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2014年3月21日金曜日

ローリング・ストーンズ 『ラヴ・ユー・ライヴ(LOVE YOU LIVE)』


■ストーンズの来日

先日、ローリング・ストーンズの来日公演があった(2014年、2月末から3月の初め)。私もいっぱしのストーンズ・ファンのつもりではあるが、彼らの来日には全然興味がなかった。
その前の来日のときもそうだったが、今回も彼らの来日の話題が、一般のニュースやバラエティ番組でもさかんに取り上げられていた。ストーンズの存在も、ずいぶん大衆化したものだ。
しかし、どの番組も取り上げるポイントはだいたい同じ。メンバーが高齢なこと(ミックは70歳)と、そのわりに元気だったこと(広いステージの上を走り回っていたとか)のふたつだ。音楽については一言もなし。彼らの音楽そのものが大衆化した、というわけでは全然ないのだ。

私がまったく興味を感じない理由は、今のストーンズが、昔のストーンズとはまったく別物だからだ。21世紀になってからのストーンズのライヴは、サポート・メンバーを大量動員し、セットも巨大化して、バンドの演奏というより一大プロジェクトと化している。私はこれを「ストーンズのユーミン化」と呼んでいる(笑)。音は完璧だが、昔のような「熱さ」やスリルはもう望むべくもない
高いお金を出してそれを見に行くよりは、家で彼らの昔のアルバムを聴いている方がよっぽど楽しい。


■祝初紙ジャケ化

話は変わって、私にとって昨年の大きな収穫のひとつが、ストーンズの『ラヴ・ユー・ライヴ』の紙ジャケ盤だった。年末にひっそりと(?)発売されたので、もう少しで見逃すところだった。
このアルバムは、たぶんこれが初めての紙ジャケ化なのではないだろうか。ストーンズ・レーベルの主要なアルバムは、何回も繰り返し紙ジャケ化されているのに、どういうわけかこのアルバムだけは、そこからもれていたのだった。
だから今回の発売は、私にとっては「やっと」という感じ。すでにこのアルバムは手元に2枚あるのだけれど、また買ってしまった。
そこで今回は、あらためてこのアルバムについて、感想や、聴いていて気がついたことなどを書いてみることにする。


■私にとっての『ラヴ・ユー・ライヴ』

ネットでこのアルバムについてのレヴューを見ていたら、このアルバムがストーンズの最高傑作と書いている人がいた。人の感じ方はそれぞれだから、どう思おうと勝手だけれど、いくら何でもこれは言い過ぎでしょう。他にもっと良いアルバムはある。
しかし、このアルバムが、ストーンズのライヴ・アルバムの中での最高傑作というのならわかる。たしかにずっと長い間この言い方は正しかったと思う。

だが近年になってちょっと微妙なことになっている。というのも、配信のみではあるがオフィシャル・ブートレグ・シリーズが出たし、また72年ツアーの映像で、長いことお蔵入りしていた『レディース&ジェントルメン』も、正式に発売されたからだ。
つまり多くの人がストーンズのピークと考えているミック・テイラー在籍時の723年のライヴ音源が、陽の目を見つつあるのだ。残念ながらプレスCD化されていないけれど。もし、これらがCD化されれば、『ラヴ・ユー・ライヴ』は、ライヴの最高作の座から降りなければならなくなるだろう。

だがそういう近年の事情は別にしても、ライヴの最高傑作と言われるわりに、『ラヴ・ユー・ライヴ』がずっと冷遇されてきたのはたしかだ。リマスターも他のアルバムより遅かったし、紙ジャケ化もされないままだった。結局、世間的には、大して評価されていないということなのだろう。

私は『スティッキー・フィンガーズ』(71年)と『イグザイル・オン・メイン・ストリート』(72年)ですっかりストーンズにノック・アウトされたクチだ。ところが、その後がいけなかった。続く『山羊の頭のスープ』(73年)と『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』(74年)という凡作の2連発で、心底がっかり。以後のストーンズには、興味がなくなってしまった。
そんな私を、再び呼び戻してくれたのが、この『ラヴ・ユー・ライヴ』(77年)だったのだ。そのきっかけとなったのが、愛読していた『ニュー・ミュージック・マガジン』誌に掲載された中村とうようの紹介記事だ。タイトルは忘れもしない「ローリング・ストーンズは前人未到の境地を行く」(!)。『ラヴ・ユー・ライヴ』の紹介記事で、彼らの音楽が「味わい深い」境地に達したとして、このアルバムを絶賛していた。
中村とうようの文章は、ときどき大げさ過ぎるところがある。「ほんとかいな」と半信半疑で聴いてみたら、本当によかったのだ。ずいぶん繰り返し聴いたものだ。ついでに、スルーしていた前作の『ブラック・アンド・ブルー』も手に入れたりした。

『ラヴ・ユー・ライヴ』は私の個人的なストーンズ・アルバム・ランキングで、堂々第4位にランクインしている。ちなみに、この上には『ベガーズ・バンケット』と『スティッキー・フィンガーズ』と『イグザイル・オン・メイン・ストリート』が並んでいる。

ストーンズの黄金期は、1968年のシングル「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」とアルバム『ベガーズ・バンケット』から始まる10年間だ。私にとって『ラヴ・ユー・ライヴ』は、この10年間の最後の輝きを伝えるものと言える。と同時に、この10年の間に突き詰めた米南部志向から、また別の方向へ向おうとする彼らの転換の記録でもある。


1970年代中盤のストーンズ

『ラヴ・ユー・ライヴ』に収録されている音源は、1976年のヨーロッパ・ツアーのうち65日から7日にかけて行われたパリ公演のものが中心だ。これに一部、同ツアーの他の場所での公演や、前年の75年のアメリカ・ツアーからの音源、さらに翌77年に、トロントのエル・モカンボ・クラブで追加収録された音源が加えられている。

この時期、ストーンズは、音楽性の上で何度目かの大きな曲がり角にいた。
角を曲がることになった大きな原因は、何といってもミック・テイラーの脱退だ。72年から73年にかけてのツアーで、ストーンズはライヴのピークを極める。それにはミック・テイラーの貢献が大きい。
そのテイラーが、74年の末に突然バンドを脱退してしまう。制作中だったアルバム『ブラック・アンド・ブルー』のセッションは、そのまま後任のギタリストのオーディションも兼ねることになる。メディアが、これを称して「グレート・ギタリスト・ハント」と呼んだのは有名な話だ。
その結果、周知のとおりロン・ウッドが選ばれたわけだ。ロン・ウッドは、75年の北米ツアーから参加、76年の2月にストーンズの正式メンバーになっている。

