないためだろう、『晩餐』ほどの集中力や濃密さは感じられないからだ。

中身についての感想をいくつか述べる。

とにかく冒頭1曲目の「M-6」が素晴らしい。 いきなり4人が一丸となったハイテンションの暴走が始まる。とくに鍵盤を叩きつけて暴れまくる柳田のピアノがすごい。ドラムスとベースは終始つんのめり気味。
ひとりギターの陳信輝だけは冷静にさまざまな技を繰り出している。ときおり聴こえるオリエンタルなスケールのフレーズが印象的だ。こんなところからも、陳は欧米のロックのコピーでは終わらず、自分独自のものを生み出そうとしていたことが窺われるような気がする。
この曲は文句なくこのアルバム中の最高のトラックだ。しかしこのタイプの曲がこtれ一曲しかないのは何とも残念。

そしてブルースのジャムが4曲。
「M-8」はミディアム・テンポのヘヴィなブルース。ピアノレスで、ギターが終始粘っこくてアグレッシヴなフレーズで迫る。
「M-3」はルーズでリラックスしたブルース・ジャム。ギターは本来の意味でブルージーだ。
「M-2」はアップ・テンポのジャム。クラプトンのような流麗なギターが聴ける。いちばんブリティッシュ風味を感じる。
アルバムのラストの「M-10」はスロー・ブルース。ギターのコード・ストロークにのって歌うピアノがソウルフルな味わいだ。
いずれのブルースのジャムもそれぞれに雰囲気を変えているのはえらい。

その他、残りの曲もみな曲調が違っている。
「M-1」はこの映画のオープニング・テーマとして使われていた曲。軽快でポップなピアノ中心のワルツ。

あとは以下の3曲が印象に残る。
「M-9」は2小節のシンプルなベースのリフにのって延々と10分以上も続くジャム。ピアノはさっぱり盛り上がらないが、その後でいつ果てるともなく続くフランク・ザッパ風のギター・ソロが気持ちいい。また最後のドラムのソロも、コンパクトながらセンスが光っている。
「M-4」は『晩餐』の「穴のあいたソーセージ」につながるフリー・フォームの集団即興。「穴のあいた…」同様、緊張感と密度の濃い演奏が素晴らしい。
「M-7-2」はティンパニのようなドラムと、ベースのドローン的な通奏低音の上で、ピアノが格調高くアドリヴのフレーズを紡いでゆく。まるでキース・ジャレットのようだ。アルバムの中でもかなり異色。

2013年3月8日金曜日

炊飯器でピラフ、チャーハン、炊き込みご飯

最近は炊飯器でいろいろなアレンジご飯を作って楽しんでいる。ピラフやチャーハンや炊き込みご飯などなど。お米と調味料と具材をセットしてスイッチを押せば、美味しいものが出来上がるのが何とも楽しい。

ネット上でも無数のレシピが公開されている。それらを参考に作っているうちにだんだん大まかな要領がわかってきた。わかってみると大さじや小さじで何杯とか何が何グラムなど、細かい分量にあまりこだわらなくてもできるようになった。

炊く前に具材を下茹でしたり、フライパンで炒めたりといったレシピもよく見かけるが、これはけっこう面倒だ。そこで包丁で切った具材をそのまま炊飯器に入れてみたら、それなりにけっこううまくできることもわかった。

というわけで自分なりのレシピの基本を整理してみたのが下の表だ。この基本を押さえておけば、いろいろ応用が利くので便利。
レシピの基本は調味液に次の五つの要素を加えること。①塩味、②旨み、③酒、④香味野菜、⑤油分。このそれぞれを、ピラフかチャーハンか炊き込みご飯にするかによって変える。分量はあまり厳密でなくてもよい。何回かやってみれば大体わかってくる。そこがまた楽しい。

<炊飯器ご飯のレシピ>



ピラフ
チャーハン
炊込みご飯
炊く前に
①塩味
塩
しょう油
しょう油または塩
②旨み
コンソメ(粉末)