ロン・ウッドの参加は、私にとって半分は「納得」で、半分は「意外」という感じだった。というのは、彼がキース・リチャードに似たタイプのギタリストだったからだ。
それまでウッドのいたフェイシズは、ほとんど小ストーンズといってもよいバンドだった。ウッドのギター・スタイルは、キース・リチャードのそれと同じように聴こえた。だから、彼がストーンズに入ったと聴いて、なるほど順当だなと思ったのだ。
しかし、そうなるとストーンズには同じタイプのギタリストが二人並ぶことになる。いわば「ふたりキース・リチャード状態」。これでいいんだろうか。その点が意外でもあったのだ。実際、『ラヴ・ユー・ライヴ』の中には、ところどころで今どっちがソロを弾いているのかわからなくなる瞬間がある。

こうして、ギタリストが交代し、それまでとはまったく違う新しいライヴ・サウンドを打ち出したのが、『ラヴ・ユー・ライヴ』に収録された、75年と76年のツアーだったわけだ。


■『ラヴ・ユー・ライヴ』の音楽性

756年のツアーの音は、723年ツアーに比べると、具体的には次の3点で大きく変わっている。

① ギタリストの交代  これは上に書いたように、ミック・テイラーからロン・ウッドに代わったことだ。テイラーの華麗で滑らかなスタイルと違って、ウッドのギターは控えめで言葉少な。このため曲の印象はだいぶ違っている。ただし、一部の曲でウッドは、テイラーのフレーズをなぞっているよう部分もある。

② ブラス・セクションがなくなったこと  723年ツアーで、ぶ厚いサウンドを作り出していたブラス・セクションがなくなった。その代わりに、キース・リチャードのサイド・ギターと、ビリー・プレストンのピアノ、そしてオリー・ブラウンのパーカッションの比重が高くなっている。が、当然全体の音の質感は変わっている。

③ 米南部志向からの転換  60年代の末から取り組んできた米南部サウンドから、都会的なソウル・ファンク志向の曲も演奏されている。しかし、それとバランスをとるかのように、『ラヴ・ユー・ライヴ』では、ブルースとロックン・ロールのカヴァーを追加録音して収録したサイドを設けてもいる。

このような違いを前提にしてストーンズが、このツアーで打ち出した新たなサウンドを私なりに一言で表現すれば、それはラフでワイルドな音のゆるくて太い束(たば)ということになる。ミック・テイラー期のツアーもラフでワイルドではあったが、ブラスも加わった厚い音が、しなやかでスリリングなアンサンブルを聴かせていた。
これに対して『ラヴ・ユー・ライヴ』は、いろいろな音が同時に鳴っている、ゆるくて太い音の束なのだ。特定の楽器が単独で前に出ることはあまりない。ロン・ウッドのギターも目立たない。バンド全体として鳴り続け、ゆるやかにうねっているのだ。
そこへサポート・メンバーによる、ピアノとパーカッションが加わったこともあり、リズムが細分化して、ところどころでポリリズミックなニュアンスも感じ取れる。
このアルバムはミックスの段階で、かなり大幅な編集とオーヴァー・ダブをしているという。だからこのようなラフな音作りは、きっちり意図されたものであることは間違いない。

ポリリズムといえば、このアルバムには、広い意味での黒人音楽のビートへの視線が、見え隠れしている。ブルースやロックン・ロールのさらにその下にあって、他の音楽とも通底する黒人音楽のビートだ。
たとえばアルバムのイントロのサンバのリズム、「ホット・スタッフ」や「フィンガープリント・ファイル」といったポリリズミックなファンクへのアプローチ、「クラッキン・アップ」でのスカ・アレンジ、「ユー・ガッタ・ムーヴ」や「マニッシュ・ボーイ」でのディープなブルース・カヴァー、そしてラストの「悪魔を憐れむ歌」におけるサンバというよりもアフロなビート。
アルバムのラストのアフロ・ビートは、再び冒頭のサンバのリズムにつながって循環しているようでもある。

ミック・テイラー期の723年のストーンズの演奏は、ブルースやR&Bをベースに生まれたロックのアンサンブルのひとつの頂点だと思う。
『ラヴ・ユー・ライヴ』の音は、またさらにその先を目指していると言えるだろう。黒人音楽の源泉であるアフロ・ビート的なものへのアプローチ。この辺が、『ラヴ・ユー・ライヴ』のキーワードと言えるのかも知れない。


■収録曲とアルバムの構成について

76年ツアーの実際のセット・リストはどうだったのか。これについてはレコード・コレクターズ増刊『ローリング・ストーンズ』(19902月)に、寺田正典作成のものが載っている。
これによると、最新アルバム『ブラック・アンド・ブルー』からの新曲コーナーや、サポート・メンバー、ビリー・プレストンのソロ曲コーナーなんかもあったようだ。しかしそれらの大半は省かれ、結局このライヴ・アルバムに収録されたのは14曲(一部前年の75年ツアーの音源も含む)。
このセット・リストの特徴は、初期の「ひとりぼっちの世界」の一曲を除いてあとはすべて68年の『ベガーズ・バンケット』以降の曲で占められていたことだ。つまり南部志向サウンド。だから収録曲目的には、723年ツアーと大差ないことになっている。

特筆されるのは、このアルバムに追加収録するために行われたと言われているトロントのスモール・クラブ、エル・モカンボでの音源だ。オリジナル曲ではなくて、ブルースとロックン・ロールのカヴァーを4曲、LPの1面を使って収録している。このサイドは、「エル・モカンボ・サイド」と一般に呼ばれている。
なぜツアー音源だけでなく、新たにこれらの曲を録音して追加収録したのか。想像はいろいろ膨らむのだが、これについては後ほど述べる。

さて『ラヴ・ユー・ライヴ』は、LP2枚組で発売された。つまり2枚のレコードの計四つのサイドからなっていたわけだが、これがじつにうまく構成されている。みごとに起承転結が整っているのだ。現在は、CD2枚になっているが、昔のサイドごとに特徴をコメントしてみる。

【ディスクⅠ】
<
サイド1>
1 庶民のファンファーレ (Intro: Excerpt From 'Fanfare for the Common Man
2 ホンキー・トンク・ウィメン (Honky Tonk Women
3 イフ・ユー・キャント・ロック・ミー/ひとりぼっちの世界 If You Can't Rock Me/Get Off of My Cloud
4 ハッピー Happy
5 ホット・スタッフ Hot Stuff

アルバム冒頭、スティール・バンド・アソシエイション・オブ・アメリカによるサンバの喧騒がいきなり聴こえてくる。お祭り騒ぎのように花火が鳴って、大げさなファンファーレの響き。観客の期待が高まる中、MCのコールに導かれて、重々しい「ホンキー・トンク・ウィメン」のイントロが始まる。
じつによくできたオープニングだ。ライヴ・アルバムの秀逸なオープニングとしては、先日記事を書いたばかりのCSN&Yの『4ウェイ・ストリート』と並ぶものだ。

それにしても、コンサートの幕開けに「ホンキー・トンク…」のようなスローな曲を持ってくるなんて、何て渋いんだろう。この1曲目から3曲目までは、実際のコンサートのオープニングのどおりだ。ただし、ここでは3はパリではなくて同じツアーのロンドンでの演奏をつないでいる。

実際のコンサートでは、このオープニング3曲の後、この時点での最新アルバム『ブラック・アンド・ブルー』からの曲の紹介コーナーとなる。テンプテーションズのカヴァー「エイント・tゥー・プラウド・トゥ・ペッグ」(これは『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』収録)を間にはさんで、『ブラック・アンド・ブルー』から計4曲が演奏されている。
その内『ラヴ・ユー・ライヴ』に収録されたのが唯一「ホット・スタッフ」だけだったわけだ。ストーンズの新しい音楽の傾向を示す意図があったのだろう。

<サイド2>
6 スター・スター Star Star
7 ダイスをころがせ Tumbling Dice
8 フィンガープリント・ファイル Fingerprint File
9 ユー・ガッタ・ムーヴ You Gotta Move)
10 無情の世界 You Can't Always Get What You Want

このサイドには、『ブラック・アンド・ブルー』の曲紹介コーナーが終わって、コンサートの中盤で演奏された曲目が並んでいる。多少順番は前後しているものもある。
このサイド2は、いろいろな黒人音楽のヴァリエーション豊かな見本市というような趣向になっている。口直し的に始まる「スター・スター」は、軽快なチャック・ベリー・スタイルのロックン・ロール。「ダイスをころがせ」は、ゆったりした南部サウンド。「フィンガープリント・ファイル」はソウルっぽいファンク。「ユー・ガッタ・ムーヴ」はゴスペル風のブルース。そして「無情の世界」は、オリジナルは賛美歌っぽいコーラスの入った壮大なロックだった。

「フィンガープリント・ファイル」は76年ツアーではセット・リストからはずされた曲なので、わざわざ前年の75年ツアーのトロント公演の音源を持ってきている。これを見ても本当に「黒人音楽見本市」にしたかったのではないか。

【ディスクⅡ】
<
サイド3>
1 マニッシュ・ボーイ Mannish Boy
2 クラッキン・アップ Crackin' Up
3 リトル・レッド・ルースター (Little Red Rooster
4 アラウンド・アンド・アラウンド Around and Around

これが「エル・モカンボ・サイド」だ。このアルバムの起承転結の「転」に当たっている。このサイドの前後に、米南部サウンドを志向することで生み出されたたオリジナル曲が並ぶ中で、彼らのルーツ・ミュージックを紹介するコーナーになっている。
レヴューを見ていると、このサイドの評判がえらく高い。このアルバムの中で一番良いなどとまで言う人もいる。たしかにこれらのカヴァー曲によって、このアルバムの評価がおおいに高まったのは事実だろう。しかし、これらの曲を他のオリジナル曲よりも過大に評価するのは本末転倒のような気がする。
これは、ようするに余興というかお遊びであり、アルバムの中での箸休めのようなものだ。だから。もっと、気軽に接するべきだと思う。
それにしても、なぜわざわざ追加録音までして、このようなサイドを設けたのかはちょっとナゾだ。これについては以下で。

<サイド4>
5 イッツ・オンリー・ロックンロール It's Only Rock'n Roll
6 ブラウン・シュガー Brown Sugar
7 ジャンピング・ジャック・フラッシュ Jumpin' Jack Flash
8 悪魔を憐れむ歌 Sympathy for the Devil

サイド2に収録された中盤の曲のあと、ビリー・プレストン・コーナー2曲と「ミッドナイト・ランブラー」が間にはいる。そして、コンサートはいよいよエンディングへ向けての怒涛のシークエンスに突入していく。
このサイド4では、実際のコンサートのエンディング部分をほぼ再現している。ただし録音場所はまちまちで、5は前年の75年ツアーのトロント公演、8も前年のツアーのロス公演の録音を持ってきている。
また実際には、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の後に「ストリート・ファイティング・マン」が演奏された。この2曲でエンディングというのは、73年ツアーのセット・リストと同じだ。が、ここでは省略されたわけだ。

ここでコンサート本編は終了し、アルバム最後の「悪魔を憐れむ歌」はアンコールだった。
アルバム冒頭に登場したスティール・バンド・アソシエイション・オブ・アメリカのメンバーが演奏に参加(乱入?)。アフロなビートは、再びアルバムの頭にループしていくようだ。うまくできてるな。


■エル・モカンボ・サイドについて

エル・モカンボ・サイドの4曲は、76年ツアーの翌年77年の3月に、トロントのスモール・クラブ、エル・モカンボ・クラブで録音されたものだ。キャパ500人のこのクラブでのギグは、『ラヴ・ユー・ライヴ』への追加収録を前提に行われたらしい。
と聞けば当然このギグは、76年ツアーでセット・リストに入っていなかった、ブルースやロックン・ロールのカヴァー大会だったのではと想像してしまう。たぶん誰もがそう思ったのではないだろうか。で、エル・モカンボ・サイドのような演奏をもっともっと聴きたいと思って、このときのブートレグを手に入れたのだった。

ところが聴いてみたら全然カヴァー大会なんかではなかった。カヴァー曲はむしろ少なめで、あとはツアーの曲をやっていたのである。
エル・モカンボ・クラブでの演奏は、34日と5日の2日間行われている。『ラヴ・ユー・ライヴ』収録のテイクが録られたのは35日の方だ。
ネットで調べてみると、5日に演奏されたのは全部で23曲。このうちブルースやロックン・ロールのカヴァーは6曲しかない。モカンボ・サイド収録の4曲の他には、チャック・ベリーの「ルート66」と、ビッグ・メイシオの「ウォリード・ライフ・ブルース(Worried Life Blues)」だ。「ウォリード・ライフ・ブルース」は、クラプトンがカヴァーして比較的有名になった曲で、この間出た『アンプラグド』デラックスエディションにも収録されていた。

カヴァー以外でちょっと珍しいところでは、初期のオリジナル・ヒット「Let's Spend The Night Together」とか、『ブラック・アンド・ブルー』のアウト・テイクで、後に「刺青の男」に収録された「Worried About You」なんかもやっている。

結局この演奏は、これらのカヴァー6曲から出来のよいのを選んでアルバムに収録しよう、というつもりだったのだろう。まああとの曲はおまけというわけだ。

それにしてもなぜ追加録音までして、これらの曲をアルバムに入れたかったのだろう。もしかして数あるストーンズ本のどこかに、その答がすでに書いてあるのかもしれない。が、私は知らないので、とりあえず自分なりに想像してみる。