ガラスープの素(顆粒)
だしの素(粉末)
③酒
酒(またはワイン)
酒
酒とみりん
④香味野菜
ドライ・ガーリック
しょうが(みじん切り)
しょうが(みじん切り)
⑤油分
ベーコン
ベーコン(またはチャーシュー)
油揚げ
お好みの具材(混ぜないで米の上に乗せる)
タマネギ
グリーン・ピース
きのこ
〔豪華版にする時は〕
冷凍のエビ
冷凍のシーフード・ミックス
にんじん
きのこ
〔豪華版にする時は〕
魚の缶詰(さば、さんま、ツナなど)
炊き上がったら
バターを入れて混ぜる
炊き上がったら溶き玉子、ゴマ油、刻みネギを入れる。
そのまま混ぜないで5分蒸らし、その後よく混ぜる。

食べるときに
コショウ、粉チーズ、バジルなどを振る

ゴマ、海苔などを振る


ポイント 1 調味料と具材の内、しょう油やみりんなど液体分をすべて加えた上で炊飯器の水加減をする。

ポイント 2 水加減したお米の上に好みの具材を乗せて、そのまま混ぜないで炊く。

ポイント 3 塩加減は大ざっぱでよい。米1合につき、塩なら小さじ0.5、しょう油なら小さじ1くらいか。旨み分(コンソメやだしなど)にも塩分が含まれているのでその分も考慮する。そして炊き上がったとき味をみて足りなければ足せばよい。

ピラフはタマネギやニンニクやベーコンを炒め、さらにお米も一緒にいためてから炊飯器で炊くのが本格的らしい。だが、いためないで最初から炊いてもそれなりのものができる。ただし、にんにくは生で入れると、香りが強すぎるのでドライ・ガーリックを使っている。

チャーハンのコツは、炊き上がったときに溶き玉子とゴマ油と刻みネギをさっと投入して、そのまま5分ほど蒸らすこと。その後によく混ぜると薫り高くパラパラした食感の本格的なチャーハンができる。

炊き込みご飯は、缶詰のさばやさんまをお米の上にごろんと乗せて炊くとなかなか美味しい。その際あらかじめ缶詰の汁分も加えて水加減すること。炊き上がったら、ご飯の上の魚をほぐしながらご飯の全体によく混ぜ合わせる。値段が安い割にとても豪華な御馳走ご飯ができる。
 その他、上の基本をベースにしていろいろな具材で炊き込みご飯にチャレンジしたいと思っている。

2013年3月5日火曜日

「つけ麺 坊主」訪問 「特製麻婆つけめん」 2013

3月になってすぐの日曜日に「つけ麺 坊主」を訪ねた。前回訪問から一週間足らず。私にとってはかなり短い間隔での訪問だ。
といっても月がかわってしまったので、2月だけの期間限定の「極辛麻婆つけめん」と「極辛麻婆らーめん」はもう食べられない。今年の2月は結局、このふたつを各1回ずつしか食べられなかった。残念だ。

などと考えながら店の前に着いたのが午後1時10分。すると、なんと店の外に行列が出来ているではないか。
並んでいるのは5人。高校生くらいの3人組と、ラーメン本とおぼしきものを手にした若い男女の二人連れ。念のため訊いてみると、やはり中に入るのを待っているとのこと。
これまで日曜日のこういう時間に来たことがなかったので、こんなことになっているとはつゆ知らなかった。やはり人気店なのだなあとあらためて感心する。
しかし、私は行列するのが嫌いなのだ。あきらめようかとも思ったが、せっかく来たことだし他所で時間をつぶしてからまた来ることにする。まあ行列が長くなっている可能性もあるわけだけど。

そして45分後の1時55分に再び店の前へ。行列はなし。今度はすんなり入れた。
先客は8人。この内5人は、さっき外で並んでいた人たちだった。二人連れは食べている最中で、3人組はまだ頼んだものを待っているところ。この人たちとだいたい一緒には入れたわけだから、時間つぶし作戦は大正解だったようだ。
ちなみに、後客は3人で、そこで、お昼の部の営業は終了となった。