どうして追加録音までして…、と思うかというと、76年ツアーの音源をわざわざオミットしているからだ。上にも書いたように『ブラック・アンド・ブルー』の曲のほか、「ミッドナイト・ランブラー」と「ストリート・ファイティング・マン」もカットしている。
しかし、もしかするとこれらの曲をカットしたために、曲数が足りなくなったということも考えられるかもしれない。『ブラック・アンド・ブルー』の曲は、あきらかにアルバムが出たばかりだからカットしたのだろう。
「ミッドナイト・ランブラー」と「ストリート・ファイティング・マン」は、もしかして以前のライヴ・アルバム『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト』(70年)とかぶるので、はずしたのではないだろうか。
そうしたら、曲数が足りなくなったとか…。

もうひとつの可能性は、アルバムの内容に変化をつけるためであり、またバランスをとるためである。
76年ツアーで演奏されアルバムに選ばれているのは、1曲を除いて68年の『ベガーズ・バンケット』以降の曲ばかりだ。南部サウンドを志向したオリジナル曲が中心で、さらに「ホット・スタッフ」や「フィンガープリント・ファイル」のようなファンク系の新しい試みが付け加えられている。
そこで、このバンドの原点であり、初期にさかんにやっていたブルースやR&Bのカヴァー曲を入れて、アルバムに変化をつけ、バランスをとろうとしたのではないだろうか。変化という点では、先にも触れたがアルバムの全体の構成の中で、起承転結の「転」の役割を見事に果たしていると思う。

それともうひとつ、大規模なコンサート会場における観客の反応だけではなく、もっと小さな会場における観客との間の親密な空気感や雰囲気を、アルバムに盛り込みたい気持もあったのではないか。しだいに大規模化する自分たちのコンサートに対して、彼らは何らかの不満を感じていたのかもしれない。でなければエル・モカンボ・クラブのような小さな場所を選ばなかったとも思うのだが。


■各曲についてのコメント

Disc 1

1 庶民のファンファーレ (Intro: Excerpt From 'Fanfare for the Common Man

サンバの喧騒から、花火とファンファーレ。そしてMCのコールに導かれて「ホンキー・トンク・ウィメン」のイントロへ。じつによくできたアルバムの幕開けだ。

2 ホンキー・トンク・ウィメン (Honky Tonk Women

重く沈むイントロのギター・リフ。73年のヨーロッパ・ツアーでもやっていたが、そのときよりもテンポを落とし、じっくりと地を這うような重心の低い演奏だ。73年ツアーのブラスも入ったニギニギしい演奏に比べると、ぐっと渋い。オープニング曲がこんなに渋いというのも逆にすごい。
最初にこれを聴いたとき、注目のロン・ウッドが全然目立たないのにちょっと驚いた。

3 イフ・ユー・キャント・ロック・ミー/ひとりぼっちの世界 If You Can't Rock Me/Get Off of My Cloud

オリジナルよりテンポ・アップしてスタート。間奏ではパーカッションが大活躍して存在をアピール。これまでのライヴとはだいぶ様子が違うことを知る。

4 ハッピー Happy

いきなりハイテンションのヴォーカル。いつになく涸れ気味の声を張り上げているようなキース・リチャードのヴォーカルだ。何でもこの公演の直前に、身内に不幸があったとか。…と聞くと何だか壮絶な歌いぶりとも聴こえてくる。
ブラス・セクションもなし、ピアノもなし。ロン・ウッドがスライドで奮闘しているが、かつてのミック・テイラーと違って空間を埋めていくようなフレージングではない。その結果、ワイルドさがむき出しになっている感じ。で、そこがよい。

5 ホット・スタッフ Hot Stuff

むきだしのワイルドの後は洗練。

6 スター・スター Star Star

『山羊の頭のスープ』のオリジナルは、チャック・ベリー・スタイルのリズム・カッティングと、ギター・ソロが聴ける軽快なロックン・ロールだった。73年ツアーでは、ブラスが大々的にフィーチャーされてぶ厚くコッテリした音になっていた。
今回は楽器は減ってシンプルなわけなのだが、ギターの比重が大きくなって、かなりラフな演奏だ。これはこのアルバムの全体に言える特徴でもある。 

7 ダイスをころがせ Tumbling Dice

ゆったりしたテンポの南部サウンド。以前のライヴでは、華麗なブラスとミック・テイラーの濃密なフレージングのギターで厚みのあるサウンドを作っていた。
今回はそれがないわけだが、代わりにオルガンとパーカッションとダブルのリズム・ギターで、やっぱりぶ厚い音を作り出している。
ロン・ウッドも、彼らしいちょっとネバっこいソロを弾いていて、曲調にぴったりマッチしている感じ。

8 フィンガープリント・ファイル Fingerprint File

オリジナルは『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』収録。ソウル・ファンクっぽい曲で、ストーンズが米南部志向から方向転換していくのを象徴する曲だった。なので、私はあまり好きな曲ではなかった。…のだが、しかし、ここではまたちょっと違ったニュアンスを感じさせる演奏になっている。パーカッションも入ってポリリズミックな混沌を感じさせるのだ。
オリジナルでは当時のギタリストのミック・テイラーがベースに持ち替えてかなり前面に出ていた。ここでは、やっぱりギタリストのロン・ウッドがベースを弾いている。フレーズはテイラーをなぞっているのだが、やはり個性の違いが出ていて面白い。

9 ユー・ガッタ・ムーヴ You Gotta Move)

もとのフレッドマクダウェルのヴァージョンよりも、『スティッキー・フィンガーズ』収録のスタジオ・ヴァージョンよりも、さらに重くて粘り気のある演奏だ。本来は米南部のトラディッショナルなスピリチュアル・ソングらしいとのことだが、その本質により近づいた演奏と言えるのかもしれない。ストーンズ、えらいっ。
2コーラス終わっていったん拍手が入る。しかし曲はここで終わらずに、ギターとピアノの絡む渋い間奏の後、ミックとビリー・プレストンのコール・アンド・レスポンスによるワン・コーラスがさらに続いている。この間奏と3コーラスめは、丸ごと後からスタジオで演奏してくっつけたように聴こえるのだがどうだろう。そのセンスは、お見事。

10 無情の世界 You Can't Always Get What You Want

『レット・イット・ブリード』のスタジオ・ヴァージョンは、ロンドン・バッハ合唱団のコーラスが入る何とも大仰なアレンジ。この大仰さによる後味の悪さのために、私はこのアルバムがあまり好きになれなかった気がする。
しかしライヴでのこの曲は淡々としていて悪くない。「ユー・ガッタ・ムーヴ」と続いて聴くと、ホワイト・スピリチュアルな趣きさえ感じてしまう。そういえば実際のセット・リストでもこの2曲は連続していた。

ゆったりとした流れに乗って、ソロが展開されていく。73年ツアーのときは、ミック・テイラーが、空間を埋めるようなフレージングを見せ、またサックスのメロウな長いソロも続いていた。ここではギターに代わって、ピアノとパーカッションが空間を埋めている。

今回はロン・ウッドが、じっくりとかなり長いギター・ソロを展開している。しかし、テイラーのギターと違って、ロン・ウッドのソロは、言葉少な。とつとつとしていてキース・リチャードと同じタイプだ。ときどき、どちらが弾いているのかわからなくなるときがある。

Disc 2

1 マニッシュ・ボーイ Mannish Boy

マディ・ウォーターズのカヴァー。じつに粘っこいミックのヴォーカルと、粘りつく演奏。ナットウみたいだ
ミックのハーモニカも渋い。

2 クラッキン・アップ Crackin' Up

ボー・ディドリーのカヴァー。ボー・ディドリーの原曲を聴いてみたら、もうかなりカリブ海っぽかったのが、ここでのストーンズは、さらにその元にさかのぼって、スカ風アレンジでやっている。
こういうアイデアってどこから来るのだろう。素晴らしい。

3 リトル・レッド・ルースター (Little Red Rooster

ハウリン・ウルフのカヴァー。ダブルのスライド・ギターが渋い

4 アラウンド・アンド・アラウンド Around and Around

チャック・ベリーのカヴァー。

5 イッツ・オンリー・ロックンロール It's Only Rock'n Roll

ここからエンディングに向っての怒涛のラスト・シークエンス。
『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』収録のオリジナルは、かなり地味に始まるが、ここでのイントロはチャック・ベリー風で、いきなり最初からテンションが高い。
オリジナルのスタジオ・ヴァージョンのベイシック・トラックは、1973年の12月に、ソロ・アルバム製作中だったロン・ウッドの家の地下室で録られたとのこと。もともとロンと因縁の深い曲だったわけだ。

6 ブラウン・シュガー Brown Sugar

アルバム『スティッキー・フィンガーズ』や723年ツアーでは、鮮やかにオープニングを飾っていたのがこの曲だった。
ちなみに68年の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」から始まったストーンズの米南部志向。「ブラウン・シュガー」は、それが、ついに頂点を極めたという高らかなアンセムのように、私には聴こえる。考え過ぎか。

ここではエンディングに向けてのスパートの2曲目に置かれている。勢いに乗ってのオープニング。リズムも、オリジナルや73年ツアーのときよりアップ・テンポで飛ばしている。終始ピアノが跳ね回り 後半はヒート・アップしてリズムがつんのめりながら暴走。
ロン・ウッドがミック・テイラーの影をなぞるようにしてスライドでがんばっている。伸びがないのだが、その心意気に拍手。

7 ジャンピン・ジャック・フラッシュ Jumpin' Jack Flash

キース・リチャードは、73年のツアーではリフを崩して弾いていたが、ここでは終始シンプルなリフに徹している。そして、鋼(はがね)のようなチャーリー・ワッツのドラミング。これに、オリー・ブラウンのパーカッソンが加わって、それまでのどのライヴより、リズムが強力な「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」になっている。

8 悪魔を憐れむ歌 Sympathy for the Devil

スティール・バンド・アソシエイション・オブ・アメリカのメンバーが参加して、リズムがポリリズム化し、『ベガーズ・バンケット』のオリジナル・ヴァージョンでのアフロ・ビート感を、さらに推し進めた感じだ。まさにカオス。
ロン・ウッドのギターはほとんどキースと同じ感じで「ふたりキース状態」。そこもまたカオス。
このビート感が、ふたたびアルバム冒頭のサンバへと循環していく。


2012年9月9日日曜日

ローリング・ストーンズ『THE BRUSSELS AFFAIR ‘73』

<遅ればせで『THE BRUSSELS…』を聴いた>

今年の夏は暑かった。まだ終わっていないわけだけど。この暑い夏の間ずっと私が聴き続けていたのは、ローリング・ストーンズのライヴだった。
べつにストーンズの活動50周年を記念してとかいうわけではない。また例の「ストーンズ・バー」のベロ・マークが巷に氾濫していたこととも関係ない。

それにしても、私がロック少年だった70年代には、いつかこのベロ・マークが街中にあふれる日が来ようとは想像もつかなかった。
当時できたばかりのストーンズ・レーベルのシンボル・マークとして、この下品極まりない、というか下品さをあえてこれでもかと強調したベロのマークは登場した。それは既成の取りすました価値観を否定し、あざ笑う強烈な毒を放っていたのだ。たが、時は流れ、彼らも歳をとり、そして大衆化のつねで、今はほとんどこの毒は感じられなくなってしまった。

私がこの夏聴いていたのは、もっぱら1972年の北米ツアーと、1973年のヨーロッパ・ツアーの音源だ。
きっかけは昨年の11月に販売された、1973年のライヴ音源『THE BRUSSELS AFFAIR 73』をやっとこの夏の初めに入手したことだった。
ストーンズ・ファンなら当然とっくの昔に手に入れて聴いていたことだろう。私もできればすぐ聴きたかったのだが、何しろこのシロモノ、CDではなくてネット上でのダウンロードのみの発売。旧式人類の私にはハードルが高かったのだ。
それにこの73年のベルギーのブリュッセルでのライヴについては、この時の音源を中心にしたブートレグ『Nasty Music』も一応手元にあった。ダウンロード版はオフィシャル音源だから、ブートより音質は良いのだろうけど、まあいいかっ、と思っていたのだ。

しかし、それがどうしても聴きたくなった。『レコード・コレクターズ誌』2012年8月号(特集はストーンズ・ベスト・ソングズ100)の藤井貴之氏によるオフィシャル・ブートレグ・シリーズの解説を読んだからだ。
私は今回出たダウンロード版『THE BRUSSELS AFFAIR 73』を、ブートレグ『Nasty Music』と同一音源のリマスター版程度に考えていたのだ。
ところが上記の記事を読むと、今回のダウンロード版はブリュッセルでの昼夜2公演から新たに編集した内容とのこと。つまり中身はだいぶ違うのに、タイトルだけ有名ブートのタイトルを流用しているわけだ。これを知って、がぜん私はこの中身を聴きたくなったというわけだ。
そこで知人に頼んでダウンロードしてもらい、何とか聴くことができるようになった。

ところでローリング・ストーンズのライヴの絶頂期は1972年から1973年にかけてだ。つまりミック・テイラー在籍時。これには誰も異論はないだろう。個人的には、このうち1972年の北米ツアーの演奏が最高だと思っている。
今年はこの絶頂期である1972年から40周年。活動50周年より、こちらのくぎりの方が私にとっては感慨深い。

というわけなので今回入手した73年のライヴを聴いていても、どうしても72年の演奏と比較してしまう。だから『THE BRUSSELS AFFAIR 73』を聴いていると、やっぱり72年のライヴ音源も聴きたくなるのだ。結果的に言うと、72年の演奏が最高という私の考えはますます強くなった。
というわけで今回は『THE BRUSSELS AFFAIR 73』を聴いて思ったあれこれを記してみることにする。