券売機に向かう。今日は「特製麻婆つけめん」にする。あと「ビール」。都合によりいつもは頼む「白めし」は、今回はなし。
奥のいつもの「指定席」はふさがっていたので、カウンターのL字の角に座る。御主人はかなり忙しそう。カウンターの上も先客の食べた後が片付いていない。しばらくして御主人が食券を取りに来たので、「麺は大盛で」とお願いする。

なぜ今日は私にしては珍しく「特製麻婆つけめん」にしたかというと、前回の「極辛麻婆つけめん」が美味しかったからだ。
期間限定の「極辛麻婆つけめん」は、レギュラー・メニューの最高峰「特製麻婆つけめん」をさらにグレード・アップしたもの。「極辛…」が食べられないとなれば、せめてその下の「特製…」でその余韻を味わいたいと思ったわけだ。

いつもより多少時間がかかって待つこと約15分で「特製麻婆つけめん」登場。つづいてつやつやの中太麺の大盛も。
つけ汁の外観は前回の「極辛麻婆つけめん」とほぼ同じだ。赤いつけ汁の水面のまん中に赤い粉末(魚粉+唐辛子?)の山がこんもり盛り上がっている。その傍らに海苔が一片。
「特製麻婆つけめん」は、味噌ベースの激辛つけ汁に具材がもやしと豚バラ。そこにトッピングが麻婆豆腐、刻みネギ、赤い粉末、そして海苔といった陣容だ。
ちなみに「極辛麻婆つけめん」は、これに加えて具材にメンマとニラとユズが加わる。そしてもちろんつけ汁は「特製…」の何倍も辛い。

さて辛くないのはわかっていたから、いきなりカウンター上のツボから唐辛子を一すくい投入しようかとも考えた。が、何とか思いとどまる。まあこれはこれとして味わおうじゃないか。
中央の赤い粉末の山を崩してつけ汁にそっと沈める。
そこへ箸で麺を四、五本すくってどっぷりと浸す。いつもは汁が冷めるのでこんな食べ方はしない。さっとつけて、さっと引き上げる。しかし今回はご飯がないので、麺に汁をたっぷりからめて、麺とともに汁の味を堪能することにする。できれば最後は麺と同時につけ汁がなくなるような加減で。

そして麺を口に運ぶ。麺の歯応えと、汁の旨さが口の中で溶けあう。前回の「極辛…」のときも感じたのだが、つけ汁は味噌の風味がけっこう効いている。以前からこんな感じだったっけ。

しばらく麺をすくい、つけ汁にしっかり浸しては食べ続ける。
これが一段落したところで、麻婆豆腐に取り掛かる。直方体の豆腐が一切れしかないのが寂しい。しかしかといって「麻婆大盛」(プラス100円)にすると、麺を浸すのにちょっと邪魔な感じになるのは経験済みだ。
結局ここのつけ汁における麻婆は、豆腐よりもむしろあんの方で、つけ汁に変化をつけるためのもの、と考えた方がいいのかもしれない。

辛さは食べ続けていると口の中が多少ひりひりする程度でたいしたことはない。
店内に貼ってある「辛さランキング」では、一応この「特製麻婆つけめん」が辛さ第1位ということになっている。しかし私としては熱々で食べるぶん「特製麻婆らーめん」の方が辛さは上だと思う。そして、「極辛」はさらにその何倍も辛いわけだが。

いつもなら辛さが行く手に立ちはだかる瞬間があるのだが、今回はそんなこともなかった。鼻水はいつものように出たけれども、汗まではかかない。
するすると食べているうちに麺を完食。つけ汁は麺と同時にはなくならなかったが、少しだけ残っている程度。
カウターのポットのスープで、残ったつけ汁を多めに割ってゆっくり味わった。

今日も「坊主」さんは美味しかった。だが、もうちょっと辛くないと、食べている最中の「無我の境地」はやって来ないらしい。
それはまた次回ということで。ご馳走様でした。