<73年ヨーロッパ・ツアーのセット・リスト>

さて『THE BRUSSELS AFFAIR 73』は、手に入れてみると同じ日のブリュッセル公演をベースにしているとはいえ、『Nasty Music』とはちょこちょこと曲順が違っている。今までこれで十分満足していたのだが、今回のオフィシャル版は、当日のセット・リストどおりに曲を並べて、この日の公演をコンプリートに再現している。
収録曲は次のとおり。

THE BRUSSELS AFFAIR 73

1 Brown Sugar
2 Gimme Shelter
3 Happy
4 Tumbling Dice
5 Star Star
6 Dancing With Mr.D.
7 Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)
8 Angie
9 You Can't Always Get What You Want
10 Midnight Rambler
11 Honky Tonk Women
12 All Down The Line
13 Rip This Joint
14 Jumping Jack Flash
15 Street Fighting Man

まずこの選曲面で私的にはちょっと難がある。べつにこの音源のせいではなくて、このツアーのセット・リストそのものの問題なのだが。
当時は彼らのアルバム『山羊の頭のスープ』(駄作)が発売されたばかりだった。コンサートの5曲目からは、この新作アルバムからの曲紹介コーナーとなる。
Star Star」、「Dancing With Mr.D」、「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」そして「Angie」と4曲続く。「Doo Doo…」は、当時のセット・リストにはふつうは入っていないイレギュラーの曲だったらしい。しかし、いずれにせよ、どれもあんまり曲としての魅力に乏しい。
ちなみに先日のレコ・コレ誌のストーンズのベスト・ソングズ100のランキングでみても、これらの曲はどれも人気が低い(あんまり意味ないかもしれないけど)。
Doo Doo…」が51位、「Star Star」が58位、「Angie」が62位、そして「Dancing With…」にいたっては、100位以内に姿が見えないといった具合。

前年の1972年の北米ツアーでやっていたのに、この73年のヨーロッパ・ツアーではやらなくなってしまった曲がいくつかある。たぶん上の4曲に押し出されてしまってのことだろうけど。
まず「Bitch」と「Rocks Off」。
コンサートのオープニングの「Brown Sugar」からこの2曲「Bitch」、「Rocks Off」と続き、さらに「Gimme Shelter」へとつながる72年ツアーの流れはとてもよかった。今回の73年ツアーでは「Brown Sugar」からいきなり「Gimme Shelter」となる。ちょっと強引。
でも本当に「Rocks Off」はかわいそうな曲だ。
72年北米ツアーのオフィシャル音源となったDVD『レディース・アンド・ジェントルメン』。このツアーのスタンダードなセット・リストが聴けるのだが、イレギュラーに入っているのが「デッド・フラワーズ」で、その代わりに「Rocks Off」がカットされてしまっている。つまりこの曲は絶頂期のライヴ音源がオフィシャル化されていないのだ。今や「ストーンズ・バー」のコマーシャルでこんなにガンガンかかっている曲だというのにね。

それから72年ライヴのハイライトのひとつでもあった2曲「Love In Vain」と「Sweet Virginia」が73年にははずされているのも残念。
Tumbling Dice」の後のこの2曲、切ないバラードからほんわかした癒しのアコースティック・セットへ。コンサート中盤手前の最高のオアシス・タイムだったのに。

あと72年にやっていた曲では「Bye Bye Johnny」もやらなくなったけど、これはまあ仕方ない。怒涛のラスト3連発の前のウォーム・アップの役割を果たしていたが、今回その役割のために「All Down The Line」を持ってきたわけで、これはこれで悪くない。

<こなれた演奏が良い音質で聴けるのだが…>

  さて肝心の演奏内容だが、ブリュッセル公演はこの年のツアーの終盤近くということもあって、全体にかなりこなれた演奏だ。
72年の演奏は、これに対して激しくてワイルド。キースのギターのカッテイングはラフで荒々しいし、ミック・テイラーのフレーズもかなりアグレッシヴ。さらに加えて、ニッキー・ホプキンスのピアノが飛び跳ねていた。
冒頭の「Brown Sugar」、「Gimme Shelter」あたりで、この違いははっきり。
続く「Happy」、「Tumbling Dice」も前年からずっとやっている曲なので、かなりこなれてよく言えば熟成した感じだ。
とりわけミック・テイラーのギターが素晴らしい。リフを弾いてもソロのときも、そしてリフの合間の短いフレーズでも、滑らかで伸びやかなトーンで曲に彩を添えている。

そしてここから『ゴート・ヘッド・スープ』コーナーの4曲だが、前にも書いたとおりあまり魅力なし。ただし、「Dancing With Mr.D」でのミック・テイラーのエリック・クラプトンばりのソロは聴きもの。

その後が中盤の山場。「You Can't Always Get What You Want」のライヴ演奏は、合唱団入りでとりすましたオリジナルよりずっと良い曲になっている。途中ギターのソロに加えてサックス・ソロもある分、72年ライヴよりさらに長くなった、
ただ72年ツアーよりメリハリの少ないやや平板な印象だ。72年の演奏はワイルドながら、バンドが一丸となってウネリを作り出していた。
続いて「Midnight Rambler」。これも御承知のとおり長い演奏で、前の曲と合わせて20分以上の長丁場。やっぱりちょっとダレる。

次いで「Honky Tonk Women」。これは72年ツアーでは聴けなかった曲。キースのギター・ソロで懐かしいフレーズが聴ける。
そして「All Down The Line」。ミック・テイラーのスライドが72年よりちょっと大人しめだ。これで、会場をウォーム・アップして、怒涛のラスト3連発へ。

コンサートの締めとして72年ツアーのときのパターンを変えなかったのは大正解だ。「Rip This Joint」、「Jumping Jack Flash」、「Street Fighting Man」とたたみかけ、「Street…」の終盤で暴走状態となって大団円。快感だ。
ただし、72年のときとはちょっと雰囲気は違っている。
つんのめるように始まる「Rip This Joint」。ここはニッキー・ホプキンスの跳ねるピアノとボビー・キーズの粘っこいサックス・ブロウ(72年ツアー)がやっぱり欲しいところ。
続く「Jumping Jack Flash」は72年にはあったミック・テイラーのソロがなくなり代わりにキースのストローク・プレイが聴けるが、ちょっと物足りない。
そしてラストの「Street Fighting Man」。前曲に続いてたたみかけるように始まる。
終盤、テンポ・アップして暴走状態に突入する。呪文のようなフレーズのギターが鳴り、ブラスが咆哮してフリーキー状態に。キング・クリムゾン『アースバウンド』の「21世紀…」を思い出させる迫力だ。
72年ツアーのラストはもっとサウンド全体がタイトで、ピアノとブラスの暴れっぷりが印象に残った。あれはあれでよかったが、こちらもなかなかよい。

というわけだが、全体の印象としては、72年の演奏の方が、ラフでワイルドでありながらバンドが一体となって突っ走っていく爽快感があった。そこが私には最高に魅力的だ。73年の演奏は、もうちょっと落ち着いている。
ミック・テイラーの演奏も73年は安定感があって多彩だが、72年の方がよりスリリングで私には好ましい。それにしても、バランスが良くて伸びやかで、クラプトンの後を継ぐ正統派のロック・ギタリストだったのになあ。

ところで今回のオフィシャル・ブートレグのシリーズは全6公演とのこと。この内4公演がすでに発売済みだ(1973、75,81,90年の音源)。
1972年北米ツアーはライヴ盤発売の一歩手前までいっていながらお蔵入りになったとか。その音源があるわけだ。
リリースを待つ残り2公演の中に、この72年北米ツアー音源が入っていることを切に願っている。
タイトルはやっぱり『Philadelphia Special』かな?

2012年7月17日火曜日

レコ・コレ誌「ストーンズ・ベスト・ソングズ100」(つづき)

暑い日が続いている。全国で熱中症患者が続出だ。
あまり外に出られないものだから、曲単位ランキング特集はつまらないと言いながらも、レコ・コレ誌を手にとっては、曲の説明をぽつぽつ拾い読みしている。説明ではどの曲もみんな「名曲」ということになっているのが、なんともシラケる。だったら何でこの曲ってもっと上位じゃなかったの…、とついひねくれたことを言いたくなる。

ところで『ホット・ロックス』というストーンズのベスト盤がある。デッカ時代の曲(+α)のコンピ・アルバムだ。この内容が今回のランキング的にはかなり便利な選曲だということに気がついた。第7位のt「タンブリン・ダイス」を除くと、第1位から第14位までの曲を、このベスト盤だけで聴くことができる。
とくにディスク2は、収録曲9曲のうち、1曲を除いた残り8曲がすべて13位までの曲という効率の良さ。ちなみにこのランク外の1曲というのは、29位の「ミッドナイト・ランブラー」だ。しかもライヴ・ヴァージョン。私はこの曲、途中がだれるのであまり好きじゃない。第29位は妥当。
よけいなお世話だけど、今回のランキングを見てストーンズを聴いてみようという初心者がもしいたなら(いないか)、そういうわけでこのアルバムはおススメだ。安いしね。私の持っているのは、2枚組ではなく、1枚ずつバラ売りされていたもの。中古屋で2枚ても1000円しないかも。

しかし、このアルバム、デッカから離れて自分たちのレーベルを作ったストーンズたちに対抗して、デッカ時代の悪名高いマネージャー アラン・クラインが勝手に選曲して発売したものだ。ストーンズたちのコントロールの及ばないところで作られ、いわば独立したストーンズたちへのあてつけのように発売された。しかも、当時めちゃくちゃ売れた。
そのアルバムが、50年のキャリアを振り返った今回のベスト・ソングズ上位曲を聴くための最適アルバムだったとは。何とも皮肉な話だ。

さて今号では、読者にストーンズの名曲ベスト10の投票を呼びかけている。投票用のはがきも綴じ込まれている。今回の特集をベースにした臨時増刊『ローリング・ストーンズ名曲ベスト100』にその結果を盛り込むのだとか。
私は今までこの綴じ込みはがきの投票というのには参加したことがない。めんどくさかったからだ。しかし、今回はランキングを予想したりして、これまでそれなりに労力をつぎ込んでいる。そこで、せっかくだからこの投票に参加してみることにした。

そのために、私のベスト10をあらためて選んでみることにした。たしかにベスト・ソングズ10は予想したけれども、それがそのまま私のフェイヴァリットのベスト10というわけではない。あれは世間様が選ぶであろう最大公約数のベスト10を、世間様になり代わって私が選んだだけなのだ。
しかし、私のベスト10が、それとまったく別というわけでもない。かなり重なっていることは事実。というわけで、予想したベスト・ソングズのリストをベースに、私のベスト10を作ってみることにする。私が自分の投票の内容をここで事前に公表してしまっても、べつに大勢に影響はないでしょ。
何回も掲載して申し訳ないが、まず私の予想リストは以下のとおりだった。

<ストーンズ・ベスト・ソングズ 私の事前予想>

第1位 「ブラウン・シュガー」
第2位 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」
第3位 「ホンキー・トンク・ウィメン」
第4位 「ストリート・ファイティング・マン」
第5位 「サティスファクション」
第6位 「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル(悪魔を哀れむ歌)」
第7位 「ギミー・シェルター」
第8位 「タンブリン・ダイス」
第9位 「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」
第10位 「ペイント・イット・ブラック(黒く塗れ)」

第1位の「ブラウン・シュガー」は、私にとっても絶対的に第1位だ。
前にも書いたように今回のランキングの結果で、この曲は第4位だった。しかし、それにしてもランキングに参加したレコ・コレ誌の筆者25人+浦沢直樹の個々のランキングの中で、「ブラウン・シュガー」を1位に推している人が一人もいないのはちょっとびっくり。犬伏功氏と寺田正典元編集長の二人が、かろうじて第2位に選んでいるのが最高位とは。ふに落ちないし残念だ。

まずこのリストの初期の2曲については、10位以内から外しはしないが下位に並んでもらう。第10位の「ペイント・イット・ブラック(黒く塗れ)」はそのままとして、第5位の「サティスファクション」は9位へ移動。
第8位の「タンブリン・ダイス」は、じつは私には今ひとつの曲。もちろんきらいではないが10位までには入らない。代わりに『エグザイル・オン・メイン・ストリート』からは、何といっても「リップ・ジス・ジョイント」だ。弾みながら疾走する爽快感がたまらない。
第9位「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」は、当然10位圏外へ放出。これで、一つ席が空いた。

どうしても10位以内に入れたいのは、『スティッキー・フィンガーズ』の「ビッチ」だ。「ブラウン・シュガー」で始まるA面が終わって、レコードを裏返すとB面の一曲目がこの「ビッチ」。「ブラウン・シュガー」と対を成す米南部サウンド志向期の代表的名曲だ。
今追加した2曲は、今回のレコ・コレ誌のランキングでは、なんと39位(「ビッチ」)と40位(「リップ・ジス・ジョイント」)というかなり下位の方に並んでいる。寂しい。
こんな感じで、曲を入れ替えて、順位を迷いながら調整すると次のようなことになる。

<私のストーンズ名曲ベスト10>

第1位 「ブラウン・シュガー」
第2位 「ビッチ」
第3位 「ホンキー・トンク・ウィメン」
第4位 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」
第5位 「ストリート・ファイティング・マン」
第6位 「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル(悪魔を哀れむ歌)」
第7位 「ギミー・シェルター」
第8位 「リップ・ジス・ジョイント」
第9位 「サティスファクション」
第10位 「ペイント・イット・ブラック(黒く塗れ)」

 よし、これをはがきに書いて投票だ。うまくいったら増刊号で会いましょう。

ところで今回のレコ・コレ誌(2012年8月号)の誌面で最も印象に残ったのは、再結成PILの写真の中のジョン・ライドンの姿。往年との激変ぶりがすごい。

2012年7月14日土曜日

レコ・コレ誌「ストーンズ・ベスト・ソングズ100」

「レコード・コレクターズ」誌の2012年8月号がいよいよ発売された。前号の予告で今号の特集が「ローリング・ストーンズ・ベスト・ソングズ100」であることを知った私は、自分なりに勝手にその順位を予想して、この発売を待っていたのである。
私のこの予想は第10位までで、ブログ上に発表しておいた。はたして、予想は当たっていたのだろうか。
おりしもストーンズの活動開始50周年とのことで、昨日はふつうのニュース番組でも、この話題が取り上げられていた。誰も彼もが昔からのストーンズ・ファンであるかのように、彼らのことを語っている。ほんとかよ。
まあそれはともかくとして、さっそく明らかとなった順位結果と私の事前予想とをつき合わせて検証してみることにしよう。

まず私の予想順位は以下の通り。その根拠については、次のページを参照していただきたい。「レコ・コレ誌次号特集「ストーンズ・ベスト・ソングズ100」を勝手に大予想

<ストーンズ・ベスト・ソングズ 私の事前予想>

第1位 「ブラウン・シュガー」
第2位 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」
第3位 「ホンキー・トンク・ウィメン」
第4位 「ストリート・ファイティング・マン」
第5位 「サティスファクション」
第6位 「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル(悪魔を哀れむ歌)」
第7位 「ギミー・シェルター」
第8位 「タンブリン・ダイス」
第9位 「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」
第10位 「ペイント・イット・ブラック(黒く塗れ)」

そしてレコ・コレ誌の結果は次の通り。( )内は私の予想した順位。

<レコ・コレ誌のストーンズ・ベスト・ソングズ100(10位まで)>

第1位 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」(予想2位)
第2位 「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル(悪魔を哀れむ歌)」(予想6位)
第3位 「サティスファクション」(予想5位)
第4位 「ブラウン・シュガー」(予想1位)
第5位 「ホンキー・トンク・ウィメン」(予想3位)
第6位 「ギミー・シェルター」(予想7位)
第7位 「タンブリン・ダイス」(予想8位)
第8位 「アンダー・マイ・サム」
第9位 「ユー・キャント・オールウェイズ・ゲット・ホワット・ユー・ウォント(無情の世界)」
第10位 「ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド(一人ぼっちの世界)」

まず順位がぴったり的中した曲は残念ながら一曲もなかった。しかし、順位はともかくとして、上位7位までは、予想した10曲から全部入っていた。いわば入選率は70パーセント。
しかも、順位が一つだけずれたのが3曲(「ジャンピン・ジャック…」、「ギミー・シェルター」、「タンブリン・ダイス」)、他の曲も順位の誤差は最大でも4位以内に収まっていた。
というわけで自分としては十分満足できる結果だった。

10位以下も含めてこのランキングでは、私が思っていたより全体的にデッカ時代の初期の曲が強かったようだ。私より年長(つまりそれだけ古くからのファン)の選者がけっこう多かったせいなのかもしれない。
「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」が第1位ということに異議はない。しかし、私が1位と予想した「ブラウン・シュガー」が4位とはねえ。「悪魔を哀れむ歌」や「サティスファクション」より下でいいのかなあ。デッカ時代強し。
また第8位と第10位の初期曲の10位ランク入りは、文字通り予想外だった。まあ2曲とも70年代以降もライヴで演っていたせいもあるのかな。しかし、この2曲が「ペイント・イット・ブラック(黒く塗れ)」(第11位)よりも上位とはちょっと意外。
第9位の「ユー・キャント・オールウェイズ・ゲット・ホワット・ユー・ウァント(無情の世界)」も、こんな上位に来るとは意外だった。仰々しくて私がきらいなだけかもしれないけど。でも、合唱団がはいるこの曲が、ストーンズの代表曲と言えるのだろうか?

私が10位以内に予想した曲で、圏外に散っていった3曲についてちょっとみてみよう。
事前に第10位と予想していた「ペイント・イット・ブラック(黒く塗れ)」は、第11位だった。うーん惜しい。初期曲の中では、「サティスファクション」と並ぶ代表曲と思うのだが。
事前第4位と予想した「ストリート・ファイティング・マン」が、まさかの10位落ちで第13位。この曲は、結果第2位となった「悪魔を哀れむ歌」や、結果第6位の「ギミー・シェルター」と重要度では同等の名曲だと思うので、この順位はちょっと納得できない感じ。
そして、事前第9位に予想した「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」は、なんとなんとの第46位。これは完全にやっちゃいました。そんなにいい曲とは思わなかったけど、バンドのテーマソング的な意味合いで、票を集めるのではないかと読んだわけなのだったが。でもやっぱりみんなもたいした曲とは思っていなかったのね。これは、完全に読み間違い。

それにしても、全体にみてデッカ時代の初期の曲が思いのほか多かったのにはちょっと驚いた。20位までにも、「ルビー・チューズデイ」(第14位)、「19回目の神経衰弱」(第17位)、「ラスト・タイム」(第19位)なんかが入っている。
しかし、第15位「シーズ・ア・レインボー」はかなり意外。ひと昔前だったら絶対入らなかった曲だろう。長い間無視されていたアルバム『ゼア・サタニック・マジェスティーズ・リクエスト』がサイケ再評価で見直されたせいなのか。

それに引き換え70年代中期以降の曲の影は、ものすごく薄い。まあ予想通りのことだけど。なにしろ10位以内の曲で70年代の曲は、71年の「ブラウン・シュガー」(第4位)と72年の「タンブリン・ダイス」(第7位)のみ。あとは、全部60年代の曲だ。
20位までみても、70年代中期以降の曲は、76年の「メモリー・モーテル」(第16位)と78年の「ミス・ユー」(第18位)しかない。それにしても、この2曲って、そんなにいい曲なの。

冒頭の活動50周年の話題にからめて言うと、このランキングの20位までの曲の内の大半(18曲)は、活動始めてから最初の10年間の曲ということになる。その後の40年間の曲はほとんどないわけだ。いくら長く活動しているとはいえ、これちょっと悲しくないかな。

以前にも書いたが、レコ・コレ誌のこのての曲単位のランキングの特集は、私には正直あんまり面白くない。しかし、今回は勝手に参加()させてもらい、十分楽しませていただきました。

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